第95話 嫌な奴も突然に


グリフォンの献上も無事に終わり、


『これで町作りに専念できる』


と俺がホッとしていると去り際に国王陛下が、


「では、パーティーでまた会おう!」


と言って馬車に乗ってナナムルの街へと行ってしまった…

馬車を見送った後でジーグ様に、


「あれ…これって俺もパーティー出る流れですか?」


と聞く俺に、


「出なきゃマズいよね…パーティーで会おうと、国王陛下からのご指名だから…」


と…


『もう!プレゼント渡して終了じゃないの?』


と思いながら、俺は少し涙目で本日の作業へと戻る。


そして、1日の仕事の終わりに働いてくれた難民のアルバイトさんへと大銀貨一枚と、村で蓄えていたお肉などの現物を支給してからジーグ様達が馬車で皆さんをナナムルの街まで送って行くのを見送る。


ジーグ様達もナナムルに帰ったので現場にいるのは俺とナッツやセラさんとホークスさんに大工の親方と三人の弟子さんだけだ。


「パーティーに出る準備なんてしてないよ…」


と俺は、ナッツ達に愚痴をもらしながら村役場のキッチンで少しガッツリしたおかずを作りA子達が村で焼いてストックしてくれているパンと一緒に皆で食卓を囲んでいると、


『騎馬、総数2が町に侵入しました』


と、ベッキーさんの声が頭に響く…俺が、


「なんだか、馬に乗った人が二名入ってきたみたい。」


というと、ナッツとセラさんがどこかへ消えて、ホークスさんが玄関へと向かった。


俺も行こうとすると、


「こういう時は、主はドンと構えていてください」


とホークスさんに言われたのでお任せしてみることにすると玄関先から


「我ら軍務卿ラースト様が配下、ジャルダン準男爵に用がある!」


と、偉そうは口調の声がする。


すると、ホークスさんが、


「我が主は、町作りの激務をこなし今は休んでおられます。

ご用は私めが…」


と言っているが配下とやらは、


「お主では話しにならん!早く準男爵を呼んでこい!!」


と騒いでいる。


仕方がないので、俺が、


「小さな一軒家ですので、その様に騒がなくても聞こえております」


と、少し不機嫌に玄関に向かうと威圧的な鎧を纏った二名の自称配下が玄関口に立っていた。


俺が、


「兜をかぶり顔も見せない自称配下さんは、一体この工事現場に何用でしょうか?

