第122話 パーティーという名の会議


今年の辺境伯派閥の年末パーティーは、さながら他の派閥の貴族を取り込む為の作戦会議の様であった。


来年より本格的に始動するニンファの町での馬車と石鹸と蒸留酒の工房に合わせて辺境伯派閥の各領地でも工房を立ち上げたり販売店を構えたりする段取りの相談や、他の派閥の注目を引くために派閥の奥様方や令嬢達はシーナさん達からヘアケアの方法を習っている。


既にこの数日でダイムラー家の奥方達の髪も艶々になっており、皆さんこれから行われる各地のパーティーでそれを見せびらかす予定であり、


「この髪の艶…この御手入れ方法を派閥の秘密にすれば、秘密を知りたい他派閥の令嬢達は辺境伯派閥に嫁入りしたがるでしょうし、奥方達は旦那の尻を叩いてでも辺境伯派閥に近付く様になりますわ!」


と、興奮している。


辺境伯夫人のアリア様まで、


「そうね、他の派閥には石鹸だけでも十分魅力的ですが、薦めてくる人間の髪が艶やかならば更に気になってしまいますわね。

出来るだけ御手入れに励んで、社交のシーズンに散々他の派閥の奥様に見せつけてやりましょう。

それと皆様、くれぐれも他の派閥の方には教えない様に幼い娘や使用人にも箝口令を敷きましょう」


と、ノリノリだ。


男性陣には、馬車を作る為の職人の研修の予定を決めながら、各自の領地でも寝かす前の蒸留酒を使い1~2年で楽しめる果実漬け酒の作り方の説明と試しに作ったブルーベリーやオランなどの果実漬け酒を並べてみると、ロッソさんがお酒好きの奥様方にミルク割りを薦めて大変喜ばれていたが、純粋な酒好きの男性陣は、


「面白い味だが…甘い…」


と、もうひとつの様だった。


しかし、その後果実酒に色々混ぜて実験していた酒好きチームが急にざわめきだすので俺は気になって見に行けば、彼らは果実酒をエールで割るという物凄く酔いそうな物を作り出していた。


フルーツの香りとエールの苦味、酒精もエールよりキツくなり微発泡もする…

しかも、俺がエールをキンキンに冷やしてみる様にアドバイスすると氷魔法の使い手がエールを冷やしてくれて、「濃い」だの「薄い」だのと言いながら酒好きはもうパーティーどころではない状態である。


そして食い道楽や甘い物好きの皆様は、今年の料理も大変気に入ったらしく、カッテージチーズ料理の指導の予約をユーノス様に申し入れている。


俺としてはナナムルの街に来る道中もシーナさんとの事を聞かれ、ナナムルに着けばユーノス辺境伯夫妻にシーナさんとの生活を質問され、最終的にはパーティー会場では自分の娘を売り込もうと狙っている奥様達からは、


「婚礼はいつ頃です?」


とか、


「義理の父上様の様な立派な貴族に…」


などと言いつつ、安易にシーナさんと結婚したら、ダイムラーパパの様に複数の嫁が欲しいでしょ?…みたいな探りを入れつつも、


「ウチの○○ちゃんは、裁縫が得意でして…」


みたいなアピールを受けて正直ウンザリしているのだが、有難い事にパーティー会場ではダイムラーパパがわざとらしく、


「息子よ!此方に来て飲んでみよ」


と、怪しげなカクテルを掲げると、娘を売り込みに来ていた奥方達の旦那が、『ヤバい!』とばかりにソソクサと奥方や令嬢を連れて帰ってくれた。


そんなパーティーの終盤には、かなりの奥様方は入浴に向かい、酒好きは酔いつぶれ、食いしん坊達は食いすぎて動けなくなっており会場はかなりカオスである…

しかし、ユーノス辺境伯様は手ごたえを感じているご様子で、


「昨年の派閥のパーティーを知っているメンバーがこの様になるので有れば、国王陛下をお呼びしたパーティーにも参加していない貴族達は、既に噂ばかりを耳にしていて興味を示したが最後…抜け出せなくなるな…」


と満足そうにされている。


すると、ユーノス辺境伯様が急に俺に向かって、


「して、キース男爵は、明日以降どうするのだ?…村へと戻るのか?」


と聞いて来たので、俺は、


「来る途中の村などでは、それほどの変化は有りませんでしたが、ニンファの町には新たに難民が200人近く増えておりました。

話を聞けば、軍務卿派閥の土地より追い出されたと…」


と報告すると、ユーノス様は、


「うーん…」と唸った後で、


「軍務卿派閥か…」


と呟いた後に、


「エルグ!」


と、長男を呼ぶとユーノス辺境伯様は、


「今期の社交のシーズンで、軍務卿派閥と対立関係の派閥と、軍務卿派閥内部に不満を持つ貴族を探れ!」


と、指示をだしていた。


すると、王都にて辺境伯邸を預かるエルグ様は、


「既に昨年の一悶着から軍務卿の周りをしらべておいたよ」


と言って書類を渡した後に、彼はマザコンだけの駄目なキャラかと俺は思っていたのだが、なかなかどうして案外仕事は出来るっぽい報告を始めた。


なんでも王様達の追及も虚しく、ラースト軍務卿に殺されたゲインズ男爵に全ての罪を被せて男爵家はお取り潰しの上で領地は没収処分となり事件は幕を引いたらしい…

そして、一緒にベッキーさんを騎士に変装して買いに来た子爵は、目の前で行われた非情な尻尾切りに軍務卿から距離を置こうと動いていた矢先に、今年の戦争で戦死したそうだ。


もう、話だけでもキナ臭いったらありゃしない。


しかも、調べるとこれまでも派閥の下っぱや距離を置こうとした貴族の幾つかは何故か戦死をしているらしいのだ。


そして、そんな話が進んで俺は知りたく無かった様な報告を聞かされた…

それは、俺の生まれたナルガ子爵家も父上の代に急に軍務卿派閥に入っており出向いた戦地にて、おおよそ敵も来ないであろう砦を任されたのにも関わらず敵の本隊とぶち当たり兄上共々討ち取られたのだそうだ。


もう、何かあるとしか思えないが…

そんなことよりもエルグさまの報告の中で一番気になったのは、成人を迎えた腹違いの弟のマイアが当主として来年の戦に出陣するらしいという報告であった。


当主として戦争に行くのは仕方ないし、普通の事かも知れない…しかし、軍務卿の周りに怪しい噂が有る以上、なんだかんだあったが俺に金まで渡して逃がしてくれた弟をみすみす送り出すのも違う気がする。


俺は、その後で何を話したのかあまり覚えていないが、ただ、『弟に何かしてやれないか?』とそればかりをグルグルと考えていた…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る