第89話 自宅防衛隊出動!
マスタールームで配達機能とリンクさせた監視機能で村から一キロ以上離れた位置を村に向かい移動する魔物の映像をモニターに映す。
壁の上に移動した小型ガーディアンゴーレムからの映像と合わせて、なにが起きているのかを調べるのだが、群れの先頭は跳ね鹿等の冬眠をしない魔物達が逃げ惑いその後ろにはオークの群れが見える…
『腹ペコオークの狩り祭りか?』
と一瞬思ったが、最悪な事にオークの群れを追いかけているらしい一匹の巨大な影が遠くの空に見えた…
最大望遠でとらえたその影の映像がマスタールームのメインモニターに映しだされると、俺は思わず
「最悪だ…」
と呟くしかできなかった。
なぜならば空に浮かぶそれはAランク冒険者が集団で挑む魔物であり、ダイムラー伯爵家の紋章にも使われている武勇の象徴である。
グリフォンだったのだ!…
あの猛禽類と猫科の大型動物が合体した様なフォルムは見間違える事はない…
奴らが、どういう理由で村の側まで来たかは解らないが、手前の跳ね鹿等は近場の森に獲物が増えるだけだろうから別に良い…しかし、後方のオークとグリフォンはヤバすぎる。
ヒッキーちゃんに、
「サポートヨロシク!俺も出るから頼りにしてるよ!!」
と言うと、メインモニターに並んで座るヒッキーちゃんは、
「ドンとまかせて、でも気をつけてねマスター!!
あんな三人体制で合体出来るヒーロー戦隊メカの出来損ないなんかに負けないでね。」
と送り出してくれた。
『確かに、あとイルカでもやって来たら…って、それって俺らが敵組織になるの?』
などと、どうでもいい事を考えて少し緊張がほぐれた俺は冒険者スタイルに着替え石壁の上にナッツと向かった。
既に石壁の上でバリスタの準備をしているイチローが、
「マスター、バリスタの矢が30ずつでは、少し心配だと思われます。」
との報告を受ける。
たしかに、グリフォン見ちゃったからな…もっと欲しいよね…でもどうなんだろう?
スキルで出した矢だから、消して、再度配置したら復活するのかな?
でも確かめる時間も無いし…と悩んでいるとナッツが、
「このデカイヤツはロイドのボウガンの親玉みたいな物ですよね。
それでコレが矢ですね?
これならば命中精度は落ちますが納屋に置いてある鉄製の罠ネズミの背中の針が飛ばせませんか?」
と、バリスタを触りながら提案してくれた。
俺は、
「採用!ヒッキーちゃん。
納屋の端に罠ネズミの針がまとめて有るから箱ごと配達お願い!」
と指示を出した時には魔物の群れの先頭集団が堀の近く迄迫っていた。
「総員戦闘配備!
跳ね鹿等は無視で構わない、先頭集団の草食魔物がこの厚みの石壁がどうこう出来る訳がない!
中ほどのオーク等肉食チームは俺とヒッキーちゃんで何とかするから、ガーディアンズはグリフォンをバリスタで地面に落とす事を優先してくれ。
ナッツはすまないがガーディアンズのサポートを宜しく!とりあえずあの大行進を止めるぞ!!」
と気合いを入れる。
そして、程なく肉眼でグリフォンの形がくっきり見える程に近付く…
ここからは森の木々が邪魔で見えないが、多分あの下にはオークを含めたグリフォンのごちそう集団が必死のマラソン大会をしているのだろう。
既に先頭集団のジャッカロープなどの足の速い魔物が、定置網の様に広がった土手にそって広くて深い堀という名の落とし穴に集まり始め、続いて跳ね鹿や猪系の魔物の姿も混ざりはじめた。
何頭かに一頭の鹿は穴を飛び越え更に石壁に近づくが猪達はボトボトと穴に落ちていき運良く穴を避けた鹿達はそのまま壁沿いを走り過ぎ去ってゆく…
ヒッキーちゃんの、
「オークの集団が堀に接近!」
との報告が入ると森の木々の隙間から必死の形相のオークが走って来た。
俺は、
「バリスタ用意!
練習も兼ねて罠ネズミの針から射って、行けそうならばグリフォンを!
