第55話 呼び出された理由


ジョルジュ様からの説明ではユーノス辺境伯様のパーティーで例のヘルタイガーの肉が振る舞われ他の領地の貴族は勿論、この国の国王様達にも喜ばれて大盛況だったそうだ。


ユーノス辺境伯様がジョルジュ様を呼び出しヘルタイガーの調達を誉めたらしいのだがジョルジュ様が、


「そのお誉めの言葉は是非とも討伐したナルガ子爵の息子に…」


と、報告したらしい…

黙って誉めてもらっとけば良かったのに…ジョルジュ様も真面目だな…

そして、辺境伯様に俺について知っている情報や廃村を開拓し直している事などを伝えると、辺境伯様の隣にいたアリア奥様が次男の俺が軟禁生活の後に追放されて冒険者をしていると聞いて怒りだしてしまったらしいのだ。


理由は、同い年で幼なじみだった親友パトリシアの二人の息子の話は亡くなった母上からの手紙で知っていたアリア様だったが、母上の死後は手紙は勿論の事、社交パーティーでも派閥が違うナルガ子爵の詳しい話しもあまり聞かないままで、そして二年前の社交のシーズンに親友の旦那とその長男が戦死したと聞いたらしい。


親友の息子の死…出産前から母上に逐一手紙で知らされていた兄上の死は、アリア様にとっても甥っ子を亡くした様に悲しまれたそうだ。


「いつか、国王陛下のパーティーで逢える日を楽しみにしておりましたのに…」


と、アリア様は兄上の為に涙を流してくれた。


そして、次男が居ることも知っていたアリア様だがナルガ子爵の息子の少年が当主になったと聞いたが手紙に有った名前では無い…

しかし、他家の跡目の事を聞いてまわる事などを出来ないのでアリア様は、


『多分育っていれば成人前の年…もう、違う将来に向けて進んでいて、当主の話を断ったのかもしれない…一目顔を見たかったけど、残念…もう、親友の面影には逢えないのか…』


と諦めていた所に今回の話を聞いて親友の可愛い息子への扱いと現在の状況を知りアリア様は怒り、悲しみ…色々な感情がごちゃごちゃになり、居ても立ってもいられなくて俺に逢うためにサイラスの町までジョルジュ様についてきてたのだそうだ。


そして現在、絶賛俺を隅から隅まで見たり触ったり撫でたりしている…


『あの~、恥ずかしいのですけど…』


と言いたいが俺だが、ニコニコしながら涙を浮かべ、


「トリシアと一緒だ…」


と言っているアリア様に言える訳もなく、ジョルジュ様も、


『すまん、辛抱してくれ…』


みたいな顔だし、ナッツに至っては、


「良かったですね。」


と一緒に喜んでいる。


そんなイベントも終了し、現在ジョルジュ様の屋敷でランチを頂きながらアリア様と色々な話しをしていたのだが、


「廃村を再開拓していると聞きましたが、しっかり食べていますか?」


とアリア様に聞かれた俺は、


「はい、昨日も新たな住民が増えて歓迎会をしたところです」


と答えるとアリア様は、


「まぁ、それは楽しそうね…どんな感じだったのかしら?」


と聞くので詳しい説明をしようとしたのだが、ジョルジュ様が、


「ゴーダ!」


と呼ぶと、玄関から案内してくれたオジサンが側に近寄るとジョルジュ様は、


「バッツが村まで行ったのであろう?

あやつは一度見たり聞いたりした物を正確に覚えるスキルを持っておったであろう。

呼んできてくれ。」


と言ったのだが、ゴーダと呼ばれたオジサンは凄く気まずそうにジョルジュ様に耳打ちをすると、ジョルジュ様は、


「なんだと!?」


と、大きな声をあげる…

確かに、上司の奥さんの前で部下の自慢でもしようとしたら当の本人が二日酔いで欠勤…大声にもなるわな…

しかし、このままではバッツさんの雇い主への印象がヤバいと判断した俺は、


「ジョルジュ様、バッツさんを怒らないであげて下さい。

ウチの酒飲みの住人に無理矢理に飲まされたので…」


と、先に予防線を張っておいたが、ジョルジュ様はゴーダさんに、


「明日、酒が抜けたらトーラスと共に私の所に来るように伝えておけ」


と、少し怒って言っていた。


『バッツさん…本当にゴメン…』


と、俺は心の中で謝ったのだが、そんな事はお構いなしにアリア様は、


「それで、どの様な料理でしたの?」


と聞いてきたので話題を変える為にも俺は少し大袈裟に、


「ウチは自給自足を目指していますが、最近ようやくミルクが手に入る様になりまして、バターやミルクを使った料理に私が色々と研究して作ったパンで歓迎会を開きました。

メイン料理は、自宅近くで釣れた魚とウチの畑で収穫した野菜がゴロゴロ入ったクリームシチューです」


と説明したのだが…俺は、言った後で思い出したのだ…食い道楽のバッツさんが、見たことも無い料理だと言っていたのを…


『ヤバい?!』


と思った頃には時既に遅く、案の定、


「クリーム?シチュー??…聞いたことが有りませんが…どの様な料理ですの?」


とアリア様が興味津々だし、悪いことにランチの最中だったので部屋の端に料理長さんが控えていたのだ。


勿論、料理長さんは知らない料理など無いであろう料理のプロ…具材や料理法を知れば再現など容易なはずで、これから俺が話す詳細を聞こうと神経を研ぎ澄ませている様だった。


まぁ、別に秘伝のレシピでもないし料理長さんが再現してくれたら手間が省けるとレシピを詳しく説明したのだが、アリア様は、


「味が想像出来ませんわ…」


と困っている。


するとジョルジュ様は自慢気に、


「では、我が家の料理長に作らせます」


と、言ったのだが料理長さんは、


「申し訳ありません…その…ホワイトソース?なるものの作り方が…全くもって…」


と、申し訳無さそうに下を向いた…


『ヤバい!このままではバッツさんに続いて、料理長さんまでもピンチだ!』


と、多重巻き込み事故を回避すべく俺は、


「じっくりコトコト煮込んだほうがおいしいですが、基本は簡単なので料理長さんの力をお借り出来れば作れます。

多分、村で作ったより一流料理人さんの作ったシチューは最高なはずです。

ジョルジュ様、料理長さんとシチューを作らせて頂けますか?」


と畳み掛ける様に『俺には料理長が必要です』アピールをしておいた。


ジョルジュ様は俺の必死な迫力に気圧されながらも、


「お、おう、キース君が良いのであれば、すまないが料理長に手ほどきを頼む」


と、許可が出たのでアリア様に、


「夕食迄には仕上がります。」


と俺が伝えると、


「ふふっ、昼食が終わってすぐに、もう夕食の話って…トリシアと一緒ね。」


と笑っている。


母上は食いしん坊キャラだったのかな?と思いながらも、急な呼び出しで村の中でお土産を探したが特に見当たらず、仕方なく最近ウチのメイドゴーレムチームが当番制で作ってくれているキャラメルを持ってきたのでそれを鞄から取り出して、


「皆様は食後のお茶でもして出来上がりをお待ちください。

これを良ければどうぞ、ウチの村で作っているキャラメルというお菓子です。

舐め溶かして召し上がって頂く飴の様な物ですので…ナッツ、あとはヨロシク。」


と言って小箱をナッツに託した。


これは、くっ着かない包み紙など見当たらなかったので、ニルさんに作って貰った鉄製の弁当箱の様な小箱に粉砂糖を入れて、無理やりくっ着かない様にしてある品物だ。


勿論キャラメルの砂糖まぶし…ご想像の通り激甘である…

しかし、子供の達には大人気だしストレートティーと合わせたらイケるだろう…

持ってきておいて正解だったなと思いつつ俺は料理長の案内でクリームシチューを作るべくキッチンへと向かった。

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