第100話 さらばジャルダン準男爵
胸くそ悪い出来事から数日…再び豪華な馬車の一団が建設現場に向かってきた。
今回は賊の侵入が有ったからと鍛冶師さんと大工の親方達が仕上げてくれた門の前で騎士の一人が先に到着し、
「開門!国王陛下のお成りであ~る。
開門、かいも~ん!!」
と叫んでくれたので心の準備をする時間が与えられ、俺達は平常心で門の所で出迎える事が出来た。
そして、見覚えの有るウチの村製の馬車からご機嫌な国王陛下が降り立ち、
「これは誠に良いものだ!」
とニコニコしながら俺に最新型の馬車の乗り心地を報告してくれた。
ユーノス辺境伯様も自分の馬車から降りてきて、
「陛下、ジャルダン
と、陛下に乗り心地を…ん?…なんだか違和感を感じるのだが、国王陛下も、
「グリフォン討伐に新型の馬車に、あのような酒の製造法まで…これは、先が楽しみだなジャルダン男爵は…」
と…
俺は、恐る恐る
「あの~、私…準男爵では?」
と発言すると、ユーノス辺境伯様が、
「グリフォンの献上や酒の製造法を我が派閥に加え王族へも開示した報奨で、我が辺境伯家に男爵の任命権を追加で賜った。
だからキース君は、ジャルダン男爵になり、ジーグはおこぼれに預りキース君の持っていた準男爵を与えてこの町の代官になってもらう。
表向きは独立した準男爵だが、実体はキース君の部下…まぁ、ジャルダン男爵派閥というところかな…」
と満足そうだ。
国王陛下は、
「軍務卿の一派が申し訳無かった。
詫び…というのとはまた別の話しになるが、男爵には難民救済任務を与え戦争への参加を免除する。
もしかすると、男爵を取り込む為に軍務卿一派が動く可能性もあるが戦争と離れた場所に居ればアチラが辺境伯領に踏み入らない限りはちょっかいも掛けられないであろう。
そして、難民救済の町が完成し多くの民が救われたならば…フフっ、楽しみにしておれ、ジャルダン男爵」
と、何故か笑っていたのだが、俺としては不安しかない…しかし、陞爵とやらはこんなにヌルッとするものなのかな?と、少に疑問に思ってしまう。
今ならば、『ドッキリ大成功!』と書いた立て札を持った人が出て来ても納得してしまいそうな程の出来事に、しばらく呆気にとられていると国王陛下のお付きの文官さんがトレーを手に現れ、
「陛下!」
と言ってそれを差し出す。
「うむ、」
とだけ返事をした陛下は、俺の方を向き背筋を伸ばす…すると、
「キース・ド・ジャルダン男爵っ!前へ!!」
との文官さんの声に俺は条件反射的に前に進み出て片ひざを着く。
すると陛下が、
「グリフォン討伐の功績を認め、赤色武勲章を与える。
今後も王国の為に励むよう。」
と言って俺も
「はっ!」
っと答えて頭を下げ、勲章を賜ったのだが…
(赤色武勲章)とやらが良いのか悪いのかすらも俺は全く解らない。
国王陛下は、
「王城にて大々的に式典をしてやりたいが、ラーストの一派…特にこの度殺された男爵家の輩が逆恨みして、ジャルダン男爵を狙うかも知れんのでな…簡易的ですまない…」
と言って、俺を心配してくれてこの場での叙勲だったらしいが一緒に町を作る皆からの拍手が何よりも嬉しかった。
それから陛下達は、あの時に有耶無耶になってしまった町の建設現場の視察を行い、その間に王子殿下はベッキーさんとしばらくお話しを楽しんだ様子で王都へと帰って行かれた。
見送りが終わったユーノス辺境伯様に俺は、
「辺境伯様…いきなり男爵って、びっくりしますよ…」
と、軽い苦情を伝えると辺境伯様はニコニコで、
「陛下が内緒にしていきなり伝えたら驚くだろうと仰ったのだよ。
しかし、陛下がジャルダン伯爵にしようと仰るのを皆で、あまり目立つと他の派閥から横槍が入りますので…と、言って男爵で止めて貰ったのだぞ…
その代わりにこの町が回りだせば他の派閥の貴族達も難民救済の功績での陞爵ならば納得するだろうからと…
だから少しのイタズラは勘弁してくれ、キース男爵。」
と言っていた。
『別に出世なんて望んでないのに…』
と、ご機嫌の辺境伯様とは反対に少し憂鬱な気分の俺は我が家の知恵袋のホークスさんに、
「勲章貰ったけど…これ何か意味有るの?」
と聞くと、ホークスさんは、
「そうですね…敵の大将首を上げた時等に貰える赤色武勲章ですので、赤いリボンを紋章や旗に付ける事が許されます…」
と…
「…えっ、それだけ?」
と、驚きながら聞く俺にホークスさんは、
「かなりの名誉なのですが…」
と困った顔をする。
ユーノス辺境伯は、
「そうだな…あとは、春に大金貨十枚が当主が替わるまで続くぐらいかな?」
というのだか、
『俺が引退するまで、年俸一千万円が確定!!サイコーじゃないか!?』
と、理解した俺は、
「やったぁー、不労所得だぁー!」
と喜んでいると、辺境伯様が微妙な顔をしている…
『あれ?俺何か変な事言いましたか?』
と俺が焦っていると辺境伯様は、
「十枚で喜んで居るところ悪いのだが…陛下より、この難民救済事業に10年間…毎年大金貨300枚の予算がついたのだ…」
と申し訳無さそうに伝えてくれた。
毎年三億円の補助金を10年…嬉しい…凄く嬉しいのだが、確かに大金貨十枚の臨時ボーナスの威力は薄まった。
…まぁ、予算の大金貨300枚の分配などはユーノス辺境伯様やジーグ様にお任せするが、
『俺が使える大金貨十枚は実にデカい!村に投資してやる!!』
キリの良い所までここの町作りを進めて、あとは出世したジーグ準男爵様に全てお願いして俺はウチの村にも住宅を整備してぇ~…
フッフッフ、そうだ!この町に引っ越してきた手に職の有る難民さんをウチの村や商会に引き抜いて、新たな商品で儲けてやるんだから!!
と決めて、再び俺は工事作業へと戻ったのだった。
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