第98話 悔しい結末と未来への決意


事件が有った翌日…

俺は何とか使い物になるまでに回復して皆から報告を受けている。


まず、殺害現場は国王陛下のお付きの方が〈クリーン〉の魔法と〈浄化〉という光魔法で片付けてくれた事や、捕縛した4人は辺境伯様がナナムルにて取り調べを希望したが、色々なしがらみで王都での裁きを受ける事になり護送される事となり、現在も国王陛下はナナムルの街で数日滞在されるが軍務卿一派と実行犯4人は先に王都に向かい出発したとの事…


つまり、俺が呆けている間にまんまと軍務卿一派に逃げられてしまったのだ。


しかし、ホークスさんやジーグ様まで、


「悔しいだろうがコレで良かった」


と言っている。


なぜなら、あの軍務卿を相手にするには俺では余りもに非力…

そして、戦争を続けている今の国王派閥も軍務卿の発言力に勝てない。


何も解っていない地方貴族が軍務卿に丸め込まれている風に振る舞った昨日の俺が、ある意味正解だったと…

悔しい…悔しいが、逆恨みで軍を向けられたり下手に追い込んでクーデターなんて洒落にもならない。


しかし、話の流れを知るジーグ様もホークスさんも、何か思うところが有るようでジーグ様は、


「町を作り強くなろう。

派閥を育て、武力を蓄え、軍務卿と同じぐらいに強くなれば悪事を隠すために力を削がれる奴らより、正義の名のもと正々堂々立ち向かえる我々の方が有利だ…だから、今は我慢しよう」


と、悔し気に話す。


ホークスさんも、


「あの手の輩は、たぶん、他でも色々しているはずですから調子に乗らせている間に調査をして証拠を集めいざという時に備えましょう。

まずは、ナナムルの難民を全て受け入れるぐらいの町…いや辺境伯派閥全てで、踏み荒らされた町や村すべてを受け入れる体制を整えましょう。

焦ってはイケませんよキース様…10年かけても、20年かけても良いぐらい根気強く地道に殺りましょう…」


と、噛み締めるように言った。


何か一番最後の辺りに殺気がこもっていた気がするが…


そして、あんなことが有り皆は気を利かせて、気分転換になればと、本日は託児所を作るテストに呼んだ三歳の男の子と五歳の女の子に来て貰い、試しに日雇いとして来て貰った元商人の男性と結婚前に貴族家で子供の面倒をみていた経験のある元メイドさんと、俺にその託児所の事を任せてくれた。


「未来ある子供と触れ合えばやる気が出るでしょう?」


と、セラさんが言ってくれたのだが…


『もしかしたらセラさんは、ナッツと違い暗殺あれの経験が有るのかもしれない…』


と、うっすら感じる程の的確なアドバイスだった。


1日中子供達と遊びつつ、元メイドだった〈ニーニャ〉さんに、大体1人で何人ならば無理無く見られるかを相談すると、


「食事等の時は無理ですが、お屋敷でも年齢の違うお子さんを一人で最大十人程度みることはありましたが、トイレ誘導などで抜けて目を離す瞬間が有るのでメイドは複数人がチームで必ず見守りが一人は居るようにしておりました。」


と、教えてくれた。


まぁ、俺が前世で働いてた介護の施設も似たような感じだったな…やっぱり、託児所の先生も複数名採用して先に研修してもらうかな?などと決め、歳のある程度大きな子供向けの塾の先生にと来て貰った、元商人の〈サンチョ〉さんには、試しにどれくらい計算が出来るかテストをして貰った。


正直小学生の低学年程度の小テストを必死で解いて不正解が数個…上出来ではあるが…普通…

しかし、サンチョさんは観察力や向上心がずば抜けていた。


「キース様、私の答案の採点を答えの表も何も無くされておりましたが、答えを暗記されているので?」


と…一瞬、『何の事?』と思ったが、手元のテストを見て気がついた。


『そうだ九九を知らないんだった…』


と…

村ではシュガーちゃんが引っ張ってくれているから、当たり前に子供達が九九や四則演算を使いサラサラと問題を解くから忘れていた。


簡単に、サンチョさん説明をすると、


「是非、私にも!!」


と、頭を下げる。


『これは教師も早めに雇って研修した方が良さそうかな?』


と考えて、今後の方針として、工事現場に託児所施設を作り、本格的に始動するまでは日替わりで数名ずつ研修も兼ねて働いてもらい、先生の研修も同時に行い、平行してナナムルの街で難民の子供達に給食有りの仮設学校を作る予定にした。


ちなみにであるが、サンチョさんは行商をしていたのだが、戦争に巻き込まれ馬も商材もお金すらどちらの軍の残党とも解らない兵士崩れの盗賊に持っていかれて流れついた方で、ニーニャさんは貴族家に勤めていたがそこの騎士の男性と結婚して1ヶ月もしないうちに戦争で旦那を失い、住んでいた町さえも激戦地に変わり何もかも失って失意のままナナムルの街にやってきた難民の方である。


この様な能力のある方々の働く場所を早く作り、最終的にはこの町の学校の子供を優秀な商人や文官職にすれば、辺境伯派閥の財政にもプラスになる人材になってくれるだろう。


そして、サンチョさんは、


「キース様、飢え死にしない量の食事さえ用意して頂ければ、寝る間を惜しんで勉強致します。

是非、私にあの計算の極意を…師匠!」


とすがり付くので、サンチョさんにはジーグ様にお願いして、馬と荷馬車を1台我が家用にナナムルの町で購入してもらいナナムルの街への買い出しや、託児所の子供達の送迎を仕事として、空いた時間に勉強を教える事にした。


すると、ニーニャさんも、


「子供達の送迎をするのなら荷台で危ない事をしないように見守る人間も要りますので…」


というので、この日二人には託児所立ち上げスタッフとして正式に採用させて貰った。


サンチョさんと、ニーニャさん二人ともに一旦ナナムルの町のキャンプに戻ってもらい、翌日から住み込みで、当面は工事現場で働きたい子連れ労働者の子供と託児所職員の研修生を馬車で送迎し村役場で面倒をみてもらう予定である。


たぶん1か月もしない内にサンチョさんなら計算の基礎を覚えるだろうから、サンチョさんは来月辺りから、朝から夕方までナナムルの街に作る塾勤務にすれば良いかな?…などと決めながら、俺は三歳と、五歳の姉弟にジャルダン村に有る絵本を一冊ヒッキーちゃんに配達してもらい二人に読んであげたり、姉弟と一緒に工事現場をお散歩して畑作りを頑張る母を見せてあげたりしてリフレッシュをした。


『村の子供達も、元気にしてるかな?…』


と、出来るだけ昨日の嫌な記憶を思い出さない様に過ごす俺は目の前の姉弟と村の子供達の為に、


『ヨシ、いっちょ頑張りますか!!』


と、改めて気合いを入れ直すのだった。

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