第86話 何か色々おこりました
はぁ~…やっとだ!…やっと俺は家路に向かうジョルジュ様の馬車隊の一台に乗せてもらっている。
我が家の愛馬バーンは引っ張ってきた馬車が献上用になり帰りは鞍を着けてナッツを乗せて騎士の列に並んでいる。
勇ましいぞバーン。
しかし、お貴族の馬車と言えどサスペンションが無いとここまでダメージが来るのかと思う…
これは痔主だった場合死にそうな突き上げを食らう勢いに、たとえ痔主でない俺でももう腰や背中まで痛くて仕方ない…
『お貴族様の馬車隊がちょくちょく休憩を挟む理由が初めて解ったよ…』
と納得しながらも尾てい骨から背骨をかけ上る衝撃と戦いながら、第一回目のパーティー料理の伝授を終えたロッソさんも村に帰ってくる事になり馬車の中で早速次のメニューの話をしつつ4日間かけて村に戻った時にはすでに堪え忍ぶ冬が始まっていた。
村へと続く小路の脇の草は冬枯れし、馬車を引く馬の吐息は白く外気の寒さを知らせていた。
そして、高い石壁が見えて来た時に、
『裏切り者、浮気者!マスターなんか知らないんだから!!』
とのヒッキーちゃんの怒る声が頭の中に聞こえてきた。
『相変わらず騒がしいな…俺のスキルは…』
と呆れながらも、村に到着した俺たちは送ってくれたジョルジュ様の馬車隊を見送り、いつもの平穏な日常に戻るハズだったのだが…ヘソを曲げてるヤツが約一名いる。
皆への説明と、新たに村に来たセラさんの紹介を簡単に済ませ、続いて皆から村の状況の報告を受けると、なんと留守中にハリーさんとカモイさんが頑張ってくれてマイホームが完全では無いがかなり住める状態まで仕上がっていた。
ホークスさんとロッソさんの部屋も出来ているから、暫くはセラさんはホークスさんと親子水入らずで過ごしてもらおう…などと冬籠もりに向けての準備を始めてもらいだした俺は、
「あ~、面倒臭いな…」
とボヤキながら、A子に頼み暖炉に火を入れてもらったマイホームの居間で久しぶりのマスタールームへと意識を飛ばす…
帰ってきて即お昼寝みたいで嫌だけど、『仕方ない…』と、諦めて入ったマスタールームでは、ヒッキーちゃんが荒れていた。
「マスターなんてキライ、キライ、キライっ!
帰って来たと思ったら、なんですか?
〈婚約お祝いポイントの付与って!!〉
私という嫁が居ながら…」
と、いじけ散らかしている。
ヒッキーちゃんが勝手に嫁、嫁と言っていただけで、俺が嫁に来てくれとは一度たりとも言っていない…
それにコイツは嫁になることより飯の誘惑に負けてマスタールームに居座る宣言をしたハズだと、少し呆れながら見ているとお菓子を買って貰えない子供の様にじたばたと床で暴れている。
『ブレイクダンスにしては下手くそだな…』
ぐらいの感想しか出ない俺は床でバタバタとしている寿命間近のセミみたいなヒッキーちゃんを暫く放っておこうと決めてメインモニターで作業を始める…
「あっ、有るわ婚約祝いポイントが5000…あれかな?人生の門出には5000ポイントくれるのがデフォルトかな?
