第94話 謁見は突然に


工事を始めて5日目の昼にぞろぞろと馬車が連なり町へとやってきた。


するとジーグ様が、


「やっべ!皆ゴメン、王族がお見えになったから一旦作業を止めてお出迎えを!!」


と叫び、俺達を連れて一段目にある町の入り口の門の所までダッシュで出迎えに向って、セラさんとナッツは離れた現場の作業員さん達に連絡に走ってもらった。


町の入り口へと走りながら、俺は、


「ジーグ様、王族ってこんな土まみれの格好でお出迎えをしてもいいんですか?」


と聞くと、


「本当は駄目だよ!先触れも無しに…全く父上は!!」


と、少し怒りながらジーグ様は答えてくれる。


門に到着すると十台以上の馬車の一つからユーノス辺境伯様が、


「ささっ、こちらでございます」


と、高価そうな身なりの方々をエスコートしてくる。


ジーグ様が小声で、


「陛下だよ、膝をついてお出迎えを」


と教えてくれた。


俺達は、片ひざを地面に着き頭を下げて一団の到着を待つ…

すると、辺境伯様の


「皆の者、国王陛下の御成である!」


との声に、


「は、はぁ!」


と、更に深々と頭を下げると、


「皆、すまんな…

ナナムルの街に着く前に気になっていた見知らぬ町の工事だったので、ナナムルに着き次第に辺境伯に尋ねると、難民を受け入れる為の町を作っていると聞いて、是非見たいと無理を言ったのだ。

作業の手を止めてしまったな…」


と凛とした声が響き、


「皆、楽にして良いぞ。」


とのお許しが出て初めてこの国の国王陛下ご一家とのご対面となった。


感想としては、アラサーの金持ち夫婦…お金の余裕が人としての余裕に繋がってるタイプの優雅なご夫婦だった。


ジーグ様は、


「ようこそ国王陛下、埃っぽい場所で薄汚れた格好でのお出迎えとなり誠に申し訳御座いません。」


と挨拶をすると、陛下は、


「ジーグか、久しいな。

工事をしておる所でパーティーの様な衣裳での出迎えなど期待しておらんよ。

それより、辺境伯から聞いたジャルダン準男爵とは?」


と聞くと、ジーグ様は、


「こちらの青年に御座います。」


と紹介してくれた。


俺は、


『マジか!王様に逢う予定なんてなかったから、何を話せば?…』


などと内心バックバクで、


「お初にお目にかかれて光栄でございます。

キース・ド・ジャルダンと申します。

以後お見知りおきを…」


と頭を下げると陛下は、


「いやいや、これは…グリフォンを小さな村の数人で倒した猛者と聞いておったので、勝手に軍務卿の様な者を想像しておった!いや、このような青年が…」


と、楽しそうにされている。


ユーノス辺境伯様が、


「キース君、陛下に例の物を…」


と小声でいうので、一瞬(どれ?)と思ったが、


『そうだ!献上品!!』


と思いだし、俺は、


「陛下、我がジャルダン村から陛下へグリフォンをお贈り致したく存じます…

出しても宜しいでしょうか?」


と、お伺いをたてると陛下は、


「王子も楽しみにしておるので頼む。」


という…

お妃様らしき女性の手を引く幼稚園ぐらいの男の子が、


「母上、グリフォンが見られます!」


と、はしゃいでいる。


俺は、


『よし、チビッ子にはサービスしないとな…』


と、思い、


「では、陛下失礼して…ベッキーさん!」


と、ベッキーさんを呼び出すと、投影クリスタルが現れクリスタルの上部にベッキーさんが映しだされてひどく驚く陛下に、

剣に手を掛ける騎士…

しかし、狙いはそこでは無い!

王子様は見知らぬ映像の女性に、


「うわぁ~、凄い!」


と喜んでいる。


俺が、


「この町を守る精霊の…」


と紹介しようとすると、


ベッキーさんは、


「ベッキーと申します。陛下…」


と国王陛下に頭を下げた後に王子様にニコリと笑いかける。


国王陛下は、


「精霊とな!」


と驚くきながらも、


「こちらの精霊とグリフォンにどのような関係が?」


と、陛下が聞くので、俺は、


「彼女達がグリフォンの保管を…

ベッキーさん少し離れた空き地に出してくれますか?」


とお願いするとあの時の新鮮な状態のグリフォンが保管倉庫から配達機能で現れる。


俺が、


「国王陛下、どうぞお納めください…」


というと王様は、


「皆、近くで見て参れ!」


と言った後に、俺に近づき小声で、


「ジャルダン準男爵…感謝する…グリフォンでは無くて、難民の事だ…私は情けなかったのだ。

先王がお隠れになり、王座を継いで直ぐに戦争が起こり、その戦もズルズルと終戦に至らずに…

難民問題は戦争が終われば…などと悠長に構えていた。

聞けば町の整備もその方の私財や先ほどの様な精霊の力を借りて行っておると…」


と寂しそうに話している。


『この国の国王陛下は優しい人の様だな…』


と安心しながら俺は、


「私は、決められた土地でしか力を発揮出来ない厄介なスキルゆえ家を追放され、沢山の人の助けで生きて参りました。

そんな私がやっている事を陛下が知っていてくれるだけで幸せです。

しかし、私だけではどうしようも無い事が多く、辺境伯様のお力を借りてなんとか難民を受け入れ、職について貰う為の準備をしております。

しかし、難民が増えればこの町だけでは…」


と、俺が言うと陛下は、


「うむ、心得た。

終戦を私も望んでいる…しかし、何故か上手くいかん…

本当は、国内を巡り結束を固めるより隣国と会談でもするべきなのは解っておるのだがな…先王の急死で足場を固める暇がなかったのが悔しいよ…」


と本音を吐き出す陛下に親近感を覚える。


そして王子様の、


「父上!凄いクチバシだよ!!」


との声に俺は、


「陛下、王子殿下がお呼びになっておられますので…」


と、促すと、


「そうだな、私ばかり精霊を使役しグリフォンを討伐した勇者を一人占めしては王子が拗ねてしまうな」


と笑いながら王子の方へ向かわれた…

貴族も面倒臭いけど、王様は更に大変そうだな…

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