第91話 別荘指定と新たな出逢い


数ヶ月ぶりの領都ナナムルであるが、前回と違い辺境伯様のお屋敷に一部屋お借りして泊めて頂く訳にもいかないので無理を言ってジョルジュ様達派閥貴族の為に用意された別のお屋敷に泊めて貰う事になった。


ユーノス辺境伯様やジョルジュ様は王族や中央の有力貴族を迎える準備に忙しく俺たちの担当は辺境伯様の次男のジーグ様と文官職の数名がついてくれて、蒸留酒の製造方法等の褒美としてナナムルから中央に伸びる街道を北へ一時間程移動した湖のある丘を賜る事になり書類にサインなどをした後に、実際に全員で現地を見に行く事にした。


ジーグ様は、


「すまないね。最新型の馬車が気になって居たけど、なんと言っても献上品だから乗るに乗れ無くて…

行きだけで構わないから乗せてくれないかな最新型の馬車?」


とお願いされて、


「どうぞ」


と招待したのだが街道を10分も走ったら、


ジーグ様は


「これは駄目だ、上手く説明する自信がない…

ついてきた者達を順番に乗せてくれ、頼むジャルダン準男爵殿!!」


と懇願され、まるで遊園地のアトラクションの様に、進んでは乗り換え、進んでは乗り換え、最後は他の馬車の御者さんまでもが、


「実際に運転してみても?」


と恐る恐る聞いてくる始末…

勿論、お安いご用だが片道一時間ほどの道のりがワイワイしながら二時間以上かかってしまった。


そして、やっと到着した土地は湖の奥の小高い丘で、木々の生えた丘の向こうには狩り場にできそうな森があり想像していたより遥かに広かった。


湖から範囲回収や整地機能で水路を作れば養殖も出来そうではあるが問題は生活排水だ。


川ならばまだ良かったが、湖では生活排水をそのまま流す訳にはいかないだろうと困りながら俺が、


「ホークスさんどうしよう?1000人規模の町の生活排水を湖に垂れ流すのはマズイよね」


と相談していると、ジーグ様が


「気が早いなジャルダン準男爵は、整地も済んでないのにもう町の排水の話しかい?」


と笑うがホークスさんは、


「キース様ならば、ものの半日で整地も壁も条件が整えば砦ぐらい作りますよ」


と伝えるとジーグ様は、


「報告書に目は通しましたが、ホークス先生にしてはかなり盛った報告だなって思って読みましたよ」


と、笑っていた。


そしてジーグ様は、


「排水は浄化水槽をつくり、錬金ギルドから魔石式クリーン装置を購入すれば大丈夫だよ」


と、サラリと解決案を提示してくれホークスさんも、


「中央では一般的ですが辺境では珍しく失念しておりました。」


と言っていた。


案外この親バカさんはデキる切れ者かもしれない…

ちなみにだか、俺が頑なにジーグお兄さんと呼ばないので対抗措置として、俺の事をキースでは無くてジャルダン準男爵と呼んでいる変なこだわり人間でもある。


俺がホークスさんに、


「それ購入したいですから、いくらか調べておいてください」


とお願いすると、それを聞いたジーグ様は文官さんに


「おーい、クリーン装置のアレどうだった?」


と聞くと文官さんは、


「はい、一台大金貨15枚で、最大3つまで押さえられます」


と答える。


するとジーグ様は、


「うへっ、やっぱり高いね…どうするジャルダン準男爵?」


と聞くので、ホークスさんと相談すると、


「即金で二台は買えます…人が増えて濾過が間に合わない場合は増設しましょう」


と、提案してくれたのでその場で二台の購入をお願いすると、ジーグ様は、


「頼んだよ」


と、文官さんに指示をだす。


やはり、仕事の出来る切れ者だ…長男のマザコンより遥かに有能では?と思ってしまう。


さて、ここからが本番である…さっきから電子音声で、


『別荘指定可能です…指定しますか?』


と聞こえているので俺は、


「作業に入りますから、皆さん集合してください。」


と、ジーグ様や文官さんを集めて、


「別荘指定!」


と叫ぶ…


しかし、端から見れば急に叫んだ痛いヤツではあるが、皆が解らないだけで今いる場所には大きな変化があったのだ!

