第96話 楽しくないパーティー


翌日、昼前にナッツとセラさんが工事現場に戻って来た…暗殺一族の里の幼馴染の二人が朝帰り…

俺は、思わず。


「まさか、二人でいやらし…」


と言いかけたところで、ナッツが、


「暗殺じゃないですよ!」


と焦って言って来た。


俺は、「えっ?」と一瞬固まるが、『何かイヤらしい事をしてたのか?』と聞かなくて良かったと安堵しながら改めて、


「何してきたの?」


と俺が聞くとセラさんが、


「例の騎士の二人があからさまに怪しいかったから、探りを入れてたのよ。」


と言っている。


俺は、セラさんに、


「危ないのは止めてよ、ホークスさんに俺が叱られちゃうから…」


と言うとホークスさんまで、


「昨夜のアレは私も気になりましたのでセラを行かせました。

逃げられない潜入捜査は駄目ですが尾行して何処に戻るか調べるぐらいならば大丈夫ですよ」


と、解らない許容ラインを提示し続けてホークスさんは、


「で、昨日の奴らは?」


と、セラさんに聞くと彼女は、


「軍務卿ラースト侯爵の腰巾着の子爵と男爵だったけど、軍務卿の指示で動いていたのかまでは解りませんでした。」


と報告して、ナッツは、


「お屋敷から宛がわれた部屋で盛大に喧嘩してたよ、あの二人…

交渉が難しければ、侯爵の名前で力ずくという可能性も有ったので部下の鎧で身を隠していたらしいが、(お前がペラペラと!)とか、(あの生意気な田舎貴族が!)などと廊下まで聞こえていましたよ」


と報告してくれた。


結果として二人の報告から、軍務卿の手下の二人の貴族が珍しいからか、はたまた興味を示していた王子に贈る為かベッキーさんを欲しがっていて、そして、身を隠して近づかなければならないほど後ろ暗い事でもする…または、普段はしているみたいだ…

という事が解ったのだが、上司への点数稼ぎの小悪党ならば、まだ良いがあれを軍務卿が指示してやってるのなら…終わってるな…あの集団は…

あれでは一般的な平民は勿論、大概の下っぱ貴族ならば家宝だろうが何だろうが軍務卿の名前が怖くて差し出し、もしも渋った場合は金にモノを言わせ、そして多分だがあんな変装をするのであれば、本来であれば、最終的には物取りの犯行として力ずく…なんて所かな?…

どうせ、その事件を調べる兵士隊なんて軍務卿のひと睨みで黙っちゃうからな…との結論に簡単に至ってしまい俺は心底うんざする。


俺は、夜通し頑張った二人にユックリ休む様に伝えて、そして明日の工事終わりに一旦親方と弟子の三人さんもナナムルに戻ってもらうようにお願いした。


気分的にモヤモヤはしていたが、何事もなく翌日の工事も順調に進み仮設の鍛冶屋が完成し、門扉などの制作に取りかかれそうな所まできたのだが、明日はパーティー参加の為に1日お休みで、工事再開はパーティーの翌日の予定としてジーグ様達と労働者チームに親方達が馬車でナナムルに帰るのを見送った。


『さて、乗り気はしないがパーティーに備えるか…』


とボヤきながら、その夜俺は明日のパーティー参加の為にヒッキーちゃんに頼み、村の衣裳タンスを配達してもらい、明日留守番をお願いする為に様々な準備を整えて翌朝を向かえた。


