第79話 勝負の行方と伯爵の決意
結果からいうとパーティーは無事に終了した。
もう、いろんな意味で俺の御披露目パーティーの様になっており、前日に半殺しの目に逢い尚もパーティーに顔を出した俺に、辺境伯領の貴族も周辺の寄り子の貴族達も、
『将軍と手合わせをしてボロ雑巾にされてもパーティーに出て来る根性のある若者』
として、特に軍部の方々に快く迎えてもらった。
しかし、それ以上に派閥の奥様方にはすでにキャラメルなどの甘味を作る若者として認知されていた上に、新たに石鹸をローズ様やユリアさんが中心となり布教して頂き派閥には無くてはならない存在として特別な扱いをしてもらっている様だった。
そんな状態の中で昨日の半殺し事件でダイムラー伯爵様が奥方達にこってりと絞られたそうで、パーティー会場の中心でワザワザこんな小僧に頭を下げて謝罪をしてくれた。
まぁ、奥方達の監視が有ったのでやらされていたのだろうが…
ユーノス辺境伯様はこのやり取りを見て、
「やぁ、良かった。
これで皆に新しい酒の御披露目が出来る。
この酒はジャルダン準男爵が研究をして作り上げた物を二種類を二樽ずつの計四樽献上してもらったものだ!酒好きの者で試してみたい者はおるか?」
と言っている。
すると誰かが、
「辺境伯様、酒好きといえば将軍しかおられません!」
と言い出したのだが、ダイムラー伯爵様は、
「我は酒はワインと決めておりまして…水の様なエール等は飲みませんし蜂蜜酒などは論外だと思っておりまして…」
と、あの攻撃的なオッサンは酒には保守的な様子で辺境伯様に、
「ほう、ダイムラー将軍は昨日ボロ雑巾の様にした相手からの勝負を避けるか?…これは、ジャルダン準男爵からの挑戦状だと思えよ。
この酒を飲んで無事でいられるかという勝負である!」
と煽り散らかされワインの様に木製ジョッキにブランデー樽の栓を緩めて注ぎ、
「変わった色だな…」
と呟いたダイムラー将軍は、
「では頂く」
と、ジョッキを俺にむけて掲げたあとジョッキでストレートのブランデーをグビリ、グビリと飲んだ後に盛大にムセていた。
ワインをジョッキで飲むのもどうかと思うけどワインの四倍近いアルコールの酒をスポーツドリンクぐらいの勢いで飲んだら大概むせるよね…と、俺が呆れて見ていると会場から、
「ジャルダン準男爵の勝ちだな!あの酒豪の将軍が飲み干せない酒とは…」
と、口々に言っている。
勿論、献上した時に飲み方や注意事項は伝えてある…これはある意味、問題を起こした将軍への辺境伯様からのイタズラである。
辺境伯様は、
「これ、将軍よ勿体ないことを…この酒の原料はなんと酒らしいぞ。
大量の酒を使い、濃くて強い酒を作る技術をジャルダン準男爵が開発したのだ。
しかも、この技術を我が派閥のみに公開して使用出来る様にと…
つまり、我が派閥に献上されたのはこの酒であるが、正式にはこの酒を作る技術だ!
水や湯で好みの強さにして飲むも良し、氷魔法を持つ者は氷を溶かしながら少しずつ飲むのも良し、ジュースで割れば奥方にも飲みやすい代物で何より、ワインの四倍近い酒精が有るので戦地に持って行く酒が四分の一に出来る優れものだが、くれぐれも、将軍のように一気に飲まぬように…むせるゆえにのぅ…」
と、会場の笑いを誘っていた。
ダイムラー将軍は真っ赤になっているが多分酒のせいでは無いだろう…しかし、将軍様は、
「ジャルダン準男爵、このダイムラー酒勝負に負けもうした!
我を負かしたジャルダン殿にどうかまだ決まっていないのであれば紋章を送らせてもらえないだろうか…」、
と申し出てくれた。
俺は、
「大変ありがたい申し出です…どうかヨロシクお願いいたします。」
というと、ダイムラー将軍は俺に握手を求め、俺はガッチリと握手をかえした。
すると小声でダイムラー様は、
「助かった…これで妻達に殺されずに済む…」
て笑っていたが、『物騒だな…』と俺は少し引いてしまった。
それからダイムラー様はまだジョッキに残るブランデーをチビリと口に含みユックリ味わいコクンと飲み込み…そして、
「旨いな…これの作り方を?…我が領地でも作れるか?」
と質問してくるので、俺は、
「はい、作るための装置の特許は私が持っておりますので、私にお小遣い程度の特許使用料さえ頂ければダイムラー様の領地で仕込み、樽で何年も寝かす事により味わい深い酒が作れますよ。」
と答えると、ダイムラー様はガッハッハと笑い、
「ユーノス様、ジャルダン準男爵のおかげで酒作りがしたい他派閥の貴族が合流を希望するかもしれませんな!
しかし、それよりもこの策士を我等が派閥から出さない様にせねば…」
と愉快そうに話し、そしてダイムラー伯爵様は上半身裸になる…
『おいおい、オッサン酔っ払ったか!』
と、慌てる俺をよそにダイムラー伯爵は、
「皆の者見てくれ!昨日の手合わせの件を知っていると思う。
ジャルダン準男爵が気を失う一撃を受けて負けたと騎士団の者達が説明したようだが、それは違う。
見よ!我が左胸、心の臓辺りに残る青アザを…
これはジャルダン準男爵の放った決死の覚悟の一撃の跡!
つまり、練習用の槍で無ければ多分勝負は相討ち…我と引き分ける猛者を他の派閥はおろか他家にくれてやるつもりは毛頭ない。
よって、我が娘を何としてもジャルダン準男爵の嫁に出そうと思う!!どうだ?!」
と、宣言してから周りの貴族を見回すと、パラパラと拍手が鳴り始める…
そして、満足そうなダイムラー伯爵と伯爵の奥様方も満足そうに俺を見ていた…
そう…パーティーは無事に終了したのだが俺自身が大変な事になってしまったのだった。
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