第78話 叱られる嬉しさ


ナッツから俺がボコされた詳細を聞いた…

聞いているだけでどことは言わないが「ヒュン」となる状況だった。


『幸か不孝かボコされた瞬間の記憶が無いのが唯一の救いだ…』


ダイムラー伯爵の一撃をガードもせずにモロに食らい、ユーノス辺境伯様のお抱え治癒魔法使いが老体に鞭を打ち魔力ポーションでトイレが近くなるのと戦いながら治癒魔法をかけてくれ現在に至るらしい。


治癒魔法使いの爺さんは、


「あとは、しっかりハイポーションを飲んどけ…それと、もう馬鹿な決闘はするな…」


と叱られたが…


『決闘などやろうと思ったことは無い…』


とりあえず俺が、


「ありがとうございました。」


と、治癒魔法使いの爺さんに頭を下げると、


「ちゃんと礼の言えるところをみると、まともな神経の持ち主じゃろう…

何処かの阿呆な戦闘狂に壊される前に縁を切れ…アリャ頭のおかしい奴だからな。

下手に戦争なんかをはじめてあんな頭のおかしい奴が出世できるチャンスを与えた時代を恨むわい!」


と、愚痴を言いながら爺さんは帰って行った。


俺はナッツに、


「爺さんはダイムラー伯爵様が嫌いなのかな?」


と聞くと相棒は、


「昨晩キース様の治療をしながらずっと、ワシが治せると思ってこんな若者にまで無茶苦茶しよって!と…お怒りでしたよ。」


と、報告してくれた。


『あぁ、常習犯なんだね…』


と納得しながら俺はテーブルのハイポーションをグビリ、グビリと飲む。


しかしまぁ…治癒魔法とハイポーションをもってしても身体中が痛痒い…


「あ~、オークチーフやヘルタイガーより怖かったよ…」


とポーションを飲み干して呟くとナッツも、


「ここでは落とし穴も使えませんからね…

本当に…見てるだけでビビりましたよ。

キース様、よくあれだけ動けましたね。」


と、誉めてくれた。


「あんなオッサンが暴れている戦場…絶対に行きたくない!」


そんな会話をナッツとしていると俺が目覚めたと治癒魔法使いの爺さんから聞いたのかユーノス辺境伯様とアリア様が部屋へと入ったきた。


辺境伯様は、


「血の気の多い者がすまん…」


とだけで言って頭を下げてくれたのだが、俺は、


「私こそ申し訳ありません…騎士団の方と軽い気持ちで手合わせを…」


と謝ると、アリア様がガバッっと抱きしめてくれて、


「貴方が謝ることなどありません…聞けば、罠での狩りを得意とすると何度も断り渋々稽古をつけてあげただけなのに…

きっと、自分の部下が負けて悔しかったのよ…でなければ成人したての魔法やスキルで肉体強化すら出来ない青年をソードマンのスキルを使ってまで…

人としてあり得ません!!」


と怒ってくれている…


『えっ?…まぁ、お貴族の当主様が何かしらのスキルを持っているのが普通かぁ…

それにしても、ソードマンって…

あの手が痺れるみたいな衝撃もスキルかな…怖ぇぇぇぇぇ!

俺の馬鹿!…2度と手合わせなんか頼まれてもしないでおこう…』


と、俺が一人で反省しているとアリア様は、


「痛いとこ無い?フラフラしない?」


と、心配してくれているのだが、


『母ちゃんみたいだな…』


と、少し嬉しくなってしまった。


すると、アリア様は、


「キース君、大怪我したのに何をニコニコしてるの?解ってる!危ないことはしないのよ!!」


と叱られた…しかしまたそれも嬉しく思い、俺は、


「私は嬉しいのです。

幼くして母上を亡くし全くと言っていい程に母の記憶も無く、第二夫人には愛情の欠片も与えられず…父上や、兄弟も…

心配してくれて叱ってくれる人がいるだけで…幸せ過ぎて勝手に笑みがこぼれてしまうのです…」


と伝えるとアリア様は再び俺を抱きしめ、


「言ったでしょ!親友が貴方に与えられなかった分の愛情を貴方に注ぐと!!」


と、言って泣いてくれた…すると、ユーノス辺境伯様も、


「私もだぞ…」


と格好良くキメたつもりだろうが、それがアリア様の逆鱗に触れたようで、


「旦那様も、旦那様です!

寄り子の伯爵一人手綱を握れずに…何人の若者が治療を必要としたことか!!」


と激オコで、いつものラブラブが嘘の様だった。


辺境伯様は、


「では、今から叱りに行ってくる…」


と言ってダイムラー伯爵様のもとに向かおうとするがアリア様は、


「旦那様…判断が遅いです!既に私が手を回しダイムラー伯爵家の第一から第三までの夫人達と娘に嫁…女性陣全員で伯爵様を吊し上げている頃ですわ!!」


と、凄く怖い発言が出て、何だか俺は一気にダイムラー伯爵様が可哀想に思えて来た。


『身内の女性全員から…と言うか、一人黒い三連星のオッサンでも奥方様は怖いんだね…』


と、思いながらも俺が、


「でも、凄いですねアリア様は一声でダイムラー家の女性陣を…」


と感心しているとアリア様は、


「何を言ってるの?

キース君が怪我させられたと聞いた皆様が自主的に、石鹸が手に入らなくなる!とか、キャラメルが買えなくなる!などと口々に飛んで帰られたのよ。

昨晩からこの部屋にも何度も使用人を向かわせ、まだ目を覚まさないのですかとしきりに聞いておりましたよ。」


と、教えてくれた。


『それはそれは…新作の石鹸を作ったら綺麗にパッケージしてダイムラー家の女性陣と使用人さんにも送ろう!勿論アリア様にもね…』


と決めて、


「アリア様…ご心配をおかけしました。

もうすぐパーティーが始まりますね…準備をしなければ…」


と、俺が言うとアリア様も辺境伯様も、


「大丈夫なのか?」


と口を揃えて心配してくれるので、


「少し無理してでも元気な姿をダイムラー家の女性陣に見ていただき、心配してくれた事に礼の一つも述べなければユーノス軍の将軍様は戦地以外で殉職する羽目になりかねませんので…」


と、俺が答えると辺境伯様は、


「キースよ、助かる…」


とだけ言っていたが…

辺境伯様としても早く決着しないと自分もヤバいと感じたのだろう…


『よし、俺は決めたぞ!アリア様を筆頭とする奥様連合ファーストの商品作りを心掛けよう!!』


と、俺は今後の商品作りの方針を決めてからミリンダさんに仕立ててもらった貴族服を着てナッツと二人でパーティーに向かったのだった。

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