第120話 ダイムラー家の到着


三人の騎士さんは村での休暇を楽しみ闘技場を使用しては手に入れた素材で武器をガルさんやニルさんに注文してくれている様だ。


闘技場で魔物の転移を一回使うと、落とし穴にすっぽり入るモノで5ヒッキーポイントかかり、大型のモノは15ヒッキーポイントかかるので、皆には狩った獲物の1/3程度を納入してもらう事になっている。


一匹を村で解体する場合は欲しい素材を取った後の肉等を村に納めてもらい、保存食や加工品にするか食用に向かなかったりする場合は販売機能でポイントへと変えて転移に使ったポイントの補填にまわす。


ギルドに売る場合は三匹貯めてから一匹を村に納入や他の魔物をかわりにすることも可能である。


まぁ、そのあたりはヒッキーちゃんが転移ポイントの補填にあてるだけの魔物のバランスを調整してくれているので赤字にはなって居ないようで助かっている。


村の冬ごもり用の肉は常にストックがある状態な上に、勤勉なハンターと化した三人の騎士が毎日、複数回闘技場を使い使用料代わりに獲物を納めてくれているし、この三人は冒険者ギルドに獲物を納品した分のお金も村の鍛冶屋などで散財してくれるので、お客様として食事と寝床を用意しているがそれ以上に儲けさせてくれている。


本人達も、レベルが上がり装備も強くなり武器や防具の補修や整備も村の中で出来るので10日程の時間を目一杯使い、朝一で転移小屋を使い冒険者ギルドで買取依頼を出して翌日決済にして村に戻り、それから狩りをして風呂に入り、暗くなれば村のオッサンチームと晩酌という楽しい毎日を過ごしておりダイムラー家の皆さんが来た時にはあからさまに残念そうな顔をしていた。


ダイムラー家の皆様は今晩はウチの村で過ごして、明日ジョルジュ様と合流して派閥のパーティーの為にナナムルに向かう予定になっている。


本当ならば転移ですぐであるがシーナさんから、


「近隣の村や町を見るのは大事ですよ」


と、アドバイスを受けたのだ。


彼女は最近ホークスさんからも色々習っており、俺なんかよりもよっぽど領主に相応しい様な知恵や視点でサポートしてくれる。


もう、貴族関係の事はホークスさんとシーナさんの言うとおりにすると俺は決めているので明日から四日間は馬車の旅の予定である。


さて、到着したダイムラー家の皆様は石鹸やクッキーなどの焼き菓子やキャラメルを大量購入している。


業者かな?ぐらいの勢いに驚いていると、ダイムラー伯爵の第一夫人エレオノール様が、


「キースさんお忘れですか?

今年からが派閥の貴族をあげての勢力拡大、影響力拡大作戦の本番ですわよ!!」


と意気込んでいる。


俺は町作りなどですっかり忘れていたが、今年の社交のシーズンで奥様方は石鹸を使い他の派閥の奥様を取り込み、男性陣営は酒を使い酒好き領主を…

そして、トドメは研修を終えた料理人達の料理で胃袋を掴み辺境伯爵派閥の勢力を伸ばすというある種の戦争の計画があったのだ。


俺は、


「石鹸も酒も、来年はニンファの町でも生産を始める予定ですので、ダイムラー伯爵領でも扱える様に…」


と話していると、


「シーナお姉さまだけズルいです!!」


と、姉にライバル心を燃やしているエトランゼちゃんが騒ぎだした。


奥様方が、


「おやおや、どうしましたか?」


と集まるとエトランゼちゃんは、


「お姉さまだけ、こんなサラサラで艶々の髪を…なんですの?!」


と、何故かご立腹の様子で、


「なんですか?」


と集まる村人やバーバラさんを見た瞬間に、さらにエトランゼちゃんは、


「住民の皆さんもですの?えっ、バーバラまで!

