第99話 出来る事から頑張ろう


胸くそ事件で削られたメンタルも昨日のお休みの様な1日を挟み何とか持ち直してヤル気が出て来た俺は、


『殆どポイントを使わなくても出来ることは…』


と考えて、まだ工事の始まる前の早朝から、


「チャチャっとやりますか!」


と、気合いを入れてヒッキーちゃんとベッキーさんの力を借りてこっそりサプライズ工事を始めたのだった。


ポイントを使い切ったとはいえ、数日分の滞在ヒッキーポイントに合わせて、連日アホみたいに石材を回収したので岩山を丸々回収した様な形となり水晶等をはじめとした鉱物資源も大量に回収する結果となり、その一部の買取に回せないクオリティの水晶などを中心に要らない物をポイントに替えて、何とか300ポイント足らずのポイントが手に入ったので、これを使い必要な施設を完成させているのだ。


『そう、それはトイレである…』


現在は、直ぐに使わないエリアに穴を掘って、木の板材を渡した簡易の物に目隠しの板壁があるだけであるが、湖の側という事もあり何日も同じ穴を開けたままにすると水場を好む野生のスライム君が穴を縄張りにして、知らずに板を跨いで腰を下ろすと、


『縄張りを荒らされる!?』


と焦ったスライム君に、治療して貰うのに恥ずかしさを覚える場所を攻撃される事になるので1日毎に穴堀り作業と埋め戻し作業の手間がかかる。


一番工事が進んでいる居住エリアの中央広場の端で、


「今のポイントなら3つかな…」


と呟きながら、予定地を見ているとヒッキーちゃんが、


『マスター、男女1つずつを作って豆腐ハウスで良いから小屋も壁生成で作った方が良いのでは?』


と、頭の中に直接提案してくる。


するとベッキーさんも、


『マスター、昨日の様にお子さんが来た場合のトイレが必要では?』


と、聞いてくるのだが、


『ナビゲーターが増えて俺の脳内会議はかなり賑やかになっているな…』


と思いつつ俺が、


「フッフッフ、それは大丈夫なのだよベッキーさん…」


と、説明しようとすると頭の中に、


『チッチッチ、ベッキーちゃん既にウチの村で実証済みの小さい穴のアタッチメントシステムがあるのよ』


と、ヒッキーちゃんが自慢げに説明している。


「あっ、もう!俺が説明したかったのに…」


と文句を言った俺だが、朝モヤの公園の端で独り言をブツブツ言っている危ない奴に見えなくないかな?と思い、それ以上文句をいうのを諦めた。


ヒッキーちゃんの説明通りで、ジャルダン村でも住民の増加に合わせて、簡易トイレを使っていたのだが敷地内整備機能の取得と村の再開発に合わせて、既に今回作るトイレと同じ物を作った経験があるのだ。


なので、現在のヒッキーポイントでトイレが作れるのも知っており既にマスタールームには設計データもあるのですぐにでも着工出来る。


浄化槽の穴も敷地内整備の溝を作る機能でスライム君が住みやすい広さの穴を堀り、石材で壁や床を仕上げていく、少し深く掘った浄化槽とスライム君の自宅を置く一段高い二段構造でスライム君が行き来しやすい様にするスロープ付きである。


その穴に壁生成で作った石壁の蓋を乗せるのだが、その壁には便座になる土管の様な部品が付いており、その土管のサイズに合わせた便座を資材保管倉庫のウッドチップを使い作り、その便座に乗せる小さい穴のオマルの様なアタッチメントを乗せれば、大人も子供も使えるトイレが出来るのだ。


あとは、スライム君の引っ越し用に空けてある別の穴からスライム君入りの小樽や壺を入れて、スライム君が押し退けれない重さの蓋をすれば、無事に完成を迎えるのだが、最悪スライム君は後日でも構わないのでガワだけ先に作っていく事にした。


