第127話 難民ではないけども…


とりあえず、二十名程の解放奴隷は全て鑑定を終えて所有者がいない事が判明した。


しかし問題はまだあるのだ。


どう考えても戦争難民ではない30名…しかもこの町で軍務卿に殺されたゲインズ男爵家の方々…もう正直俺はお腹いっぱいだ。


俺はうんざりしながら、


「あの…皆様は戦争難民では無いですよね…」


と、問いかけると仕事が出来そうなオジ様が、


「申し訳ございません…

我々、ゲインズ男爵家に縁のある者にございます…

我が主がこの地にて罪を働き罰を受けて命を落とした事も解った上で恥ずかしながら保護をお願いしたく参上致しました。」


と泣いて訴える。


詳しく話を聞くと、無言の帰宅をした主人の葬儀が終わる頃に王都から兵士がやってきて、死んだ主人の罪状を読み上げた後に家財を全て没収し、戦争に参加した事のある配下の者は共犯として奴隷に落とされた上で連れていかれて、残された者達で保護を求めて軍務卿派閥の町を巡るが相手にされず。


移動する道中の村や小さな町で若いメイド達や計算が得意な者だけでも、商家などの使用人として勤め先を見つけて数を減らしながらニンファの町までやって来たとの話だった。


確かにベテランと幼子を連れた者が目立つ…

幼子を売り飛ばす等という発想が無かっただけ、まだまともな集団ではあるのだろうが断じて戦争難民では無い…元は軍務卿派閥の方々で、なんならまだ何かしらの工作員の可能性まで残されている。


『これは困った…』


と、悩んでいるとベッキーさんが頭の中に、


『マスター、元ゲインズ男爵家の長男は如何なさいます?』


と、忘れかけていた問題を追加で思い出させてくれた。


『そうだよ、そんなのがいたんだったね…』


と、うんざりしながらも俺はリーダー的でダンディーなオジ様に、


「で、ゲインズ男爵家に縁のある使用人さんですか?」


と俺が聞くと、オジ様は顔色を青くして、


「な、何の事でございましょうか?」


と上ずった声で返事をする…

まぁ、盗みに入った元主人の息子を盗みに入られた関係者に下手に差し出せばどんな扱い方をされるか解ったものでは無いのも解る。


忠義者と取るか、何か企んでいるので隠していると取るか…


『困った…』


と思いながら俺がオジ様を見つめているとナッツとセラさんが動いた。


子供を連れたおばちゃんと1人のおっさんに武器を突き付け、


「動くな!」


と、警告している…

そして、それを見た俺の目の前のおじ様はダンディーさの欠片もなく滝の様な汗を冬だというのに流している。


正直理解が追い付いていない俺は、


「説明をして頂けますか?」


と静かに聞くとかなり焦りながらダンディーだったオジ様は、


「お許しを!」


と謝りだして俺に、


「黙ってこの町で保護をして頂こうとしていた事は謝ります。

どうか〈パック〉様だけはお見逃し下さい!私の命を差し出しても構いません。」


と懇願してくるが余計に話が見えない。


落ち着いて話す為にナッツとセラさんに一旦武器を納めてもらい自己紹介から始めたのだが、俺の名を名乗った時点でダンディーなオジ様はこの世の終わりを見ている様な顔になり、ナッツ達に「動くな」と言われた二人はポロポロと泣きはじめる。


オジ様は地面に額を擦り付けながら、


「私は、トムと申します。

元はゲインズ家の執事をしておりました。

旦那様の後を追われた奥方様よりパック様を託され、あの二人は私が家族の様に信頼する配下の者にございます。

我が主がジャルダン家の至宝を盗まんと兵士に盗賊まがいの行為をさせ罰を受けたのは存じております。

なので、この町を治める辺境伯家の息子様、ニンファ準男爵様の配下の方々にもパック様の事を知られる訳にはいかないと黙っておりました…」


と洗いざらい話してくれたのだが、俺が想像していた以上に軍務卿の力は大きく国王陛下の力は弱いかも知れない事が判明した。


まず、事実がねじ曲げられている事…

ゲインズ家には盗みに入られた俺が捕まえた兵士を殺すと騒ぎ身代わりに男爵が殺されたと伝わっているらしい。


しかも、盗みの実行犯達は城の牢獄で自害…

それでも許せないと騒ぐ俺への賠償の為にゲインズ家の家財を押さえられたらしいが、俺はそんな事望んでないし賠償も貰っていない…

あと、複数名同時に城の牢獄で自殺…牢獄の警備がザルだったとしてもあり得ない!


しかし、もう俺が訂正しても信じて貰えるか解らないので、ここはご本人に登場してもらい、狙われたベッキーさん自ら投影クリスタルであの日の映像を見せながら説明してもらった。


流石に息子さんも含めた良い子のお友達には、あんな映像は見せられないので、その間に俺はゴロー達ガーディアンズに子供達の相手をお願いし、幼稚園生ぐらいのパック君は、小型ガーディアンがお気に入りの様で、カサカサ動く小型ガーディアンを追いかけたり撫で撫でしたりしている。


『無邪気だね…本当にあの目付きの悪いヤツの息子か?

同い年くらいの子供が転けたら走って行って慰めてるし…』


などと遺伝について考えているとベッキーさんから、


『説明が終わりました。』


との報告が入る。


ついでなので解放奴隷さん達にも、鎧姿の元主人を見せて、こんな感じの訪問があったその後に行われた強盗未遂だと話してくれた様で、元ゲインズ家の人間も元シーバ家の奴隷達も、『終わった…』みたいな顔をしている。


俺は、難民の受け入れが一段落したジーグ様達が戻って来たので状況を説明してから相談をして、その結果を皆に伝える事にした。


「えー、皆様は戦争難民ではありません。

なので、やはりニンファの町での受け入れは困難です」


と発表すると、静まりかえる五十名程は落ち込みながらも納得の表情を見せた。


しかし俺は構わず言葉を続ける…


「なので、希望者に限りますが…ウチに来ませんか?」


と告げると全員キョトンとしていた。


トムさんは、


「しかし、我々は…」


とか言っていたが、俺は正直面倒臭くなり、


「はいはい、もう反論は冬の間にユックリと聞きます。

それでも嫌なら春に少しお小遣いあげるから他の町に行ったらいい。

もう、寒いから皆も順番に風呂に入りな。

工事用の作業着ならば何着かあるし少しは暖かい格好になって下さい!」


と質疑応答の時間を終了し一旦ニンファの町で彼らを受け入れて貰う事にした。


ジャルダン村で五十名…マイホームのホールを解放したらいけるし、ニンファの町の住居が出来たら、ゲストハウスも村役場も戻せるから大丈夫だろう。


足りない物をナナムルで購入したら冬越しぐらいは問題ないな…と、考えながら町役場を目指し歩き、あのテカテカの軍務卿の顔を思い出しながら俺が吐いたタメ息は冬の空へと消えて行った。

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