第84話 泣きたくなるようなお見合い
大騒動になってしまった翌朝…ダイムラー家の方が、
「何か起こる前にとりあえずジャルダン準男爵様をつれて参れと、旦那様より申し付けられ参上しました。」
と朝食終わりに身柄を押さえられ、ナッツに、
「帰りはいつになるか解らないけど…帰る頃にはもう…婚約者が居るかもしれないよ…」
と不安な気持ちを伝えようとすると、ナッツは、
「亡くなられた旦那様より、二十歳迄にはキース様に嫁が来るように手助けして欲しいと頼まれておりましたので肩の荷が1つ降ります。
ガッチリお見合い頑張ってくださいよ」
と、にこやかに送り出されてしまった…
そして、ダイムラー家の使用人さんの案内で辺境伯邸の中庭の見える客間に案内されて、
「どうか何処にも行かないでくださいませ…私共がお嬢様をお連れしますので…
二日に渡り延期になれば…私共が困りますので助けると思って!準男爵様…どうか宜しくお願い致します。」
と、懇願された。
もしかして、ダイムラー伯爵の令嬢はヒステリックな方々で使用人に辛くあたるのではと勘ぐってしまうほどの必死さに、
『どうしよう…将軍似でフィジカルも攻撃的でメンタルも攻撃的な女性だったら…
そんな女性とのお見合い…もう、どの引き出しを開けても不安しか入っていないな…』
と、震えて待っている俺だが、無情にも三連続のお見合いが始まってしまった。
『なんだよ…娘さんまで3連チャンでジェットストリームでアタックするのかよ…』
と思いながらも、一人目の母子の登場である。
第一夫人とその長女…
長女といっても、兄が二人居て、全体的には下から二番目の娘さんみたいだ。
「クライス・ド・ダイムラーの妻、エレオノールとその娘…」
との第一夫人の挨拶に続き、
「エトランゼです」
と元気に自己紹介してくれた活発そうなお嬢様だが
その前に…
『将軍様はどこぞの車メーカみたいな名前なんだな…』
と、要らないところが気になってしまった俺にエレオノール様は将軍との馴れ初めを語り、俺と同じ年のエトランゼさんの話をひたすら聞くという時間が流れ最後にはエトランゼさんに、
「ジャルダン準男爵様、何か私に質問とか御座いませんか?」
と、グイグイこられ…
「ご趣味は…」
と口に出したとたんに自分のアドリブ力の無さにドン引きした。
心の中のもう1人の自分が、
「うわっ、コイツお見合いでマジでご趣味を聞きやがった!!」
と言ってバカにしてくる始末…
正直、相手方の圧とテンポが俺を一歩引かせていたし、エトランゼさんの『お姉さまに負けたくない!』との理由だけでこのお見合いに挑んでいるのが見え隠れしていた。
俺は精神的にゴリゴリと削られるが、
「お時間です」
と、交代の時間が告げられ、
『何だろう…システマチックな夜のお店みたい…』
などと、不謹慎な感想を抱きながら二人を送り出し、続いて入室してきたのは第三夫人とその三女さんだが、子供全体だと末娘さんに位置するとのこと…『ややこしい…』などと考えている俺だがそんな事はお構い無しで第三夫人さんの、
「ミーシャと申します。
そして、こちらが娘の…ほら、挨拶を」
と、娘さんに挨拶を促すセリフでお見合いがはじまった。
すると、俺の前には、
「ローラだよ」
と言ってジュースを飲む無邪気な女の子がいる…
『ないわぁ~』とドン引きの俺が、
「ローラちゃ…さんはお歳は?」
と聞くと、
「11だよ。」
と答える…
『はい、アウトぉぉぉぉぉ!』
と、心の中の俺が審判衣裳でアウトを宣言するが、第二夫人さんは、
「これ、(11歳です)でしょ?!」
と、呑気に娘に言っているが…問題はソコではない!…俺は、ぎこちない笑顔のまま、
「かなり…その…お若い様な…」
とやんわりと告げるとミーシャ様は、
「貴族の婚約なんて、下手をすれば祝福の儀の前でもしますわよ?それこそ、成人の男性と赤子の婚約も…」
と、『何か問題でも?』みたいな顔で言ってくる…
『いや、問題しかないだろう!』
と考えてしまうのは前世の知識からだろうか?…しかし、無理なモノは無理なのである。
ローラちゃん本人も、
