第81話 新たな洞窟難民を作らぬ為に


ナッツが街ブラから帰って来た。


ナッツは街を一巡りした後に門の外の難民集落を見て回ったらしいく、


『とてもじゃないがこの冬を越せるかすら怪しい…』


と、そんな感想だったそうだ。


アリア様の発案で教会と連携して炊き出しが行われているが長引く戦争でじわじわと食糧の確保も厳しくなってしまったのだとか…

戦争なんてやっぱりろくでもない…

領地奪えて喜ぶのは上の一握りで下の一般人はひどい目に合うだけだ。


俺がどうしようもない憤りを覚えていると、ナッツは、


「ハリーさん達の親方さんの工房にも行ってきましたよ。

冬の手仕事の準備だと言って作業をされていました。

冬の間は出稼ぎにも行けないのでタンスや椅子等を作るそうです…だいぶ仕事が無くて困っていましたね…」


と、報告してくれた。


それを聞いた俺が、


「それは困ったね…ジャルダン村なら仕事は沢山あるし、お給料も少しは出せるんだけどね…」


と呟くとナッツは、


「そう仰ると思って来年の出稼ぎ先にジャルダン村を薦めておきました」


と、言っていた。


「流石俺の相棒、解ってるぅ~」


と俺がナッツを誉めると、部屋の隅に控えていたセラさんが、


「クスッ…あっ!失礼しました。

あまりに仲がよろしいので…つい…」


と頭をさげる。


俺は、


「いいよセラさん。

あっ、ナッツこちらセラさん、お屋敷の事や街の事を教えてもらったんだ。

おかげでナッツの報告と合わせてやりたい事が決まったよ。」


というと、ナッツは、


「何を考えついたか知りませんが面白そうな事ならガルさん達が混ぜろ混ぜろ!とうるさいですからちゃんと出番をあげて下さいね」


と言っていた。


『大丈夫…ガルさんは勿論、辺境伯領も巻き込む予定だからね…』


そしてその日の夕食…ユーノス辺境伯様の一家のディナーに招かれたのだが、何故かダイムラー伯爵のご一家も一緒の食卓に着いていた。


どうもダイムラー伯爵様は俺が昼過ぎ迄寝ていたと聞いて再び奥方様達に、


「貴方が無茶をした傷が治ってないのよ!!」


と詰め寄られ、またお説教を食らっていたらしく、


「キースよ…大丈夫か?義理の父パパは心配だ…」


などと俺に話しかけるダイムラー様に、もう、どう答えて良いのやら解らない俺が苦笑いを返していると、ユーノス辺境伯様が、


「キース君、将軍に感謝しないとね。」


という。


俺が、『はてな?』と首を傾げるとアリア様が笑いながら、


「キース君の石鹸などの利権を狙って、自分の娘を…とか考えていた貴族家も居たでしょうが将軍様が娘を嫁に出すと宣言をしたから下手な縁談は無くなったわ」


と、教えてくれた。


将軍は、


「それは、オマケみたいなものだ。

心の底よりキースを義理の息子ウチの子にしたいと思ったのだ!」


と言ってくれたのだが、辺境伯様が、


「ダイムラー殿のところみたいに複数の奥方に囲まれるならば、第二、第三夫人の座を狙う者もいるだろうが、

まずダイムラー家の令嬢と婚礼が済む迄は、まぁ見合いの話題も出ないであろう。

キースを取り込んで儲けようとする貴族も商人も、将軍怖さに怖じ気づくだろうよのぅ」


と、楽しそうだ。


するとアリア様が、


「で…肝心のお嬢様方は何処に?

