第116話 害鳥問題が発生中


村から研修生組もロッソさんも居なくなり村が少し広く感じてしまう。


村自体は白や茶色に黒などモコモコした毛に覆われている羊の魔物が10頭と、大工の親方達のおかげで、新しい家も増えてきたのだが、やはり人間が少なくなるのは気分的に寂しく感じてしまう。


しかし、寂しがってばかりも居られない。


収穫の時期が始まるのだ!

既に収穫を終えた夏野菜の畑はジャガイモ畑へと変わり、小麦畑は村として初めての収穫が始まっている。


脱穀はどうするのかと心配していたが、流石は小麦粉農家のエリックさんが既に全て手配して、ガルさん親子やハリーさん達が用意してくれていて、鉄製の巨人用の櫛の様な千歯コキで脱穀しているのを見ていると、昔飼っていた猫のノミ取りを思い出してしまった。


そのあとは、から竿という後ろがタコ糸で繋がっているタイプの菜箸のお化けみたいな棒で、千歯コキでも落ちなかった物をシバきまくって脱穀の仕上げをしている。


あそこまでしないとダメなのか…と感心しながらも、今年の冬のバーン達の敷き藁は少し柔らかいかもな…などと思いながら俺は初めて間近で見る脱穀作業を眺めていた。


しかし、この実りが増える季節に、村で少し困った事が起こっている…それは、ナッツとガーディアンチーム 対 鳥魔物の攻防戦だ。


俺のスキルで、侵入する魔物の監視や警報音による撃退はできるが、頭の良い種類の鳥魔物は慣れてしまい驚かなくなるし、俺が使える罠は基本的に地面に居る奴を対象にしているようで、唯一飛んでいる奴にも使えそうな弓矢の罠は村で使うには流れ矢が怖くて使えない…

ほとんどシローの弓矢と小型ガーディアン達の小石空気銃だけが頼りになるが、小型の鳥魔物だけならばそれで良い…

しかし、そこそこ大きい奴には火力不足で、中型以上の鳥魔物は村の作物で、色々と美味しい思いをしたらしくナッツのオランを襲い、それを妨害されると狙いを養殖池のマッスルトラウトに切り替え、かっ拐ってしまう。


翌日養殖池で隠れて敵討ちを狙うナッツの裏をかいて今度はオランを何個かヤられたみたいで、終いには、

怒り狂ったナッツがヒッキーちゃんに頼みバリスタまで持ち出して、やっとの思いで〈泥棒大ガラス〉という前世で知っているカラスの三倍ぐらい有りそうな宿敵を倒したのだが、今度はカラスが居なくなったからかと、数の暴力で畑を荒らす〈軍隊鳩〉という厄介な奴らに目を付けられてしまったみたいで、


「デーデーッ、ホッホォー!」


と朝から奴らの合唱が聞こえる。


ガーディアンズの働きで作物に直接的な被害はないが、しかし奴らが腹いせに落としていくフンに村人全員が難儀する羽目になっている。


こんなに鳥の楽園になって居るの事に俺は少し心当たりが…無いこともない…

多分…いや、確実に俺の色々なピタゴラ装置のせいだ。


競争相手や捕食者も少ない森で虫魔物が大発生し、鳥魔物が安全で食糧豊富な森に移り住み、そのうちに美味しい村の作物に目を付けたという流れだろう。


もしかしたら去年のグリフォンが西の森の主だったのかも…という可能性を考えれば、蹴散らす捕食者すら居ない状態…

考えたく無いが、因果応報とはこの事かもしれない…

やはり世界の事象はどこかで繋がっているのだ。


しかし、毎日の様に怒り狂い空に向けてバリスタを放つナッツを俺は相棒として見ていられない。


「悪臭は元から断つしかないか…」


と、ため息混じりに呟く俺は、あの汚染物質を一旦掘り出し、有り余るウッドチップで燃やし尽くすことに決めた。


しかし、村の皆に手伝って貰うのは少し違う気がするし、ナッツは収穫前のオランの側から動かないだろう。


困った俺は、マスタールームへ移動して色々と作戦を練っているとヒッキーちゃんとベッキーさんが、俺の尻拭いの為に知恵を貸してくれた。


「どうやってあの失敗作を熱処理するかだな…樽を掘り返すにしても虫が邪魔だし…」


と悩んでいると、ヒッキーちゃんは、


「どうしたんだいマス太君?

なんだって!不法投棄で埋めた物体エックスを秘密裏に処理したいだってぇ!」


と嬉しそうに、どら焼きが好きそうな声をだしているが、しかし、コイツ便利な道具は出してくれない。


俺は、主にベッキーさんに向かい、


「掘り返して処理したいけど、沢山の虫が集まっているし…どうだろう?大量の魔物避けの香を焚いたら逃げるかな?」


と、相談すると、ベッキーさんは、


「マスター、その作戦は推奨致しかねます」


と答えてくれた。


理由は、まず範囲が広くてお香の効果が弱まり物凄く大量のお香を必要とする事、

次に、散らした虫魔物が村に入り込む可能性があること、特にこれから寒くなれば尚更暖かい建物の屋根裏や軒下にGなどが…考えたくもない!

ベッキーさんは、


「マスター、石壁を生成して中にウッドチップを満たして燃やし、時間を掛けて虫魔物ごと地面を加熱してはどでしょう?

最悪、虫魔物が死滅してから改めて土壌を処理すればと愚考します」


との案をだしてくれたのだが、ヒッキーちゃんが頬っぺたを膨らませながら、


「チッチッチ」


と舌打ちしながら人差し指を振っている…


『エースのジョーかよ…』


と、あまりの古さとそれが解る俺に呆れた。


そんなヒッキーちゃんが、


「壁の生成では、出来上がる前に虫が逃げ出して散ってしまいますよ。

別の場所で作った物を配達して一気にドンですよドン!」


と言っている。


俺は、ヒッキーちゃんの希に出すホームランなアイデアに驚きながら、


「お、ヒッキーちゃん賢い!」


と誉めると、彼女は凄くドヤッている…


『これさえ無ければ良い娘なのに…残念』


と、残念な娘のヒッキーちゃんに憐れみの視線を送る俺だが、しかし、ヒッキーちゃんの言うとおり、いくら早くても多分数十分はかかるであろう壁生成では、危険を感じた虫達が散り散りに逃げてしまう。


他の場所でタジン鍋のフタの様な物を壁生成で作り、配達機能でドンと被せてからウッドチップをタジン鍋の上部からミッチミチに資材倉庫から配達して詰めて燃やせば…

って、火の着いた松明が配達出来るかのテストもいるな!?

タジン鍋のフタの下の方に虫が出ないサイズの空気穴を空ければ、ロケットストーブみたいに新鮮な空気を下から吸い込み燃焼してくれるはず…

と、試行錯誤しながら今回は身から出た錆びなので、出し惜しみせずにポイントの許す限り大きく頑丈に作戦用の設備を設計し来るべき決戦に備えたのだった。

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