「お菓子」「お菓子」と、ウチのお菓子が目当ての様な感じがする…
そして、2連チャンでアウトを引いたっぽい俺は、ダイムラー伯爵様本人に軽い怒りを覚えていた…
1人目は元気の押し売りみたいな令嬢に、
2人目は自由奔放そうなお菓子好きの令嬢…
二人とも姪っ子ぐらいの立ち位置ならば可愛いと思うだろうが一緒に暮らす未来は見えて来ない…
『こりゃ、将軍様の令嬢とはたぶん俺と波長が合わないのかも知れません…申し訳ない…』
と思いながらも「ご趣味は?」などと話しをしていると、
「お時間です。」
との声を聞き少しホッとする自分が居た。
しかし、軽くグッタリしている俺の前に最後の組が登場する。
そう、三組目は第二夫人とその長女さんの女性である…
使用人さんから聞いた前情報では子供全体からみても長女さんとのことで、とりあえずパッとみても幼女でない事に一安心する俺に、第二夫人が、
「エレオノール様やミーシャさんの娘達と違い、少し年を食った行き遅れで申し訳ないのですが…
本人よりも私が嫁に行かせてやりたく、珍しく今回は本人も乗り気のようで…
あっ、未だ自己紹介もしてませんでしたね。
母親のテレジアです。」
と、マイペースそうなテレジア様とその娘さんは、なんと昨日泣いていた令嬢だった。
下を向き、
「ごめんなさい」
とだけ謝られた俺は、
『えっ、お見合い開始一分で断られたの?』
と、少しショックを受けたが、
『まぁ、仕方ないか…合う、合わないは人それぞれだし…』
と理解して、とりあえず疑問だけは解決しておこうと、
「昨日、広間で泣いて居られましたよね」
と声をかけると俯いていた顔をガバッと上げ、
「見ておられたのですか?」
と言って彼女は真っ赤になってしまった。
「たまたまですが…何故かな?って気になりましてね」
と聞くと、
「それは…」
と言って彼女は口ごもる。
みかねたテレジア様が、
「この娘は幼い時に婚約をしておりましたのですが、しかし祝福の儀で魔法適性が無い事が解り婚約を破棄された過去が…」
と話してくれたのだが、令嬢が、
「お母様後は私が話します。」
と言って決意した表情で俺に話し始めた。
「ジャルダン準男爵さま…
私は初めはあの石鹸を作ったという殿方だから興味を持ち、お父様と対峙しても一撃を入れたという勇気に胸がざわめきました。
しかし、『魔法適性なし』が理由で婚約を破棄された23の女…
お声をかけるか迷っているパーティーの夜にお父様の宣言を聞いてチャンスが巡ってきたと思いました。
年の近い妹達の方が良いだろうとは思いましたが、あなた様と話してみたいという気持ちが勝り…
しかし、心の何処かに準男爵の格下貴族であれば、曰く付きの私も嫁に行けるのでは…という打算的な考えがあったのだと思います…
しかし昨日、広間で準男爵様が高らかに、『魔法適性無し』が理由で軟禁されて育ったと仰るのを聞き、婚約破棄されただけで閉じ籠っていた私が恥ずかしくなり同時に愚かな考えで貴方に近づこうとした事を申し訳なく思い泣いてしまいました」
と、一気に話してくれた今も涙を流している彼女に俺は、
「俺という存在が気になったのは本当でしょ?」
と聞くと令嬢は、
「はい、神に誓いましてっ!」
と言って涙でぐしゃぐしゃの顔で答える…
だがこれ以上の会話など必要なく、この瞬間もう俺の心は決まっていた。
ポケットからハンカチを差し出し、
「心優しいお嬢さん、どうか涙を拭いて笑って下さい…そして、貴女の事がもっと知りたいので、先ずはお名前をお教え願えますでしょうか?」
というと、
「シーナ…です」
と、名乗り彼女はハンカチを受け取ったのだが、まだ状況が飲み込めてないシーナさんと、
「良いのですか?…本当に良いのですか?」
と念を押してくるテレジア様に、俺はニコリと笑いながら、
「はい、直感ですがシーナさんしかないと思いましたので…」
と答えると、ようやく俺の気持ちが伝わった様で今度は母子が抱き合い泣き出してしまった…
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