ヒッキーちゃん大岩を回収準備、
俺が脳内マップを確認しながら指示を出したら配達よろしく!村を守るぞ!!」
と叫び、村を守る作戦が開始された。
二台のバリスタをイチローと、シローが照準を担当し、ジローとサブローが装填役でナッツは針山等の補給役である。
装填された1メートル近い鉄の針だが根本は鉄パイプの様に空洞で先の方が鉄の塊である。
矢になるために神に創造されたような形状の針はバリスタのワイヤーの弦に弾かれ、バシュンと物凄い勢いで飛んで行く。
轟音と共に木をなぎ倒し、地面に刺さる鉄の矢に、百近いオークは驚き一瞬足を止めると、待ってましたとばかりにグリフォンが舞い降りオークを三匹ほど啄むと、器用にクチバシでオークを回転させて頭からユックリと飲み込む…
俺は、オークの群れの後方から大岩を徐々に追いたてるように降らす指示をヒッキーちゃんに出すと、仲間の死を見て足が止まったり散り散りになって逃げていたオークの群れは、岩の音に怯え再び村へと向かい走りだし、それに釣られてグリフォンも空へと舞い上がり近寄ってくる。
試しに岩をグリフォンの上空へとヒッキーちゃんに頼んで配達してみたが、グリフォンの飛行能力が勝りヒラリとかわされてしまったので、下手に刺激せずにバリスタの範囲内まで誘い込む事にしたのだが、近づく魔物の群れを眺めると、狼などの魔物より遥かに足の遅いオークはグリフォンにしたら、食べごたえはあるがすぐに追いついて補食出来るスナック感覚のぐらいの獲物らしく、あれだけ種類がいる魔物の大行進の中でもオークばかりを狙っているのが村の壁の上からでもよく解った。
オークの先頭集団が堀の奈落へと吸い込まれ始める頃に、走り疲れたオークを狙う為に集団の最後尾で食事に夢中なグリフォンだが、強すぎて周りが気にならないのか、はたまたただの鳥頭なのか…
何にしても馬鹿みたいに無防備にこちらに近寄ってきてくれている。
イチローが、
「ターゲットが完全に射程に入りました」
と報告してくれたので、
「落とすよ!」
と叫んだ俺の声と共に、ゴーレム達の人間離れした正確な動きと連携で、マシンガンの様に打ち出されるバリスタに、ナッツの供給係がてんてこ舞いしている程だった。
イチロー達の機械の様に寸分の狂いなくバリスタから放たれた罠ネズミの針や、バリスタの矢を身体中に生やし地面へとゆっくりと落ちてゆくグリフォンに俺は、
「ヒッキーちゃん、ヤツの足元に虎バサミ!」
と指示を出すと、投影クリスタルにウルトラな警備隊っぽいコスプレのヒッキーちゃんが映しだされ、
「ラジャー!」
と答える。
何故だかヒッキーちゃんのコスプレが出たということは危機的状態から抜け出せたような気がする俺は少し安心してヒッキーちゃんからの、
「虎バサミ発動!グリフォンが悶えています。
麻痺ガスを発動します。」
との報告に、
「よろしくヒッキーちゃん!イチロー、こっちはオークを殲滅するよ!」
と俺が指示をだすと、バリスタがオークの残党に向かい牙を剥く。
堀の穴に落ちたオークには、俺とグリフォンを寝かしつけたヒッキーちゃんとの連携で堀の真上から大岩を落とし、落とした大岩を回収して再度上空に配達して落としたりを繰り返して餅つきのようにペッタンペッタンして息の根を止めていく…
脳内マップを使い索敵で隠れている魔物も綺麗サッパリ倒してから、最後にガーディアンズを痺れているグリフォンに配達してトドメを頼んだ。
そして、昼前には村からは怪我人もなく大勝利を納めた俺達だが、完璧に西側の森の狩り場は壊滅的状態になってしまった…
「馬鹿野郎…一年は休めて獲物を増やす予定だったのに!」
と、今頃になり怒りがこみ上げるがとりあえず倒した魔物を回収するために寒い中庭に今入っている保管倉庫の中身を出して、敷地内回収を使い堀の底から後片付けをはじめた。
ナッツには悪いがこの寒空の下、冒険者ギルドとジョルジュ様に小規模スタンピードの発生とグリフォンの討伐を報告するために、ひとっ走りサイラスの町までお願いし俺は魔物の回収を続けているが、しかし、どう考えてもグリフォンがデカ過ぎて、にっちもさっちも回収出来ない…
敷地内回収で、村の中に移動はさせれるが解体チームがすぐ来るとも思えない…
1日45ポイントで約3月…貯めに貯めた約4000ポイントの滞在ヒッキーポイントがバリスタと合わせてぶっ飛ぶが、
仕方なく大型保管倉庫を2000ポイントで交換して、各倉庫がパンパンになるほど魔物を回収していく…
少しペッタンペッタンとやり過ぎて、堀の底の魔物が一部ハンバーグになっていたので、その塊はまとめて販売機能でポイントに変える。
何の魔物が何匹の計算か解らないが数百ポイントは取り戻せた…
しかし、村人総出で倉庫のヤツを解体したりして要らない部分をポイントに変換してもポイントは赤字覚悟だなと、白いタメ息を吐きながら俺は冬の日差しの中で続いて範囲回収と配達機能を使い穴の埋め戻し作業続けるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます