第87話 次へのステップ
村に戻った翌日、ようやく通常運転の日々が始まる…
といってもガルさん親子に再び馬車の作成をお願いして、大型資材倉庫を使いウッドチップから木材生成で作った馬車の客室の組み立てをハリーさんとカモイさんにお願いして、奥さまチームに内装とベアードさん親子に外装の装飾をお願いするだけで俺自身は冬前の様な暮らしをするだけだ。
「作ってもらったばかりなのに…スミマセン」
と、俺が頭を下げると皆は、
「王様に献上する馬車を作ったなんて自慢でしかない!
でも、旦那様に使って欲しいから頑張って春までに仕上げますよ」
と言ってくれた。
昨日ヒッキーちゃんの事でバタバタしていてあまり皆と話せなかったので、俺は村を巡り春までに行う事を決めていくのだが、先ずは雪が本格的に降る前に荷馬車でサイラスの町に行って安い酒を樽で購入して蒸留酒のストックを増やす事と、村特産の酒のアテの開発…といっても日持ちのするジャーキーかな?塩味の干し肉しか無いから複雑な味のジャーキーをロッソさんを中心に春ぐらいまでに開発したい。
そして、俺は実験的にマッスルトラウトの内臓などを使った〈イシル〉を作ろうと考えている…
しかし、材料が材料だし村の皆が怖がりそうだからこっそりとである。
サイラスの秋祭りに使ったマッスルトラウトの内臓…というかイクラや白子などが勿体ないからと、保管してある樽の活用のためで、もし失敗してもバレずに破棄すればいいだけの話である。
本当は、イクラが勿体ないから醤油漬けにして白飯にかけたいと考えていたのだが、
『あっ、醤油がないし、そもそも白飯が無い…』
となり、放置していた悲しい食材なのだ。
誰にも見つからない様に、マッスルトラウトの臓物樽に目分量で塩をブチ込み素手でかき混ぜるのは後々夢でうなされそうなので建設現場の角材を一本もらってきて、グーるグーると塩を混ぜ込み、
「ひとりでできちゃった!」
と、成功かどうかも解らないが俺的に満足したので熟成倉庫に入れておいた。
昨日、マスタールームでヒッキーちゃんのご機嫌取りがてら色々記憶の検索をしていて、マッスルトラウトの内臓は酒の肴用の鮭の内臓の塩辛をお手本にするよりも料理に使える醤油っぽい〈イシル〉を作ったら料理の幅が広がる!と閃いたのだが…作り方など正解に解る訳もない俺は、いくらマスタールームで記憶を検索したとしても前世でテレビなどで見聞きした程度の知識しかなく、魚の何をどのくらい熟成するのかも解らないので、とりあえずダメでもともとな感じでの実験的な試みである。
まぁ、数日おきにチェックすればそのうちコツを掴むだろう。
そして、ここからが肝心で冬の間に集中的に子供達に読み書き計算を教える事にしたのだ。
と言ってもホークスさんを中心に助手はシュガーちゃんにお任せする予定である。
なんと言っても、シュガーちゃんの計算力は下手な文官さんよりも高い…
これは俺が家庭教師をして彼女に九九に四則演算の知識を教えたからで、次はシュガーちゃんを委員長として他の子供達の学力アップを目指しているのだ。
『冬の間の午前中は授業で太陽が出て少し温かくなる午後から自由時間かな?』
などと考えていたら子供達からお願い事が飛び出した。
それは、最近サーラちゃんの卵鳥ファームのお手伝いを頑張っている洞窟組の女の子チームのココちゃんとララちゃん、そして、アンちゃんの三名から
「サーラちゃんみたいにお仕事を任せて欲しい!」
と…
卵鳥はサーラちゃんの孵化させたピッピちゃんがボスに君臨している理由からサーラちゃんが管理者となっているのだが、しかし、この三人のやる気を無駄にしたくない。
暫く「う~ん」と唸りながら考えて、閃いたのは、我が村の新事業である石鹸工房の職員さんだ。