用があるなら名を名乗り顔を見せるのが礼儀では?」


と、まっとうな意見を言うと、それを遮る様に、


「うるさい!地方の田舎貴族が!!我ら…」


と言った所でもう一人の鎧騎士に止められていた。


『我らは…中央貴族…とかかな…?』


などと予想しながら、俺は、


「その田舎貴族よりお二人はこんな夜に何のご用で?と聞いているのですが…」


と想像した身分を匂わせながら、改めて聞くと身分をバラしそうになったアホが、


「お前の所有する精霊を渡せ!」


とアホな事を言ってくる。


俺が、


「俺の所有でも有りませんし、そうで有ったとしても差し上げませんよ」


と呆れて答えると冷静な方の騎士が、


「大金貨十枚出そう。

田舎の辺境伯領であれば山一つでも買えるであろう。

その地の精霊を再び使役すれば良い。」


と、こちらもトンチンカンな事を言ってくる。


俺が、


「そもそも、軍務卿の配下と自称するお二方ですがホント軍務卿のですか?」


と煽ると、熱くなっている騎士風の男は、


「えぇい、言わせておけば!我らの派閥に入れてやっても良いかと思っておったがっ」


と、言った所でもう一人に


「おい!!」


と肩を掴まれ止められていた。


本当にアホだな…『軍務卿派閥です』って発表してるみたいなもんだよ…と俺が呆れて見つめていると、


「邪魔したな!」


とだけ言って、冷静な方に引きずられる様に二人とも工事現場の町から出て行ってしまった。


胸くその悪い訪問の後で、親方達に、


「お貴族様って大変だな…」


と心配されてしまったのだが、


「俺もそう思う…」


と、改めて貴族になってしまった事を後悔した。


あんなのが度々来ても面倒臭いし、町の門も無いのは無用心だよね…門前払いとか出来ないからどうしよう…と考えてホークスさんに、


「少し横になりますが、何か有ったら起こしてください。」


と言って俺は、マスタールームへと意識を飛ばした。


マスタールームに入るとベッキーさんが、


「マスター申し訳有りません、もっと早く気づいていれば…」


と落ち込んでいる。


ヒッキーちゃんは、


「あんな失礼なのは、落として痺れさせて、木にくくって、お腹を下す〈偽油茸〉でも致死量食べさせたら良いのよ!」


と怒っている。


「いや、致死量食べさせた時点で、捕まえた意味が無くなるからね…」


と呆れてツッコむが、流石にあんなのがチョイチョイ来るのも嫌だし…陛下に呼ばれてるパーティーに参加してる留守を狙われてもバカらしい…

ベッキーさんが狙いのようだが、ベッキーさんの投影クリスタルも敷地内を転移させまくれば奪われないし、敷地内ならば奪われても転移させれそうだが…

などと考えながらモニターで所有ポイントを、確認すると、

滞在ポイントと、ヒッキーちゃんが空き時間でしてくれた採取等で集まった水晶などの鉱物資源を一部ポイントに変換して、ようやく500ちょっと…

500ポイントのガーディアンゴーレム一体では敷地を守るのには広すぎる…

罠ならば30ポイントから交換出きるし…


『これは、あれだな…留守の間はイチロー達と小型ゴーレムを留守番に呼んだ上に、ヒッキーちゃんから罠さばきをベッキーさんに伝授して貰おう!』


と決めて、ここ数日寝る前の日課になった、ベッキールームの家具の具現化で、ドレッサー等を出し、ヒッキーちゃんにお菓子類と新たに作った共同キッチンにご飯類を具現化しながらヒッキーちゃんに、


「トラップガールのヒッキーちゃんに依頼なんだけど。」


と俺が言うと、


「マスター、何ですかその嫌な役職名は…仕事が、罠に掛ける女ならばまだ良いですが、

私自体が〈地雷トラップ女〉って事なら、3日3晩泣く自信がありますよ。」


と、ヒッキーちゃんは不機嫌になる…

俺は少し慌てながら、


「いやいや必殺罠職人、落とし穴のヒッキーとしての依頼だよ。」


と言うと、ヒッキーちゃんは、


「裏家業はやって無いですよ…

でも、その依頼…パフェ2つで聞きますよ。」


と乗ってきたので、


「多分だけど、あの手の輩は次は力ずくでくるから、ベッキーさんに罠の扱い方を伝授してあげてくれるかい?

罠を追加で何個か交換するし、小型ガーディアンゴーレム君を監視カメラ兼投石スナイパーとして追加で町の専属にポイント交換するから…

あと、俺が留守の間はイチロー達ガーディアンズも助っ人に呼んで防御を固めるよ。

まぁ、その間の村の守りはヒッキーちゃん任せになっちゃうから大変だろうけど…大丈夫?」


と俺が聞くと、


「受けた仕事はキッチリするよ。

ドーナツを追加してくれたら、もっと頑張る!」


と、ヒッキーちゃんが言っていたので、俺は、


「お安いご用だ。」


と色んなタイプのドーナツセットも出してあげると、ヒッキーちゃんは、


「やったぁー、ベッキーちゃん!お茶にしよう!!

ドーナツが届きましたよぉ~。」


とベッキーちゃんとお茶を始めた。


俺も一個つまみ食いしながら、


『仲良くなったようで何より…』


と、マスタールームでドーナッツパーティーをはじめた二人を眺めて安心したのだった。

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