第119話 届け物と新たなシンボル


秋も終盤の肌寒い朝、ダイムラー伯爵家より使いの三名の騎士が村にやって来た。


この世界の戦争は収穫や冬ごもりの事もあり秋頃には停戦となるのが暗黙のルールらしく、ユーノス軍を指揮するダイムラー伯爵様も帰還して、ようやく我が家の紋章の手続きが完了した様で、本日何通かの手紙と共に届けられたのだ。


そして、届けられた木箱からは綺麗な刺繍で仕上げらた旗が入っており、酒樽とヘルタイガーという紋章が現れた。


蒸留酒とヘルタイガー…確かに我が家に縁の有るデザインだが、大酒飲みの呼び方(大虎)みたいに見える…

一緒に紋章を確認していたホークスさんに、


「なんか、大酒飲みっぽいですね…大虎で…」


と、感想を伝えるとホークスさんは首を傾げながら、


「ん?虎は酒など飲まないでしょう?…」


と不思議そうにしていた。


あぁ、良く考えりゃ肉食の虎が加工品の酒を飲むとは思えない…

何で『大虎=酒飲み』なのか?と、気になったとしても、前世で学んでいない事までは検索しても出て来ないが、『大虎=酒飲み』という概念はこちらでは伝わらない事だけは理解した。


まぁ、既に紋章官等が手続き済みで変更も出来ないし、我が家の印としてはぴったりなのかもしれない…

それから俺は、お使いの騎士の方々に託す為にダイムラー様宛の手紙を書き始めていると、シーナさんが部屋にやってきて、


「あの~、キース様…」


と、申し訳なさそうに話しだす。


俺は手紙を書く手を止めて、


「どうしたの?シーナさん。」


と、聞きながらシーナさんを見ると可愛らしくモジモジしたシーナさんが、


「父からの手紙で、10日ほどしたら遊びに来るらしいです…

〈一緒に年末の派閥のパーティーに行くので、すまんがお前のに、それまで騎士の三人を空き地にでもキャンプさせておいてくれる様に頼んでくれ…〉

と、書いてありまして…」


と言っている。


俺は、村に掲げる紋章の複製や馬車への刻印の為に出す注文書を作っているホークスさんに、


「ダイムラー様がいらっしゃるらしいから、三人の騎士さんの宿泊場所と、お出迎えの準備をお願い出来るかな?」


と頼むとホークスさんは、


「三名の騎士の方々には現在、旅の疲れを癒して頂く為に大浴場に案内をしております。

この間に、セラに村役場にベッドを用意させておきます。」


と、テキパキと対応してくれたのだが、


『俺の手紙は無駄になってしまったな…』


と、ほぼ書き上がった手紙は破棄することになった。


そして、その日の午後三人の騎士達は風呂に入ったにも関わらず、現在、血まみれになり剣を振るっている。


彼らは、今回の戦で活躍してバカンスとしてダイムラー伯爵様達が来るまでの10日間お休み扱いで、三人で冒険者みたいに古の森に入る予定だったらしいのだがシーナさんやバーバラさんに、


「古の森には三人では勝てない魔物がゴロゴロしてるから、安全に戦える闘技場にしなさい。」


と言われて午後から三人仲良く楽しく狩りをしているのだ。


俺としては1日で貰える滞在ヒッキーポイントも増えて、持っているポイントと合わせて範囲超拡大にガッツリ振って、古の森の端の辺りにもかなり敷地を広げる事ができ、鑑定スキルでも手に入れて獲物を広範囲で探して、強さや名前をマップで確認してから罠にかけて闘技場に連れて来れるようになり、村の子供達がボウガンで安全圏から食べ頃のタックルボアという軽トラサイズの猪を倒すのを見て騎士の三人も、


「あれを倒してみたい」


と言い出してから、彼らは現在本日4回目の闘技場の順番を楽しんでいるらしい…

村人と交代しながら徐々に敵の強さを上げて、今はウッドイーターというビーバーの魔物をその前の順番で倒した獲物の返り血にまみれのまま立ち向かう三人の騎士達はかなりの苦戦を強いられている。


それもそのはずで村人は虎バサミに麻痺ガスやボウガン、最後にはバリスタでも使用するが、彼らは落とし穴などの罠から転移させたフルパワー状態の魔物との死合いを楽しんでいるのだ。


親方達も見せ物代わりに騎士の戦いを楽しみ、


「しっかりぃー、騎士の旦那ぁ、ソイツは脇腹が弱いですぜー。」


等と声が飛んでいる。


すると、騎士の一人はウッドイーターから距離を取り何やら集中を始める。


残りの二人がウッドイーターの相手をして時間を稼ぎ、そして次の瞬間、溜めから放たれた騎士の一撃はウッドイーターの脇腹に突き刺さり燃え上がった。


「うぉっ!」っと驚く俺にシーナさんが、


「マジックエッジですわ」


と、教えてくれたのだが、「凄い!」と驚く反面、


『魔法か…俺には縁の無い技か…』


と、少しがっかりした。


魔法適性があれば、あんな技を繰り出して一流冒険者としてブイブイいわせてたかも知れないのに…と、落ち込む俺の気持ちに気が付いたのかシーナさんは耳元で、


「でも、キースさんの方が凄いですよ」


と優しく囁いてくれた。


嬉しくて一瞬ウルっときてしまい、心の中で、


『惚れてまうやろぉぉぉぉ!』


と叫んでいたのは村人の前なので黙っていたのに、何故か皆が生暖かい目でこちらを見つめてくる…


『もしかして俺は、顔に出やすいのかも知れない…』


と、俺が一人で考え込んでいるとサーラちゃんから、


「村長の凄さを見せる番だよ。

シーナお姉ちゃんも村長のカッコいいところ見たいでしょ?」


と煽られてしまった。


しかし、ここで行かねば男が廃る!

ナッツと二人で新装備を身に纏い、俺は闘技場へと階段を降りていくのだった。


この装備はヒッキーちゃんとベッキーさんが手分けして、空き時間で岩山や古の森などをサーチしまくり集めてくれた様々な鉱石を使い、ガルさんとニルさんが作り上げた最高傑作、イビルアイビーのコアを使った魔合金の軽鎧である。


魔素と呼ばれる大地の魔力が濃い地域の大地で精製される魔鉱石といわれる希少金属を混ぜた魔鉱鉄と呼ばれる合金がベースの鎧で魔法攻撃や属性攻撃耐性があり、鋼よりも軽さと強度がある上に例のコアが練り込んであるので攻撃力と防御力が微上昇と速さ超上昇効果が付与されている。


そして武器にも同じ合金を使い、ナッツは片手剣とナイフで、俺は盾とショートソードを装備しているのだが、魔鉱ベースの装備の為に黒光りしているので、パッと見カッコいい逸品なのだが、スケボーサイズのGの能力を蓄えたコアの効果でスピードが上がっていると知ってしまった俺はこの黒光りした鎧が違った物の象徴みたいに思え身に纏う度に凄く複雑な気持ちになるのであった。


デザインは最高なのに…

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