「じゃあ、場所はここに決まりだね。

一旦マスタールームに行くからヒッキーちゃんは前回のデータを出しておいて」


と頼むと、


『は~い、任せてぇ。』


とのヒッキーちゃんの返事を聞きつつ、広場の隅からマスタールームに意識を飛ばす。


マスタールームに着くと、ヒッキーちゃんが、


「これが、その時のデータで…」


と、ベッキーさんに教えながら作業しているヒッキーちゃんが、


「マスター、もう少しかかりますので…」


と俺に報告するのでいつもの事だが、


「はいよ、今日は何が食べたい?」


と聞きながら、食糧を具現化していく。


「ねぇ、ベッキーちゃん、中華なんてどう?」


というヒッキーちゃんの声を聞きながら、俺は、


「ヒッキーちゃんがお姉さんなんだから、ベッキーさんの意見を取り入れてあげなよ…」


と、注意するとヒッキーちゃんは、


「解ってるモン!」


と、少し膨れている声で抗議してくる。


俺が、


「じゃあ、中華丼なんてどうだ?」


と聞くと、ベッキーさんの、


「まだ食べた事が無いのでそれで…」


という声を聞き、


「了解。」


と具現化を始めると、ヒッキーちゃんが焦りながら、


「一個は中身チャーハンにして下さい!」


と騒いでいる…


『ギョーザがウリのチェーン店のメニューか?!…』


と思いつつも俺は、


「お姉さんなのに自分だけ…」


と、ヒッキーちゃんに呆れながらいうと、彼女は、


「違うモン!ベッキーちゃんと半分こするんだモン!!

少しでも色々な味を教えてあげたいから…」


と少しションボリした声を出すので、


『少し言い過ぎたかな?』


と反省した俺は、


「ゴメンよ…ヒッキーちゃん。

お詫びにギョーザも付けとくから機嫌直してよ…」


というと、ヒッキーちゃんは、


「春巻も…」


と、言ってお詫びの品を増やしてくる。


「仕方ない…」


と言って春巻とギョーザを具現化していると、メインモニターの方から、


「ベッキーちゃんは?」


などと聞いている声が聞こえ、


「うん、うん、そうだね…甘いのも欲しいね…」


とヒッキーちゃんの声が聞こえ、何やらナビゲーター二人で話している様で、話がまとまったのか、ヒッキーちゃんが、


「マスター、杏仁豆腐二丁も追加で!」


と言ってくる。


『店の主人みたいに言いやがって…』


と少しイラっとしながら杏仁豆腐を具現化してからメインモニター前に戻ると、既にトイレのデータが準備してあり、あとは壁生成で豆腐ハウスのデータを作るだけとなっている。


『おっ、なかなかヤるな…ヒッキーちゃん…』


と思いながら、俺もメインモニター前に座りトイレ小屋を作って行く。


「マスター、女子トイレに鏡を付けて下さい。」


というヒッキーちゃんに、


「いや、男だって鏡は欲しいよ。」


などと言っていると、ベッキーさんが恐る恐る、


「マスター…その…ポイントに余裕が有るのであればですが、このままでは暗すぎるので、便座の上を避けて明かり取りの窓を…」


と提案してくれた。


俺は、


「おっ、イイね鏡の所の上に穴を空けて…そうだ!、小さな三角屋根ぐらいなら作れるから、また錬金ギルドに水晶板ガラスで大きめの明かり窓をつくるか!!」


などとやりながら、一時間後には立派なトイレが完成した。


「まぁ、当面は一ヶ所でいいか…データもあるし、いつでも増設出来るからね」


と満足してマスタールームをあとにすると、俺の周囲には大工の親方達が集まり、ホークスさんが、


「キース様は、スキルを使っているだけですので…」


と、行き倒れた風の俺を心配した親方達に地べたで寝ている俺の説明をしていた。


俺は、


「お騒がせしました…」


と、言って起き上がると、親方達は知らない間に完成しているトイレを見に来たら俺が倒れていたのを見つけたらしく、やたらと、


「今日は休んで…」


と心配してくれたのだが、俺は、


「大丈夫ですから、それよりこのトイレのドアを…」


と、大工チームにお願いをし始めると、親方達は、


「扉を作るのと、鏡と、屋根の明かり取りに取り付ける水晶板硝子の注文だな…風呂や部屋の分も有るから、全部コッチでやっておくので、キースの旦那は…」


と、俺を休ませようと現場から遠ざける。


いや、俺は元気モリモリのヤル気バリバリなんだけど…出来る事ぐらい頑張らせてよ…


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る