第82話 ちょっとした出来心


領都ナナムルに来て五日目…早い方は領地に戻るらしく、


「帰る前に是非一度」


と、奥方や令嬢に頼まれた貴族家の方々と軽くお話をするのだが内容的には、


Q、石鹸は、いつ頃買えます?


A、冬の手仕事で村で作りますので、春には…村の場所はサイラスの近くですよ、


との定型文の会話を繰り返すのみで、たまにどこぞの奥方が、


「ウチの○○ちゃんと同じ年頃ね…」


と、やんわり娘のアピールを食らうが、このワードが出ると旦那が青い顔で奥方の話を遮りソソクサと帰っていくのだ…


『凄いね、ダイムラー効果…』


と、感心しながらパーティー前にろくに出来なかった挨拶回りの代わりのイベントをこなして過ごしている。


普通なら下っぱ貴族の俺も帰って良いのだろうが馬車を献上する事が決まり帰る手段はバーンのみ…デカイ馬だから俺とナッツの2人乗りは出来るがホークスさんとロッソさんも帰ってくる予定なので帰りはジョルジュ様の馬車隊に乗せて貰う予定になった。


なので領地を持っている寄り子の貴族さんや町を任されている代官さんの会議が終わるまでは特にすることがない。


…嘘です…お見合いが三件…入っています…

そうです…昼を食べたらダイムラー家のお嬢様との顔合わせが待っているのだ。


正直なぜこうなったのかも、まだ飲み込めていないので少し憂鬱になりながら、あてがわれている自室に戻ると中からナッツとセラさんの声がする…


『おや?ナッツめ…冒険者ギルドにエリーちゃんという本命がいるのに、旅先でアレですか?…火遊びですか?

エリーちゃんにバラしちゃうよ…どれどれ?』


と、息を潜めて室内の会話を聞くと、


「あの!ここまで、反応が薄いと心配になるんですけど…」


と、セラさんの声がする。


『なに!?ナッツは何をされて、反応しないのだ…まさか!!』


と妄想する俺にナッツの声が聞こえる…


「何だよ、ツッコんで欲しいのかよ…」


と…


『はい!アウトぉぉぉぉ!!エリーちゃん、奴は黒ですぜ!

今まさに、セラさんはナッツを誘惑しナッツは反応しない様に我慢していたが…突っ込む流れに!!

あぁ、見たい…見たいが、相棒のそういうのは…あぁぁぁ!』


と1人でヒートアップしていたら、ナッツの、


「里の外で会ったら(初めまして)が鉄則だろ…」


との声が…


『なんと!知り合い…まさか元カノ?』


などと考えている俺をよそに中の二人の話しは続いている。


「滅んだ里の掟なんて誰が守るのよ!」


とのセラさんのセリフが聞こえ、


『ほへ?滅んだって…セラさん…暗殺系女子?』


と、プチパニックになる俺だが、次の瞬間に聞き耳を立てていた扉が開きナッツの、


「キース様…惜しかったですね。

初めは私も気づかないほどの見事な気配消しでしたが、聞き耳をたて始めて直ぐに何も隠せてなかったですよ…」


と、言って呆れながら俺を見ていた。


そして、改めての自己紹介となったのだが、彼女はナッツと同じ里出身でナッツより二歳上のお姉さんだった。


ナッツと同じく奴隷に落とされた1人で、今はホークスさんの養女らしい…

現在はユーノス辺境伯様の長男エルグ様のメイド兼諜報部員らしくパパとママが拾って来た準男爵が気になり直接辺境伯夫婦に聞いてもはぐらかされ、


「これは何かある!」


と送り込まれたのがセラさんらしい。


『まぁ、暗殺じゃ無くて良かったよ…』


と安心する俺だが、でもセラさん的には色々探ろうにもナッツが居るから、「あぁ、バレたな。」と、諦めていたが全く俺にバレて無くて、かえって不安になり、「反応が薄い」の下りになったらしい。


セラさんは、


「別に何か、この領地に仕掛ける風な事もないしホークス様が派遣された場所の貴族だから心配ないと申したのですがね…

エルグ様は、父上も母上も何かを隠していると聞いて下さらないので…」


と、困っている。


まぁ、前世持ちなんて言えないよね…と納得する俺だが、それよりも、


「セラさん、バラして大丈夫…一応、長男さんからの指令なんでしょ?」


と聞くと、セラさんは、


「ホークス様より、可能な限りで手伝ってくれとの指示でエルグ様の元でお仕事しておりますが、相手が本家筋のナッツ様…勝てる訳ないので、可能な範囲を外れています。

私だって折角拾った命…里の習わしで死にたく無ければ本家と死んでも対立するなと言われていたぐらいですよ…」


というと、ナッツはため息混じりに、


「セラ姉ちゃん…滅んだ里の習わしも無いだろう…」


と呆れている。


『あっ、お姉ちゃんポジションだったんだ…』


と俺は納得するが、納得出来ない点がある!


『ユーノス様の長男坊のあん畜生め!ニコニコとしてたが、裏で諜報部員を送りやがって!!

おぉ怖っ、貴族って嫌ぁ~ねぇ~。』


と、エルグ様への不信感を覚えた俺は、


「あぁ、傷ついた…大変な目に逢ってウチの村まで流れて来た難民の様な方々を助けたいだけなのに、

エルグ様は疑ってをおくって来たよ…どうしようナッツ」


と、わざとらしく言うと、セラさんは、


「刺客だなんて!」


と慌てるがナッツも悪ノリして、


「消しますか?」


と聞いてくる…

ナッツの名誉の為に言っておくが、彼は暗殺DTのはず…このまま魔法使いになり賢者として死んでいく予定だ。


しかし、ナッツの実家の事を嫌という程知っているセラさんは土下座する勢いで、


「マザコンで疑り深いですが悪い人ではないのです。

私も30手前で、母上が騙されて居るかも?!って探りを入れるって、キモいなぁ…とは思いますが、悪い人では…」


と懇願するセラさんを連れて、暇潰しがてらにホークスさんの元を訪問することになった。


お茶の時間までの時間潰しには最適だね…


「お宅の娘さんに諜報活動されました!」


って…ホークスさん驚くかな?…なんて、思っていた時期が俺にもありました…


はい、予想外にホークスさんが滅茶苦茶怒っています…


「ウチの娘を危ない任務に!!」


と、エルグ様に詰め寄り、


「ユーノス辺境伯様に直接抗議致します!」


と言い出して大変な事になってしまった…


『ちょっとした暇潰しだったけど…俺、知~らない!』


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