第58話 意外な褒美?
到着したバッツさんに俺が、
「明日、皆様がいらっしゃるなら、また町まで帰るのも大変ですし泊まりますか?」
と聞くと、
「ジョルジュ様からも、兵士長のトーラス様からも、何がなんでも戻ってこい!と言われておりますので…」
とだけ告げて彼はサイラスの町へと帰って行った。
やはり前回の件でかなり叱られたのだろうと思いながらバッツさんの背中を見送り門の周りに集まった村の皆に向けて俺は、
「さぁ、いよいよ、いらっしゃるぞぉ!!」
と気合いを入れたのだった。
そして翌朝、我が村の運命を左右する決戦の日を向かえた。
村役場には辺境伯様達にユックリ商品などを見て貰える様にとカモイさんが作ってくれた少し頑丈なテーブルセットが新たに入り、村のあちこちには村の見学中に休むための丸太のベンチをハリーさんが作ってくれていた。
そう、大工の二人は本当に3日で燻製小屋をつくり、余った時間でテーブルや椅子にベンチを作ってくれていたのだ。
この日ばかりは村の皆も眠れなかったらしく、朝早くから俺の様に村の中を確認して回る様にうろうろしている。
『皆も落ち着かないんだろうな…仕方ないよ…ご領主様だもんな…』
と思いながら俺も同じ様にソワソワしながら村を巡り最終確認を済ませた頃に、
『お見えになりましたよマスター』
と、街道を監視してくれていたヒッキーちゃんから頭の中に直接報告が入ったので、俺は皆に声をかけて門の脇に並び村へ向かい小路を走ってくる馬車の列を出迎えるのだった。
すると、石垣の門くぐり立派な馬車が三台と騎士を乗せた馬が5頭、隊列を組んで村へと入ってきた。
馬車から降りたジョルジュさまが、
「こちらで御座います」
と馬車から見事な髭の紳士を案内してくる…
ビシッとした紳士の隣にはアリア様が居るので間違いなく辺境伯様であろうが、焦ってはイケない…こういうのは相手の名乗りを聞いてから反応するべきだろう。
『ほら、戦隊ヒーローも名乗りの時は静かに見ているのがマナーでしょ…』
などと考えながら、俺は頭を軽く下げたまま動かずにその時を待った。
すると紳士は、
「皆の者、出迎えご苦労…
私は、ワーグ・ドゥ・ユーノスである。
代表の者は…」
と、落ち着いた声で名乗っている最中にアリア様が、
「キース君来たわよぉ~」
と俺に手を振っている。
すると紳士は、
「もう、アリアちゃん…格好つけてるのに…」
と、優しい声で文句を言いながら少し猫背になり、
「あ~あれだ、初めての人達だからちょっと頑張ってみただけだからね…皆さん楽にして下さい…
貴族と言っても、王国の端っこの土地をまとめて丸投げされてるだけの男だからね…」
と、砕けて話してくれるのだが、
『領土を丸投げされるって十分凄いですよ…』
と、ツッコミたくなるが俺はグッと我慢して村役場に皆さんをご案内して、村役場のテーブルについた辺境伯様達に田舎までの長旅を労う為のお茶とバターたっぷりのパイをお出ししてから、
「ユーノス辺境伯様、そしてアリア様…未だ名も無き我が村にようこそいらっしゃいませ。
サイラスの町から数時間もかかる田舎で何も有りませんが、元気な角なしの搾りたてのミルクで作ったミルクパイで御座います。
香り付けにこの村が廃棄される前よりこの村を見守ってくれた我が家自慢のオランの木を一年かけて手入れして、昨年末にようやく収穫できましたオランの実を使っております。
どうぞご賞味下さいませ…」
と俺が言うと、辺境伯様とは別の馬車で来た文官さんがパイを見つめた後に、コクリと頷くと辺境伯は「うむ」と言ってからパクっと頬張る。
鑑定士さんかな?…たしかに、こんな知らない土地で毒とか怖いからね…などと感心していた俺だが、威厳たっぷりに「うむ」とか言っていた辺境伯さまが今は、
「うわぁ、これは何とも…!
おい!ジョルジュ、ズルいぞ!!