確か一緒にパーティーにいらっしゃって居たと思いますが…」


と、ダイムラー伯爵夫人達に聞くと、


「娘達は誰が嫁に行くかで揉めておりますので話し合いをさせております」


と、にこやかに答えていた。


しかし、俺としてはショックな報告である…


『確かに格下も格下のよく分からないポッと出の準男爵…

嫌がるのは解るが…押し付けあいで決めるって…』


と、メンタルボッコボコにされた俺は、


「揉めるほど嫌ならば…ご辞退を…」


と、恐る恐る提案するとダイムラー伯爵の三人の奥方は、


「嫌がって揉めてはおりません…

むしろ、誰が行けるかで昨晩より三つ巴のにらみ合いで…

三人とも母が違いますが、誰に似たのか負けん気が強くて、ついでに強い殿方が好きでして…

旦那様が認める若者など初めて現れて、しかもあの甘味や石鹸の開発者…それは、それは熱い戦いが…」


と話してくれたが、


『えっ、戦ってるの?話し合いでは無くて、姉妹で拳で語らっているの?…

でも、ダイムラー家ではそれが普通?…なのかも…』


と俺がムキムキの姉妹が拳で語り合う一子相伝の暗殺拳の使い手のような想像していると、ダイムラー伯爵様が、


「もう、我が娘が言い合っているのを見るのは心苦しい…

いっそのことまとめて、いっぺんにどうかな?」


と、無理な相談をしてくる…


「そんな、無茶苦茶な!娘さんをまとめ売りしないであげて下さいよ…」


と、呆れる俺に、


「そうだのぅ…」


と、困り果てるダイムラー伯爵様…

結局、怖くなりそれ以上娘さんの詳しい話し等も聞けないままでこの話題は一旦終了して、その後食事を楽しみそして俺は本題に入った。


長引く戦争で難民は増え続けいて、例え今この瞬間に終戦したとしても、すぐに普通の暮らしが始まる訳では無いし、もしかしたら戦争で疲弊した戦地以外からも難民は出るかも知れない状況であり、ナナムルの街では既に住民と難民のバランスがおかしな事になってしまっている。


元は北の領地で普通に暮らしていた技術を持った人を難民のままにしておくのは勿体ない…そこで、俺は、


「町を作りたいです!」


と、おねだりしてみたのだ。


ユーノス辺境伯様は、一瞬驚いたがホークスさんからの報告で聞いていたこと等を合わせ考えて、『コイツならやれるかも…』と、判断したようで、


「何をどうするか話してみよ…」


と言ってくれたので俺の欲しい物や、やりたい事を発表した。


まずは、『俺名義の土地』これは別荘指定するためだ。


とりあえず壁で囲み魔物から守り、仮設で構わないので長屋を大量につくり難民を受け入れ…人頭税など無い代わりに長屋に住む為に家賃をもらう。


そして、ナナムルの街の組合とは別の組織で、鍛冶、農業、木工、加工品、酒作りの各種大規模な工房をつくり町に住む大人は適性に応じて仕事をしてもらう。


お金が貯まったり独り立ちしたい人は、辺境伯派閥の町に家や農地を用意してもらい、手薄な町や村へと移住してもらえば難民は食べるのには困らなくなり、過疎の村や技術者の居ない場所へと人が送れる。


とまぁ、そんな難民の一時的な避難場所…次なる生活に移る為の町…勿論、子供達には教育を与え次なる世代の町や職場の運営が出来る人材を育てる取り組みも合わせて行うという計画で、その街では新型の馬車や、蒸留酒の製造等々ジャルダン村で試して上手く出来た事業を大規模で行い、難民の方々の食費や給料にあてて可能な限り難民から村人に戻る手助けをする町を作りたいですと、夢を語るとユーノス辺境伯様は、


「では、私からジャルダン準男爵に注文だ。

まず1人では無理なので新しい町は我が末息子ジーグを代官に据える事、文官職も一緒に数名つけるからお得だぞ。

そして、ここが肝心!私達がジーグのところの孫と会える距離…つまり、ナナムルの近くで町を作ることこれは譲れない。

あとは、春までにあの馬車をもう一台作り国王陛下に献上する事…無理ならばまだ車体に紋章が刻まれていないので、キース君が乗ってきたあの馬車自体を王へと献上して、王家のみに蒸留酒を作る事を例外的に認める事を了承してくれたら私がダイムラー伯爵の娘を嫁に貰ってもおかしくない爵位をもぎ取ってきてやる!

あと、甘味を作る工房も頼む…」


と交換条件を出してきた。


馬車は…仕方ないからアレを献上してしまおう…

しばらくパーティーも無いだろうし荷馬車で移動は十分なので、要らないといえば要らないから…

それと…お見合い…というか婚約は…絶対だよな?ダイムラー様そっくりのムッキムキの令嬢だったらどうしよう…不安だ…

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