しかし、またタイムリーな…誰が何処でチェックしてるんだろう?」
とブツブツ言いながらチェックをしている俺に、背後で、
「やけ食いしてやる…マスター!涙忘れるカクテルと詰め込む飯を頼む!!」
と言って、何処まで本気か解らないヒッキーちゃんは失恋レストランごっこを始めだしたので、やれやれと思いながらも、ヒッキールームの冷蔵庫やお菓子置き場を具現化した食糧でパンパンにしてやると彼女はテーブルに食べ物を並べて、
「ちくしょう、ちくしょう…」
と言いながらモリモリと食べている。
もう、飯も出したしヒッキーちゃんは食事に集中し始めて、「ちくしょう!」なのか、「松竹!」なのか解らない状態になっているので俺は、
「よし、放っておいて作業に移ろう」
と呟いて、仮で難民用の町の壁の見積もりをモニターを使い出してみる。
シーナさんとの婚約祝いで入った5000ポイントと、別荘指定枠用の1000ポイントが手元にある。
ユーノス辺境伯様は、
「大体1キロ四方の土地を春までに準備する。」
と言っていたから、やっぱり壁の高さや厚みを村の半分にしても5000近く要るな…とモニターの前に座り、何パターンか壁の高さや幅を調整していく…
別荘に指定した土地は範囲拡大機能で敷地を増やす事が出来ない条件だったが実際に隣の土地を購入して俺の土地がひろがると自動的に敷地として広がるのだろうか?…などと、マスタールームのメインモニター前で俺はブツブツと呟いている。
詳しい事を教えて欲しいがヒッキーちゃんはストライキ中だし…
「困ったなぁ…」
と誰に伝える訳でもないタメ息の様な呟きをもらすと、モニター画面にパソコンなどでよく知るメールの封筒の様なアイコンがピロンと現れた…
『えっ、メール機能って有ったの?!…誰から?』
と、怪しく思いながらも俺はモニターを操作してメールを開けると、
『メール機能を解放しました。
一週間のクールタイムを必要としますが、各種システムについての質問などをメールにて問い合わせが可能となります。
それと、婚約おめでとうございます。
引き続き良い異世界ライフをお過ごし下さい。』
との文字が現れたのだ…しかも日本語で…これで、うっすらだが俺にお祝いポイントをくれる人物の予想がついた。
…いや、もうそうとしか思えない俺は、
『お伺い致します。あなたは神様ですか?』
とだけ書いてメールを送ると、すぐにピロンと返事が届く。
俺は、ドキドキしながらメールを開くと、
『それは秘密です。
ですが、それだけでは勿体ないから先ほど考えていた疑問にお答えします。
別荘指定枠で指定出来るエリアは実際に所有している範囲に限定されます。
なので、家を購入して別荘指定し、その後隣の畑を実際に購入すれば自動で敷地の範囲に畑も組み込まれます。
その反対に自宅も別荘も誰かに所有された場合その土地や建物も他人の物になったその部分は除外されますので注意してください。』
と書いて有った。
『絶対神様だし、しかもマスタールームを見てるし、どうやら心が読めるっぽい…』
といっても聞いても教えてくれないだろうしそれを聞いたとてどうしようもない。
俺はモニターの端の、
『メール機能クールタイム、あと168時間』
というカウンターを眺めながら、
『まぁ、やることは変わらないし自宅警備スキルが成長してややこしくなったので質問メール機能はありがたい』
と、納得した後でヒッキールームでやけ食いしているヒッキーちゃんに向けてわざとらしく、
「やったぁー、メール機能でスキルについて何でも聞けるぞぉ~。
いじけて働かないナビゲーターをチェンジするにはっと!」
などと、やっているとマジ泣きのヒッキーちゃんがほっぺたにケチャップをつけたまま、
「マスターごめんなさいぃぃぃぃ…
でも、あたし、かなじぐでぇぇぇぇぇ…
お願いだから消さないでぇぇぇ!マスターと毎日一緒に頑張るからぁぁぁぁぁ!!」
と、お願いしてくる。
『ちょっとやり過ぎたかな?』
と少し反省しつつ俺は、
「消さないよ…今日は好きなモノいっぱい食べて、明日からはしっかりサポートお願いね」
と優しく語りかけると、
「わかった」
とだけ答えたヒッキーちゃんに、
「食べたいモノある?」
と聞くとフルフルと首を横にふりヒッキーちゃんは両手を広げて、
「マスター、怖かったからギュッとしてください。
安心したいです…」
とおねだりしてきた。
怖がらせ過ぎたからね…死刑をチラつかせた様なものだから…『二度としない!』と自分に言い聞かせながらハグしてあげると、ヒッキーちゃんは、
「マスターは私が必要?」
と聞くので俺は、
「そうだね、頼りにしてるよ。」
と答える。
するとヒッキーちゃんは、
「嫁?」
と聞くので、俺は、
「うーん、ビジネスパートナーかな?…でも、他には無い特別では有るかな…」
と答えるとヒッキーちゃんは、
「じゃあ、それで良い…」
とだけ言って暫く抱きついたまま泣いていた。
面倒臭いがある意味切っても切れない俺の一部だからな…
それこそ、嫁より凄いポジションだろうにと呆れつつ、今日は甘やかしてやろうと決める俺だった。
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