第121話 社交より大事なこと


今年も社交のシーズンがやってきた。


まずは、派閥の忘年会的な辺境伯様のパーティーに参加する為に俺はナナムルの町を目指している。


去年のパーティー終わりの時のままの無役の準男爵だったら不参加でも良かったが、今は難民救済事業を任命された男爵なので絶対参加しなくてはならないらしい…


『正直なところ面倒臭い…』


とも言って居られず、ジョルジュ様達がジャルダン村に石鹸や甘味などを買い付けに来た後で一緒に馬車の列に並び移動しているのだが、初めは作戦会議という名目でダイムラー伯爵様がナッツの操る俺の馬車に乗って来たのだが、休憩の度に違う人物が乗り込み乗り心地を確かめながら、ついでに、


「娘とはどうだ?」


みたいな漠然とした質問をしてきたりする。


そんなダイムラー家の方々が一巡すると、


「シーナ嬢とは仲良くヤってるのか?」


と、何を答えれば良いか困る質問をキラキラした瞳で聞いてくるジョルジュ様達ご家族が続き、最後には皆さん、


「王族に献上したので、一年は我慢したがやはりすぐにでも新型馬車を作ろう!」


という結論にいたり宿屋代わりにしている途中の町の館で両家は、


「村に鍛冶師を研修に出したい」


などと言ってくる。


ジョルジュ様には、


「ウチの馬車を作ったガルさんの長男のジルさんがサイラスにいるから、そこでも車体はすぐにでも作れますよ」


と言ったら、


「そうだったな!早速注文をこのパーティーの後で出そう。」


と騒いでいた。


ダイムラー様は我が家に蒸留装置の作成を習いに来た鍛冶職人さんを再び研修に出す事にしたらしく、俺は、


「ニンファの町で来年は蒸留酒や馬車の作成もはじめる予定ですから、研修先をニンファにして辺境伯様の派閥の方々の研修を受け入れますよ。」


と言っておいた。


そして俺はホークスさんその後、このパーティーの後に押し寄せるであろう派閥の貴族家からの研修生の受け入れ体制の打ち合わせをする毎日だ。


シーナさん達はこの事を見越してなのか、


「到着後にニンファまで転送をお願いいたします。」


と言っていたのかも…

試乗の度に代わりに他の馬車に乗せられて同棲生活をネホリハホリではたまったモノではないからな…


俺には馬車旅を薦めてシーナさん自身は転移を希望って、『ずっちーなー。』と思っていたが、正解だよ…デートの話を詳しく聞かれて大変だった。


『パーティー会場等なら話題を変えれるが、馬車みたいな個室ではキツイものなぁ…』


と、連日の馬車での会話に疲れ果てていた俺がやっとの思いでナナムルに到着すると、ユーノス辺境伯様にご挨拶をしてから昨年の様に料理人達からの味見大会が始まったのだった。


しかし、今年は1人ずつは勘弁してもらい、チーム分けをしたグループ毎に仕上げた料理を味見するという事であらかじめロッソさんにお願いしてある。


正直なところ毎年アレでは腹も持たないし、何よりコメントのバリエーションに困るから…

それに、ロッソさんの弟子達が数ヶ月練習した料理が不味い訳が無いので一種のイベント的な意味合いが強い。


味見が終了すると俺達は一路ニンファの町に移動し、ジーグ様が用意してくた休憩所で一息ついてからシーナさん達の転移を行った。


バーバラさんとセラさんは我が家のメイドとして来てくれたのだが、サーラちゃんはニンファの町の卵鳥ファームの立ち上げのために卵鳥達と転移してきた。


そして、ジーグ様の案内で町を巡りベッキーさんからも報告を受けながら予定していたナナムルの難民はすべてニンファの町にて受け入れが完了した報告と、数日前より他の領地からの難民が再び増えつつあり現在使っていない工房エリアの一部を難民キャンプ村として使っている報告を受けた。


俺達が、新たな難民の方々に話を聞くとどうも中央の貴族家の領地から、


「辺境伯の町で受け入れてくれるから出て行け!」


と、追い出された方々らしい…


「なんと非道な!」


と、俺は怒りを覚えながら、彼らに追い出された街の事を聞いていくと今度はホークスさんとジーグ様が怒りに震えだした。


何故なら、新たに増えた二百人ほどの難民は漏れなく軍務卿派閥の街から追い出されていたのだ。


ニンファまで来れたのが200だとしても、冬を前に住む場所を追われ途中の他派閥の土地に流れた者も、最悪長旅に倒れた者もいただろう…

可哀想なのは難民だけでなく、被害は何の準備もなく無理に難民を受け入れた街にも有る筈だ。


俺は街から追い出されて冬の備えも無い難民を見ながらジーグ様に、


「ジャルダン村から来客用の宿泊施設を移築させますので、とりあえず幼い子供と高齢者を冬の間だけでも暖かい寝床を提供してください。

寒くてキャップが難しくなれば残りの方も学校で寝泊まりしてもらい、学生は町役場の部屋を教室として提供して凌いで下さい。

大型の馬車工房と、蒸留酒工房の用意と合わせて今回、居住区を追加で建てましょう」


と提案するとジーグ様は勿論、ニンファの町の大工チームも、「待ってました!」とばかりに作業の準備を開始したてくれた。


それから俺は、マスタールームに意識を飛ばしてベッキーさんと共に、本当は少し複雑な作りの建物を予定していた工房や倉庫郡の設計を破棄して、再び豆腐建築の団地と、倉庫の様な四角い大空間の建物を2棟設計し直して見積もりをとる…

1日100ポイント入る様になり闘技場でも倒した魔物の取り分の販売ポイントでも差額が毎日プラスが出ているので将来的に商業地区にする予定地の何割かを居住区に作り替えてもポイントか足りる計算になった。


あとは、ニンファの町作りのプロの力を借りれば、200人の住居も何とかなるだろうし、余分に作った部屋も完成させてまだ増えるかもしれない難民を迎える準備も出来るはずだ。


そして、設計も終了しベッキーさんが建設の担当でヒッキーちゃんには石材の管理担当をお願いして、ニンファの町では名物になりつつある精霊による石の建物の建設がはじまった。


町の住人が投影クリスタルのベッキーさんに祈りを捧げる中、数時間で出来上がる車庫の様な箱が並ぶだけの集合住宅に、


「神に感謝を!」


と言いながら大工さん達が雪崩れ込み工事を開始した。


『本当にこのスキルをくれた神様に感謝だよ…たぶん見ている可能性が高いけど、今度メールで質問するときにお礼も書いておこう…』


と思いながら、ヒッキーちゃんに木材の製材をお願いしてからジーグ様と町を巡り、最後に商業地区の空き地にジャルダン村の村役場を俺達の宿舎として移築してバーンをはじめ長旅の疲れを癒す事にした。


しかし、あのテカテカの軍務卿の一派はろくな事をしない!…

あんな奴の派閥なんてどんな奴等が入ってるのか知らないが、ろくなもんじゃ無い!!

辺境伯領で難民救済事業をしているからって、そっちに全員追い出すか普通…この難民を生み出した戦争を率先してやってるのはオタクの派閥だろうに…

それに追い出すにしても普通は、こちらに連絡して受け入れの体制が整ってからだろ?!

本当に、参っちゃうよ、たまんないねぇ~!

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