サイラスの町の旨い物の情報は随時報告せよと言っておったであろう!?…こんなに旨い物を隠していたとは!!」
と怒っている…というか拗ねているのを見て俺はなんとも複雑な気分になってしまっていた。
辺境伯様の言葉にジョルジュ様も困り顔で、
「私もこのような甘味は初めて出会いました…バッツ、そなたこの甘味を知っておるか?」
とバッツさんに聞くと、
「はっ、サイラスの町に同一の甘味はおろか、パイなる焼き菓子を扱う店は御座いません」
と、バッツさんがキビキビ答える。
『おっ、酒が入ってないとバッツさんは仕事が出来る男って雰囲気だな…』
などと俺は少し失礼な感想を頭の中だけで考えているといる。
そして辺境伯様も、
「バッツ君が言うなら本当だね…」
と納得するのだが、ジョルジュ様は、
「それは酷い…それではまるで私が嘘つきの様では有りませんか…」
と、今度はジョルジュ様が拗ねてしまうのだった。
それを見たアリア様が、
「はいはい、旦那様もジョルジュ様も仲良くね。
幼なじみは大事なものですよ」
と言いながらお茶を楽しんでいる。
どうやら辺境伯様とジョルジュ様は幼なじみで美味しい物を教えあう仲…そして、バッツさんはこの二人専属のリサーチ役なんだね…理解しました…つまり、バッツさんを取り込めば食品関係は勝てるかもしれない!…などと有益な情報を得ることが出来て喜ぶ俺にアリア様が、
「キース君、この間のキャラメルは有りますか?」
と聞くので俺は、
「はい、もちろんです」
と答えてからヒッキーちゃんに頼んで家庭用保管倉庫から俺を座標にキャラメルの入った小箱を飛ばしてもらうと、急に現れた鉄製の入れ物に辺境伯様が、
「おぉ、アイテムボックス持ちか!」
と驚くのだが、ジョルジュ様が、
「いえ、キース君はゴーレム等を使役出来る能力と言いましょうか…そして、そこなるアイテムボックスを使う精霊の少女を仲間にしております。」
と、辺境伯様に説明しているのだが、
ヒッキーちゃんが精霊?…まぁ実体が無いから間違っては無いけど…正確ではないな…精霊ってもっと…こう…と、俺はちょっぴりヒッキーちゃんに失礼な事を思いながらも、ジョルジュ様の言葉をあえて訂正せずに話の流れを伺う。
辺境伯様は、
「ゴーレム?」
と言っているので、俺はイチローに兜を脱ぐ様に指示すると兜の下から更に仮面の様な顔が現れ、
「イチローと申します」
と、ウチのガーディアンゴーレムのリーダーが挨拶をすると、辺境伯様は、
「ゴーレムがしゃべった!」
と驚き、びっくりして喉が乾いたのかお茶を飲み干した辺境伯様のカップにA子がお茶を注ぐと、辺境伯様は自分のカップに注がれるお茶のポットを持つ手から遡りA子の顔を見る…
すると、目が合ったA子がペコリと会釈をすると、つられて辺境伯様も会釈をした後に隣のジョルジュ様を見て、
「ゴーレムのメイドなど初めて見たぞ…ゴーレムとはあれ程しなやかに動くのか?
下手なメイドより洗練された動きだぞ!?」
と聞いている。
俺が
「A子ちゃん、辺境伯様が洗練された動きのメイドだって誉めてくれてるよ」
と、伝えるとA子は顔を隠してモジモジしている。
その姿を見た辺境伯様は、ジョルジュ様に
「照れておるぞ!…なぜこんな面白い場所を隠していたジョルジュよ」
と、改めてジョルジュ様が責められている。
みかねたアリア様が、
「旦那さま、あ~ん」
というと辺境伯様は条件反射の様に、
「あ~ん。」
と言って口を開けて、そのデレッと蕩け落ちるような笑顔の辺境伯様の口に、アリア様がポイっとキャラメルを放り込み、
「怒らないの…はい、ゆっくり舐め溶かして召し上がれ」
と優しく語りかけ、キャラメルの食べ方を教えてあげている。
『仲がよろしいことで…』
と思いながら俺は偉いさんのイチャイチャを眺めていた。
そんなやり取りをしながら、ヘルタイガーの礼を言われた後にユーノス辺境伯様は急にシリアスな顔になり、
「調べたところナルガ子爵の死に少し不審な点がある…そなたが望むならば私が後ろ楯になり子爵として返り咲く後押しをしようぞ」
と言ってくれたのだが、俺は、
「ありがたい申し出ですが、慎んでお断りいたします」
と答えると辺境伯は勿論、アリア様も驚いて、
「何故ですか?追放を取り消せれば子爵を継ぐのはキース君でしょ?
しかも、疑惑がある代替わりなら尚更…」
と、言ってくれたので俺は、
「ナルガ子爵の名前や領地に全く魅力や未練を感じないのも有りますが、理由はどうであれ弟が頑張っておりますので見守りたいのが本音です。
ただ、最近になり私が知っていた父や兄は一面にしか過ぎず、私を守る為にあのように振る舞うしかなかったかもしれないと知り戸惑う事もありましたが、父上や兄上の死が…もしかしたら母上さえも何かしらの陰謀に巻き込まれたとしても、それに対抗する力も今の私には有りませんし、あそこまで徹底して私を跡目争いから遠ざけた父上達は多分それを望んでおりません。」
と答えると辺境伯様は、
「そうか…では、ナルガ子爵の家に未練は無いのだな」
と聞くので俺は、
「えぇ、ソイルワームの魔石程も御座いません」
と、さっぱりとした笑顔で答える。
すると辺境伯様は、
「よし、ならばキースよ!
と言うので、俺は、
「はい、すでに
と答えると、辺境伯爵様はニッコリ微笑み、
「では、キースよ!
そなたには準男爵を与える。
すまないな、本当は子爵任命権が有れば与えてやって力を着けさせて、すぐにでもナルガ子爵家に巣食う悪を暴き出させてやりたいが…とりあえず、これでギリギリ貴族の当主たから、もしもナルガ子爵家が平民としてキース君を権力で害する事だけは無くなった訳だな。
いゃあ~、目出度い!我が辺境伯領に若い貴族が生まれたぞ!」
と、ご機嫌なのだが…
ん?あれ?…俺…貴族にされてない?!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます