第117話 汚染物質浄化作戦


監視機能で虫が群がるエリアを確認して、スッポリと隠せるほどの円錐形…というか石造りのパーティーで被る三角帽子のような物が壁生成で仕上がり、松明も配達機能で燃えたまま送れるのが判明した…

石造りのパーティー帽子のてっぺんには煙突としての穴があり、底近くの部分には小さな通気孔が等間隔に空いている。


「よし、準備は整ったぞ!」


と意気込む俺は村人には内緒のままこの作戦を始めることにした。


サポート役にはヒッキーちゃんと、

モニター監視役にベッキーさんと万全な布陣でマスタールームのモニターに三人並び、もしもの時用にイチロー達と極秘任務要員にA子達にもスタンバイしてもらっている。


最終確認で見る例の汚染物質を封印した岩には虫を狙って来た鳥のフンに種が混ざっていたのか西の森ではあまり見ない太い蔦が巻き付き、よく分からない花まで咲かせている。


花の周りをブンブンと飛ぶハエや蜂…

封印の岩に群がりカサカサとしているGやダンゴムシなどの黒い波…

モニターのマップには敵を示す赤い点が密集し過ぎて、1つの大きな点になっている。


実際の映像を見た後ではあの無数の赤い粒々の集合体ですら、『うへっ、見たくない…』と体と心がゾワゾワっと拒否を示す。


そして、


「殲滅するぞ!」


と俺は誓いの言葉を口にして作戦は開始された。


まず、俺が石の三角帽子を赤い点がスイミー状態になっている場所の座標に配達機能を使い飛ばす。


モニターを確認しているベッキーさんの、


目的地に到着!」


との報告に、ヒッキーちゃんは追加で交換した麻痺ガスの罠を合計4つ、石造りの帽子の内部の座標に配置し、同時に俺は、資材倉庫にパンパンに保管してあるウッドチップを配達機能で帽子上部からの中へと詰め込み始めた。


煙突代わりに空いているの三角帽子のてっぺんから凄い勢いで降り注ぐウッドチップの雪崩は、光を目指して飛ぶ虫を押し返し、その重みで麻痺ガスの罠を発動させる。


ベッキーちゃんの、


「罠の発動を確認!」


との報告で、俺は一旦ウッドチップの投入を止めて、


ヒッキーちゃんは用意して有った岩を三角帽子の先端に配達して蓋をして、ガスの充満を待った。


モニター越しに聞こえてくる、

「カシャカシャ」とも「キシャキシャ」とも聞こえる、小さな空気穴をこじ開けようと石を引っ掻く音がしばらく続く…

もう、音だけでも鳥肌を通り越して蕁麻疹が出そうである。


鳥肌より高級なオーストリッチ肌になりそうな自分に、


「恐れるな俺の心!」と励ましながら待つこと数分、いっこうに「カサカサ」音が鳴り止まない…

するとベッキーさんが、


「マスター、モニターをご覧下さい!」


と慌てて報告するので、

配達用のマップにしていたモニターから監視カメラの映像に切り替えると、石造りの帽子の通気孔から何かの蔦がウネウネと意思を持って暴れている。


ヒッキーちゃんが、


「マスター、ヤバいよ植物魔物だ。

麻痺ガスが効かないよぉ~!

あぁ、帽子の穴を広げようとしている!?」


と騒ぐ…確かに通気孔の近くに亀裂が入りはじめている箇所が俺の前にあるモニターでも確認できる。


あの帽子を割られでもしたら作戦も投資したヒッキーポイントもオジャンになる。


『それだけは避けなければ!』


と、焦る俺は、


「作戦第二段階に移行!」


と指示をだし敷地内回収で帽子の上部を蓋していた岩を退けると、ヒッキーちゃんが阿吽の呼吸で村人に気付かれない様に、暖炉などで薪を大量に燃やしているA子達から火の着いた薪を石作りの帽子の内部へと転送する。


残留した麻痺ガスに引火し、一瞬火柱が立つと俺は麻痺ガスの罠を回収し、ヒッキーちゃんは資材倉庫からウッドチップを引き続き雪崩込ませる。


ベッキーさんが監視しているモニターには、下の通気孔から伸びる蔦が空気の通り道を遮り、薪からウッドチップに燃え広がりつつある火の勢いが上がらない様で、帽子の先端からは何とも言えない色のくすんだ煙が立ち上る。