何なんですの!秘密を教えて下さいまし!!」


と暴れている。


俺は、少し呆れながら、


「シーナさん…すみませんが、石鹸シャンプーの手順とワインビネガーリンスや蜂蜜・卵・オリーブオイルのヘアパックのやり方を教えてあげてください。」


とお願いして、C子にお風呂の準備を頼むとエトランゼちゃんだけではなくて奥様方もぞろぞろとお風呂へと移動してしまった。


『まぁ、任せて大丈夫だよな…』


と、俺はダイムラー伯爵様に紋章のお礼を伝えに行くと、ダイムラー様はなぜか馬車から大剣を担ぎながら出て来て、


「キースよ、闘技場とやらに案内をたのむぞ!」


と、ワクワクした笑顔で俺を待っていた。


散々村での自慢をしたらしい三人の騎士さんはダイムラー伯爵の隣で少し気まずそうにしていたが、


「では、一緒に参りましょう。」


と、俺が了解すると騎士の三人はホッとしていたようだった。


確かにあんなにワクワクするまで煽って、俺が「駄目」って言ったらダイムラー伯爵様に何されるか解らないもんね。


御一家の警護として来た他の騎士達も連れて闘技場に到着するとダイムラー伯爵様は、


「この三人が手こずった相手をまずは頼む」


と言って階段を降りて行った。


『まずはって何戦する気だよ…』


と、俺は呆れながらも三人に、


「何が良いかな?」


と、相談すると三人は悪い顔をして、


「アイツをお願いします。」


と言い出す。


彼らのいうとは、ヒポポグリフという、小型のグリフォン〈ヒポグリフ〉と一字違いで大違いな翼を持ったカバの魔物である。


飛ぶというより何かしらのスキルのある羽で体を軽くして加速しながら体当たりして、インパクトの瞬間に羽のスキルを切って全体重と速度を合わせた一撃を放つ厄介な魔物である。


俺はヒッキーちゃんに


「湿原からカバちゃん一匹お願い」


と注文すると、


「送料15ポイントになります」


と、投影クリスタルに宅配業者コスのヒッキーちゃんが現れた。


「それでお願いします」


と俺が言うと一旦マスタールームで対戦相手を探していたヒッキーちゃんが投影クリスタルに戻ってきて、


「おっきいのと、ふつうのが居ますね。」


と、どちらにするか聞きいているのだが、三人の騎士が


「是非、デカいので!!」


とシンキングタイム無しで注文したのちに、闘技場で軽く柔軟体操をしているダイムラー伯爵様に、


「将軍様ぁ、ヒポポグリフが来ます。ご準備を!!」


と叫ぶ。


ダイムラー様は、三人の言葉で、


『ヒポグリフが来る!?』


と勘違いしてあわてている。


それを見てケタケタ笑う三人を見て、


『後で知らないぞ…』


と、俺が心配しながら見ていると、虎バサミに前足を挟まれたヒポポグリフが闘技場に現れる。


俺が、


「足枷代わりの罠を外しますよ」


と闘技場の上から叫ぶとダイムラー様は思っていた魔物で無いことに一瞬動揺したが、すぐに三人の小さなイタズラだと気がつき、


「何時でも良いぞ!むしろ早くしてくれ!!」


と、少しイライラしていた。


『ヒポグリフと聞いて少しビビったのを部下に笑われて、出てきたのが羽の生えたカバだから、まぁ、おちょくられたと思うわなぁ…俺が考えたイタズラではないですよ…』


と思いながらも虎バサミを回収すると、カバは羽をバタバタさせて、飛ぶわけでもなく浮くわけでもなくダイムラー伯爵に向けて走り始める。


しかし、迫り来るカバの一撃を真っ向から受け止めようとするダイムラー伯爵は流石は将軍というだけはありあの巨体の体当たりを受けきり止めて見せた。


ダイムラー伯爵は、


「良いぞ、良いぞぉぉぉ!やるではないかぁぁぁぁ!!」


と楽しそうにカバ君と戯れている…

俺には少なくとも『ダイムラー将軍は遊んでいる』と見える程に圧倒的な力の差がある様に思えた。


ブンブンとデカい武器を振り回し高らかに笑いながらカバを刻む姿に、


『俺、アレと手合わせしたんだよね…

全然本気じゃ無かったんじゃないかな?…本気じゃ無くても怪我人続出って、おっかない…二度と手合わせしないぞ!』


などと考えて青ざめる俺だった…

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