材料を練ったり、型枠で整形したり、春には草原エリアに花を摘みに行けばオランオイルの要領で花の香りの石鹸も出来る。
洞窟組のお姉ちゃんポジションであるエラちゃんもお手伝いしてくれている角なし牧場のミルクの生産料も上がってきたしミルク成分配合って出来ないかな?…まぁ、当面は色々な香りの石鹸を作ろうと決め女の子チームを正式に『石鹸チーム』に任命すると、
「頑張るぞ~!」
と三人は燃えていた。
そして、ナッツの一番弟子のロイド君が、ボウガンでジャッカロープなどを狩ったり、師匠のナッツから色々と冒険者の手解きを受けているのを羨ましく思っていた小麦農家の次男マーク君と、ウチの村の商店長ビビアンさんの長男ダン君が、
「旦那様!冒険者に僕らもなりたいです」
とお願いされた。
ロイド君と違い保護者が居るので、
「親御さんに聞いてからね」
と答えて、先ずは小麦農家のエリック夫婦の元に行き、
「マーク君が冒険者になりたいって言ってるんだけど?」
と俺が相談すると、夫婦は、
「長男のランドが農業が好きであとを継いでくれますので、マークはやりたい様にさせてやりたいです」
との返事がかえってきた。
続いて、村の商会のビビアンさんに、
「長男のダン君が冒険者になりたいと言ってます」
と報告すると、
「大賛成です。
私としても主人の様に店を守って死んでしまう様な事にならないぐらいに強い男になって欲しいです。
亡くなった主人も、そのうち行商させても狼などに食べられない様に、まずは冒険者にして鍛えさせたいと申しておりました。」
との許可が降りたので雪が降る前にサイラスの町に買い物に行く時に、先日七歳になって冒険者登録出来るロイド君に合わせて、マーク君、ダン君の三人を正式に冒険者登録する事にした。
といっても冬場は基礎訓練とボウガンの練習で、春になれば草原エリアで薬草採集デビューの予定である。
そして冬場の練習には、俺とナッツと何故かセラさんまでコーチにつく事になった。
なんと、セラさんは槍や棒術の心得があるらしく、
『流石、暗殺一族の里出身だな…』
などと感心する俺であった。
新たな方針も決まり、早速翌日にはナッツが荷馬車で買い出しと冒険者組の登録に向かってくれた。
俺は、新たに作る町の為にヒッキーポイントを1ポイントでも貯めなければならないので自宅から出ずに、
「またお昼寝してる!」
と、サーラちゃんの厳しい指摘に耐える覚悟でマスタールームに向かい、前回、新たに範囲拡大で狩場に指定した岩山エリアで、水晶などの鉱物資源の採掘を行いクズ水晶などはポイントに変換し見事な物は馬車の水晶板硝子をまた注文したいから錬金ギルドに渡す材料として集めないと、マイホームの窓などの為に水晶のストックを全て吐き出してしまったので一から蓄え直して新たに作る街の為にも水晶だけでなく様々な鉱物資源もかなりの備蓄をしなければならない。
俺は鉱物資源を集めつつ、冬眠しない魔物を針山付きの落とし穴で倒したり虎バサミで捕まえて、近くの大岩を宅配機能で上空に座標をセットして、ドン!とぶつけるというマスタールームに引きこもったまま出来る何とも怠惰な狩りを始めた。
勿論毛皮等欲しい素材はもらい、あとはあまり欲張らずにポイントに変換する…
魔物一匹10ポイント程度だが塵ツモである。
マスタールームで作業していてもヒッキーちゃんは前みたいにベタベタと絡んで来なくはなったがスパゲッティを頬張りながら楽しそうにお手伝いしてくれている。
何か若干調子が狂うが、まぁ、すぐに馴れるだろう…
こうして我が村の春に向けての準備が始まった。
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