第125話 小さな秘密の…


ニンファの町の発展の為に暫くこちらで過ごす事にしたのだが、追加の難民の方々の家を建てる為に大工さんや腕に覚えのある町作り経験者がフル回転で作業をしてくれている。


他の住人も、何かやりたそうにしているので狩りなどを提案したのだが、現在ジャルダン村にレベル上げに通っているチームとは別にニンファの女性陣が手持ち無沙汰のご様子である。


なのでこの寒さの中であるがニンファの町の新たな名物になればと、狩りをする人口が増えて最近沢山手に入る様になった肉を使いソーセージを作る事にしたのだ。


保管倉庫をニンファの町用にポイント交換したけど、倉庫頼みで保存食の技術が廃れてはイケないと思い始めたのだが料理自慢の奥様や元料理人のオッチャンが『やっと出番が来た』とばかりに張り切って、ジャルダン村の加工肉担当のノルさんを講師に迎え、相方のティナさんも、旦那のカモイさんとハリーさんが大工としてニンファに来ているのもあり夫婦でご出勤してくれて燻製の技術を教えてくれている。


前回も燻製小屋を作ってくれたハリーさんとカモイさんがニンファに居た大工さん達も引き連れて、あっという間に燻製小屋を建ててくれたので沢山の肉が順調に加工されソーセージやベーコン等が完成しこの寒い風で熱を冷ましつつ乾燥しては再び保管倉庫へと戻されていく。


もう、数日で手順を覚えたニンファの町の燻製チームはキャッキャと楽しそうに手を動かしてベーコンなどの仕込みをしているのだが、何故かこの日はミリンダさんまでニンファに来ており奥様チームで何やら楽しそうなのである…

俺は寝泊まりしている村役場に帰り、マスタールームに意識を飛ばしてからとある作業に入る…

それは、何故か俺や元料理人のオッチャンが近づくと、急に話すのを止める加工肉チームの奥様の内緒話を聞いてやろうという魂胆である。


だいたいの予想がついたヒッキーちゃんに、


「マスターも好きですね…」


とイヤラシイ笑顔を向けられた俺が、ヒッキーちゃんに、


「お嫌いですか?」


と俺は聞き返すと、彼女は、


「お好きですぅ~」


と言って、二人でメインモニター前に並んだ俺とヒッキーちゃんは盗み聞きを開始した。


隣で冷めた目でベッキーさんが見つめていたのだが今は我慢する事にした。


そしてミリンダさんがニンファに来た理由は、最近ジャルダン村に石鹸作りの研修兼、増産の手伝いに来ているお嬢さんと小麦農家の長男坊のランド君がどうやら怪しい雰囲気なので探りを入れる為にやって来たらしい。


「うっひょ~!」


と面白がっているヒッキーちゃんに、俺は、


「ねぇ、ランド君のお相手って?」


と聞くと、ヒッキーちゃんはモニターを操作して、


「こちらですマスター」


と言って、ランド君と二人して真っ赤な顔でモジモジ話しているお嬢さんの録画映像を流すと、興味が無いと思っていたベッキーさんが、


「あぁ、タタップさんの娘さんのカトリさんですね」


と参加してきた。


『なんだ、ベッキーさんも好きなんじゃん!』


と思いつつ俺は、


「なんで、急に二人が急接近したのかな?」


と呟くと、ヒッキーちゃんが、


「ミリンダさんが今それを聞き出してますよマスター!」


と報告してくれた。


監視機能だから気付かれないと思いつつも、俺達が息を殺してモニターを見つめる。


元牧場の娘のカトリちゃんは魔物の動きを予測する事には自信があり、前回行った狩り大会に参加したのだが、牛、羊、山羊など彼女の知る様々な魔物は魔物といえど所詮は家畜魔物であり、野生の魔物の殺意ある動きに対処出来ずにあわやという所を監視役として同行していたランド君が颯爽と現れて助けたらしい。


ランド君の畑作業で鍛えられた肉体に闘技場で培われた戦闘技術で、突進攻撃を得意とするダッシュボアという猪魔物をカトリちゃんを守りながら打ち倒したのだそうだ…

あとはもう、ヒッキーちゃんの見せてくれた村での様子に続くという事らしい。


『おぉ、これは冬の寒いニンファの町でかなりホットな話題だ!!』


さて、どうする俺…

タタップさんはニンファの養殖池と合わせて、来年から本格的に始動する牧場の責任者…

そのお嬢さんであるカトリちゃんとランド君の恋…


『これは覗き見…いや、応援したい!』


という事で、俺はジーグ様に相談に向かったのだがジーグ様は、


「キース男爵は村人の恋よりも、ご自分の結婚にもっと集中するべきでは?…」


と呆れつつも、ニンファの町の農業エリアの責任者の一人であるタタップさん家の問題である為に、娘の惚れたはれた問題をパパに報告するのも少し気が引けたが、色々ややこしくなる前にキッチリさせた方が良いとのジーグ様の判断もあり、タタップさんを町役場に呼んでお茶をしながら込み入った話をしようとしたのだが、町役場に来たタタップさんから、


「キース男爵様…娘が男爵様の村に住む事をお許しいただけませんでしょうか?」


と相談された。


聞けばタタップさんは既に、娘のカトリちゃんが命を救われたランド君にメロメロな事も知っており、石鹸作りを理由に連日ジャルダン村に行っている事も承知しているらしい。


「戦争で住む場所を失い、生きる事すら諦めかけていた娘がイキイキといかに彼が素晴らしいかを…

父上としてはその願いを叶えてやりたいのです」


と俺に頭を下げる。


ジーグ様は、


「私は娘を嫁に出そうとする親の心境は全く理解出来ぬが、色恋をしようとするのは安心して住める環境があればこそ、これは町を作ったからこそであり目出度い事かもしれん…」


と、言いながら目を瞑りウンウンと頷いていた…


そして最終的にジャルダン村の牧場の角なしとモコモコシープ、それに馬魔物達の飼育指導員としてカトリちゃんはミリンダさん達の住む家に引っ越して来る事になった。


これはミリンダさんからの提案であり、ミリンダさんもだがシュガーちゃんやサーラちゃんまでランド君にゾッコンなカトリちゃんを応援したいとの申し出だったのだが、これは新しい刺激を求めた秘密結社覗き見隊の活動を疑う俺はもしかすると心が汚れているのだろうか?…


まぁ、という事があり愛の狩人と化したカトリちゃんがジャルダン村の牧場エリアにマキバのカトリとして来る事が決定したのだ。


ランド君…君はもう逃げられないよ…

観念して大人しくラブラブの幸せカップルになるのだ。


知ってるよ、君がカトリちゃんが気になって仕方ない事も…何せヒッキーちゃんがマークして二人の様子を楽しんでいるのだから…

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