第88話 乱獲のツケ
冬本番の年の瀬、村の事はホークスさんにお任せして再びネトゲ廃人生活をしている。
なんとしても春までに、ナナムルの近くに壁に囲まれた仮設住宅の有る街を準備する為のポイントを用意しなければならない…
いくらユーノス辺境伯様がこの冬を乗り切れる様に炊き出しや防寒具の配布をしてくれたとしても来年の冬も支援を行うには難民が多すぎる。
たとえ自室で寝てばかりいるグウタラ貴族の謗りを受けたとしてもヤると決めたのだ!と、格好よく云ってみたが、
本心は、『寒いのに新たな狩り場の岩山になど行きたくない…』というのが理由だ。
しかし、ある意味冬山を舐めてないという事で自分と折り合いをつけて、マイホームの居間の暖炉の前でカモイさんに作ってもらったロッキングチェアで優雅にマスタールームへと意識を飛ばしている。
岩山には森とはまた違った魔物が住んでいて、体が岩みたいにデッカくて硬い〈ロックリザード〉や、鉄分の多い場所に巣を作る〈アイアンアント〉という、枕程のサイズの鉄分を体に溜め込む硬い蟻魔物や、その蟻魔物を主食にしている鉄製の針を背負ったヤマアラシの様な魔物の〈罠ネズミ〉という名前の厄介な魔物もいる。
アイアンアントの巣の周りで鉄鉱石を集めていると、罠ネズミの巣穴を踏み抜き天然の針山付きの落とし穴になる仕組みである。
主食が鉄の蟻でその鉄分は針に蓄えられ上質な鉄が取れる魔物で鍛冶師には人気らしいが、巣穴からあまり出て来ずに見つけるのが大変らしい…
しかし、俺にはソナー機能があり地中でも10メートルまではまる見え状態であり、大岩を上空に配達機能で移動させれば巣穴にいる罠ネズミを安全に狩れる。
正直、配達機能がこんなにぶっ壊れ機能とは思わなかった…
配達機能での岩落とし攻撃は勿論、毛皮が高級品のシルクゴートというヤギの魔物は、落とし穴プラス麻痺ガスの罠で痺れさせて、イチロー達を宅配機能で山まで送り込めば少ない傷で倒してくれて素材の回収が出来てしまうので、メインモニターで索敵しながら欲しい素材はイチロー達に頼み、ポイント狙いは岩をドンとしてそのまま販売機能でポイントに変換である。
岩山エリアのシルクゴートのおかげで我が家の敷物が高級になるし、ホークスさんの話では貴族相手の贈答品としても使える人気商品になるらしい。
しかし、獲物が枯渇した西の森の前例も有るので俺は獲り過ぎに注意しながら狩りを進めている。
それから俺はマスタールームに数日籠りたまに村の仕事をして、またマスタールームに籠る生活を繰り返し新年を迎えた。
魔物素材は冬前にマイホームにしていた納屋にパンパンに押し込み、この納屋を使う予定だった革細工と縫い物工場はハリーさんとカモイさん夫婦が最初に使っていた家を利用してもらった。
ちなみに、大工の二組の夫婦はそれぞれの職人通りに作業場付の家を完成させている。
水晶等の鉱物資源など腐らない物は村の端にまとめてあるのだが、もう家庭用も業務用も保管倉庫が肉と食材でパンパンで狩りの獲物の回収すら大変になってきた。
焼き肉パーティーを春までに毎日しても食べきれないかも…乱獲しちゃったかな?と反省する…
まぁ、おかげでレベルは1コ上がったけど春まで狩りは控えるかな?…
冬眠してるヤツも増えたし…と決めて、のんびりと何日か過ごした1月のある日ナッツとマッスルトラウトの産卵を養殖池で眺めているとヒッキーちゃんが、
『バッツさんが馬車できたよ』
と報告してきたので、俺達は門にまで出迎えに行くとバッツさんとジョルジュ様の家のアイテムボックス持ちのオルトンさんが騎士さんを引き連れて現われた。
バッツさんは、
「久しぶり!
キース準男爵殿に頼みがあるんだけど食糧を分けてくれないかな?
再来月の国王様を招いたパーティーに古の森で冒険者が狩ってきたオークキングの肉を届けるんだけど難民の炊き出しに使う食材が足りないらしいから方々で購入して届ける予定なんだ。」
と説明してくれた。
ナイスタイミング!冬越しには家庭用の保管倉庫だけでも十分だし業務用を丸ごと渡しても問題ない。
「では、」
と、ヒッキーちゃんに頼んで俺の近くに木箱に入った芋や跳ね鹿の生肉や穴堀り猪の塩漬け肉等をポンポン出していき、
「どうぞ。」
と言って渡すと、アイテムボックス持ちのオルトンさんは食材の山を見て、
「準男爵様…流石にこの量は…入りきりません」
というので、俺が、
「痛みやすい物から入るだけ詰め込んでよ。
無理なら荷馬車も貸すから騎士さんの馬に引かせたら?」
と、言って荷馬車も貸してあげるがそれでも業務用保管倉庫の半分も吐き出せなかった…
バッツさんが、「幾らだい?」と聞くので俺は、
「難民への支援物資で金を取る訳ないです。
難民の方に頑張って下さいと励ましの言葉だけ届けてください。
もしも、足りなかったらまだありますのでジョルジュ様が春のパーティーに向かわれる時にまた取りに来て下さい。
これと同じぐらい在庫が有りますからね」
と言ってバッツさん達を見送った。
バッツさんは去り際に、
「今年の冬は占い師の婆さんの話では長引くらしいから村の食糧も余分にみておいた方がいいよ。
でもありがとう…助かったよ」
と、言ってナナムルへと向かって旅立った。
『長引くのかぁ…でも、食糧は足りるだろうから大丈夫だよね…』
と思っていた、二月の寒い朝に俺はヒッキーちゃんに叩き起こされた。
投影クリスタルに焦ったヒッキーちゃんが映しだされ、
「マスター、起きて!ヤバイよ魔物の大群だよ!!」
騒いでいる。
俺は、寝ぼけ眼で脳内のマップで確認すると森の奥の敷地の端に魔物の反応を示す赤い点が蠢いているのを確認し、
「やべーじゃねぇーかっ!!」
と飛び起きヒッキーちゃんに、
「村に警報鳴らして、ホークスさんに屋敷に全員避難をお願いして、ガーディアンチームは武器を所持して壁の上で待機!」
と、指示を出して、
勿体ないなんて言って居られないからヒッキーポイントを使い、迎撃用バリスタを2つ交換して壁の上に設置した。
バリスタの矢を二セット交換し、運用をイチロー達に任せて、俺は魔物の群れが来る方向の壁の前を範囲回収をくりかえして空堀を張り巡らす作業を始める…
俺はマスタールームで範囲回収に専念し報告作業の済んだヒッキーちゃんは、資材倉庫に無尽蔵に貯まっていく土を使い、魔物の群れが空堀のあるバリスタの射程内へと集まる様に誘導用の土手を作ってもらう。
ハの字に広がる土手が完成し、落とし穴も兼ねた深い堀が出来る頃には、村人の退避も完了して何とか魔物の群れを迎え討つ準備が出来た。
なんだよ?!マジで勘弁してくれよ…
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