ヒッキーちゃんが、


「ウッドチップ充填完了、通気孔の確保にイチロー達を出動させます」


とのナイスな判断に、


「宜しく!」


とだけ返し俺も監視機能で帽子の状況をモニターを見つめる。


すると、武器を手にしたイチロー達が配置につき、イチローとジローは通気孔から生えている触手の様な蔦を伐採するために、ヘルタイガーの魔鋼の大剣と巨鎌を振るう。


サブローは槍の様に地面から飛び出る邪魔な根っこをモグラ叩きの様に魔鋼のハンマーで叩き、シローは帽子の範囲からは外れた位置に居たらしい虫魔物が、楽園への侵入者を排除しようと襲ってくるのでイチロー達を守る為に小型ガーディアン達と協力し帽子の外を動き回る虫魔物を蹴散らしている。


よく解らない植物魔物はかなりの大きさだったのか、石造りの帽子の先端からもウッドチップを掻き分けて伸ばした蔦が何本も阿波おどりの様に暴れている。


「俺も出る!ヒッキーちゃん転移宜しく!」


と指示を出してマスタールームから自室に戻り、使い慣れた冒険者装備のまま休んでいたロッキングチェアから立ち上がり、周りに何もない場所に移動した瞬間に俺は玉ヒュン感覚に襲われて戦場へと出撃し俺は盾とショートソードを構えてまだ無数にある塞がれた通気孔の解放へと向かう。


敵は穴から出た蔦を切ると痛みが有るのか一瞬蔦を引っ込め、穴から空気が流れ込み中の火力が上がり蔦の本体を焼き始める。


しかし、相手は切られた痛みを目印にしているのか次の瞬間に地面から槍状の根っこが襲ってくるのだ。


イチロー達のヘルタイガーの魔鋼装備は大丈夫みたいだが俺の装備は愛着もありまだ成長期だからという事を理由に鋼ハサミの装備を手直ししているモノで、植物魔物の根っこの槍の攻撃で変形し直撃を避けてもジワジワとダメージが通ってくる。


盾で弾き鋼ハサミのショートソードを振り抜くが、根っこの槍を斬る度にあからさまに切れ味が低下しているのが解る。


俺は、


「ヒッキーちゃん!俺の部屋から槍の配達ヨロシク!!」


と叫ぶのとほぼ同時に目の前に何時ものトドメ刺し用の愛用の槍が現れる。


武器を槍に持ち替えて通気孔の確保を続けること約一時間…

蔦の本数も根っこ槍の本数も少なくなり見上げる巨大な三角帽子からは煙ではなくて、ゴーゴーと火が揺らめいている。


そして帽子の中から、


「キィィィィィ!!」


と、古いドアの軋むような断末摩が聞こえると地面からイキり立つ根っこ槍がグニャリと萎えて、ヤツが逝った事を教えてくれた。


ついでにヒッキーちゃんのファンファーレも鳴り響いたので、


「終わったか…」


と呟きながら斬り倒した蔦を保管倉庫に回収して、名前を確認すると、


『イビルアイビー』


と有った。


俺は、


「ベッキーさん、悪いけどイビルアイビーっていう植物魔物の検索お願いできるかな?」


とお願いし、少し休憩をはさみながらたまに飛来する虫魔物を倒していた。


しばらくしてベッキーさんから


『情報が集まりました。

マスターの幼い頃に読まれた書物から果実を鳥魔物に食べさせて広がる植物魔物で、近づいた魔物に蔦で絡み付き、根で串刺しにして体液を吸い育つようです。

魔石とは別に体内に獲物の体液から摂取した相手の特性等を溜め込み結晶化させたコアと呼ばれる金属の様な物が装備の素材として使われる大変レアな魔物です』


と、教えてくれたがゴーゴーと音を発てて三角帽子のてっぺんから燃え盛る火柱を見ながら、


「そっか…残念、レア素材がこんがり焼けて灰になってるんだろうな」


と、落胆していると、ベッキーさんから、


「マスター、ご安心をコアは熱により形状は変化しますが、溶けて無くなったりは致しません。

ただ、その他の素材や魔石、虫魔物の死骸は灰になってしまうと思われます。」


と、教えてくれた。


俺は、


「なら、問題なしだね、作戦終了ぉ~!」


と宣言し、この後できちんと村人達に鳥魔物を集める原因を作ったことを謝罪する為に村へと戻った。



結果、皆には少し呆れられたが、


「なら、今いる鳥や虫を倒したら居なくなりますね」


と言って、村の皆が武器を持ち出してる。


頼もしく思うと同時に、


『村人がドンドン武闘派になっていくな…』


と、少し不安にもなる俺だった。

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