昼過ぎには馬車でナナムルに向かうのだがその前に朝からイチロー達ガーディアンゴーレムと小型ガーディアンゴーレムを配達してもらい、イチロー達には、


「多分、かなりの確率で賊が来ると思うから、可能な限り生け捕りでお願い」


とお願いするとイチローが、


「お任せ下さい。

賊が何人で来ようとこの地に敵意を持って踏み入った事を後悔させてやります」


と気合い十分だ。


『マジで生け捕りでお願い…』


と心で願いながらマスタールームに居るベッキーさんに、


「ベッキーさん…多分敵さんの狙いはベッキーさんだから特に気を付けてよ」


と、言うと俺の前に投影クリスタルが現れて、迷彩柄の服に身を包んだベッキーさんが映しだされ、


「特訓の成果をお見せしますわ。イチローさん達もヨロシクお願いしますね。」


と言っているが…


『ベッキーさんまでヒッキーちゃん化するのかな…コスプレすると強くなるとかの機能があるとかでは無いよね…』


などと少し不安が過る俺だが、イチローは、


「こちらこそヨロシクお願い致します。

コマンダー・ベッキー。」


と応え、ガーディアンズに合図を送り配置に着き連携の確認を始めた。


『まぁ、ヒッキーちゃん仕込みの罠もあるし、賊の数人ならばスタンピードでも戦い抜いたイチロー達に任せれば大丈夫だな…』


と、自分に言い聞かせて、俺は貴族としての仕事に向かう衣裳に袖を通した。


そして出発の時間となり、俺達はバーンの引く馬車に乗りナナムルに向かう為に町のまだ扉もない門をくぐるのだが、監視の為に配置についている小型ガーディアンが多脚の前足を一本挙げて、馬車に向かい、『行ってらっしゃい』とばかりに振っていた。


俺は、手を振り返しながら、


『あんなことも出来るんだ…』


と、感心しながら工事現場を後にしたのだった。


工事現場を出て一時間程度…距離にして十数キロ程の移動の末にユーノス辺境伯様のお屋敷に到着した。


そこは、前回の派閥の忘年会的なパーティーとは比べられない程のきらびやかな会場に、とても鮮やかな衣裳に身を包んだ貴族達が、


「おほほほっ」


と楽しげに話に花を咲かせている…

正直、パーティーはしんどいと俺が少しうんざりしていると、ゴテゴテした服の油ギッシュなオッサン達が、


「おぉ、グリフォン殺し殿ではないか!」


と、俺を大袈裟な2つ名で呼ぶが、確実にバカにされてると解る話し方の奴らが、


「今日は、強大な力をもつ精霊殿は何処に?」


と聞いてくる。


探りを入れてるのかな?と思いながらも、俺は、


「彼女はあの土地を守る精霊ですので、他の地には…」


と答えると、一人の目付きの悪い男が、


「守護してくれる精霊が居ないお前など、ただの木っ端貴族だ!国王陛下にお言葉が頂けたからと調子に乗るなよ!」


と食ってかかる。


あぁ、多分声と態度からあの時のアホの方の鎧男の中身だな…と思っていると、一番奥の油ギッシュなオッサンが、


「これこれ、いくらパーティーと言えど飲み過ぎだぞ!このようにの貴族に酔って、凄んでやるな…

ほれ、可哀想に怯えておるではないか、ガハハ」


とご機嫌にテカテカした顔で笑っている。


『怯えて無いけど…』


と、呆れている俺だがムカつく一団の会話の端々からこのテカテカの性欲強そうなオッサンが軍務卿だとは解った。


オッサンは、


「なんでも、準男爵なのにも関わらずダイムラーの娘と婚約したらしいな、なんとも上手くやったものよ…

どうだ、ダイムラーと一緒なら我が派閥に迎えてやるぞ。

ついでに男爵になれるように口を利いてやらなくも無い…そうしたら、こんな田舎貴族の傘下に居るよりましな生活が出来よう…ガッハッハ。」


と…


『はい、糞決定!コイツとは可能な限り、あまり関わらないでおこう…』


と心に決めて俺は、何とか当たり障りのない会話を心がけてその場を離れ、その後、国王陛下とも挨拶をかわして俺は今回のパーティーでの約束を全て果たす事が出来た。


辺境伯様が頑張っておもてなしをしていて、国王陛下ご一家も料理にお酒、スイーツなども楽しんでいるご様子だったので、


『ふぅ~、王族の方々とのご挨拶も無事に済んで目的は終了したのだが、しかし、本番はこれからなのかも知れない…』


と、安心しつつも今後の事を考えてウンザリしている俺だが、ユーノス辺境伯様達にも既にこの一連のベッキーさんがらみの話がジーグ様経由で届いており、明日、王様の希望で難民キャンプからアルバイトを募り町の建設を行う流れを確認し、中央でも取り入れられる事が無いか王家方々と、中央の文官職の人達と再び工事現場の視察をする事になっているのでそれが終わるまでは気が抜けない。


さてさて、どうなりますやら…

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