たぶん誰も解らないとは思うが…俺の脳内に、


『指定完了、マスタールームで設定をおねがいします。マスター』


と、ヒッキーちゃんより落ち着いた声が響く…


『あれ?』


と不思議に思うが俺はナッツに、


「マスタールームに行けるみたいだから、もしもの時は起こしてね。」


とお願いしてマスタールームに意識を飛ばすと、落ち着いた感じの女性がメインモニターに映っていた。


そして、ヒッキーちゃんは、


「ぐぬぬぬっ…ライバル出現か…」


と、そのモニターを睨んでいる。


俺が、


「初めまして?」


と、彼女に挨拶をすると彼女は、


「マスター、お初にお目にかかります。

私は別荘管理用ナビゲーター、通称〈ベッキー〉です。

名前の変更も設定で可能ですが、この名前を気に入っておりますのでどうかベッキーと呼んで頂ければ幸いです。」


と挨拶をしてくれた。


ヒッキーちゃんとチェンジ出来ないかな?と一瞬思い、ヒッキーちゃんを見ると涙目で首を横に振って、


「捨てないで…」


と、だけ言っていた…なんか、ゴメン。


別荘管理人のベッキーさん用の投影クリスタルと、マスタールームで生活出来る様に設定し、模様替え機能で、〈ベッキールーム〉を作りベッドだけ具現化しておいた。


ベッキーさんに、


「魔力切れで気絶する訳にはいかないから内装は後日ね。

壁生成と整地手伝って」


とお願いすると、


「お任せを」


と答えてくれる。


頼もしい…誰かさんより遥かに漂う安心感に、『マズイ!』という顔でヒッキーちゃんが、


「あ、あっ、私は?」


と、慌てるので、


「石材管理と回収をお願い、頼りにしてるよ。」


と優しく俺が伝えると、


「本当…頼れる?…私頑張る!!」


とやる気になってくれたので、マスタールームの模様替え機能でモニターを三面にして椅子三つにしてから作業を開始する。


ナッツの側に投影クリスタルを出し、ベッキーさんに連絡役を頼んで間接的にホークスさんと相談して、湖に面した所から取水用の水路と排水用の水路というか小舟ならば往き来出来る堀を巡らせ、養殖や丘の下の平地を農業エリアとしてそこで使える水として整備して、丘の一段高い場所を工房エリアに予定して、そして丘の頂上を整地してもう一段高い居住エリアをつくる予定にした。


手始めに敷地内回収で土を削って水路を作ったり、配達機能で削った土で敷地に盛り土をしたりして整地していく。


マスタールームの作業員が三名になって作業も早く、順調に水路と道を敷いていく…

監視カメラに写るジーグ様と文官さん達が腰を抜かしているのを見ながら作業の進み具合をモニターで確認していると、


「ピロリン」


とメールが届く…

もしもの時用にあまり使わずに温存している質問メール機能だが、あれから何度か使って配達機能の汎用性の高さを教えてもらったりして大変助かっている。


有り難う…多分神様。


そして、届いたメールを開くと、


『初回限定、別荘取得お祝いポイントが5000ポイント付与されました。

追伸、難民の皆さんをよろしくお願いします。

あと、レベル40で凄い機能を用意しております。』


と書いてあった。


もう、絶対神様じゃん!と確信した俺は、多分見ているだろうからと、


「ありがたく使わせて頂きます。

頑張りますから、変なピンチが来ないようによろしくお願いします。」


と天井に向けてお願いをしてみた。


ヒッキーちゃんが


「働き過ぎですか?」


と心配するし、ベッキーさんまで、


「道の完成まで一時間有りますので、どうぞベッドへ…」


と俺に休憩を促す。


大丈夫だよぉ~!

端から見たら、いきなり天井に話すヤバいヤツだったのかな?今度から気をつけよう…


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