第54話 呼び出された先で
馬に乗る兵士さんの後ろをバーンの引く荷馬車で追いかけて、はじめて行くジョルジュ様の仕事場兼自宅の大きなお屋敷にむかうのだが我が家を出発してから馬に乗るのも大変そうな兵士さんに、
「二日酔いですか?」
と聞くと、
「うぅっ…ぷ…面目無い…あんなに上等な酒を飲んだことが無いもので…つい…」
と言っている。
一般的なワインを熟成倉庫にブチ込んだだけです…と思いながらも、見ていて辛いのでナッツにお願いして兵士さんと場所替えしてもらい、ナッツは馬に兵士さんは荷馬車の運転席で俺の横に座っている。
「荷台で寝てて良いですよ…」
と俺が提案したのだが、
「いえ、流石に…」
と、言って兵士としての意地なのかユックリ寝ていれば良いものを頑張って俺の隣に座っているのだが、しかしずっと、
「うぷ…げぷっ…」
と、隣から音がするので俺が吐きそうになるから止めて欲しい。
そして、中間地点で隣からついに、
「うっ……ゴックン」
と聞こえた瞬間に気分的に限界に来てしまい荷馬車を停めて休憩をとった…もう、流石につらい…特に俺が…
「良いから、いっぺん吐いて楽になって下さい!」
と俺が提案するが兵士さんは、
「あんな高級食材や酒を吐くことは出来ません!」
と必死だ。
『なにを意地汚い事を…』
と、少し呆れる俺は、
「昨日の晩でしょ?もう、十分モトは取りましたよ。
もう、上からか下からかの僅差ですから!」
と提案して少しでも楽になるように促すが兵士さんは、
「いえ、結構朝方迄飲んでまして…うぷ…今ならまだ美味しいのが出せそうです。」
と最悪な情報をくれた瞬間に、色々と想像した俺がアウトになりキラキラと朝ごはんとサヨナラする事となってしまった。
そして、アウトになった俺を見た兵士さんもつられてアウトになるという、同時多発テロならぬ…同時多発
ナッツに背中をさすられ介抱されながら俺は、隣で盛大にリバースする兵士さんに、
「いつ頃まで飲んでいたんです?」
と聞くと兵士さんはふらつきながらも、
「お開きになった後で、ガルさんとニルさんと飲み続けて…うぷっ…
香り茸の話をした所までは覚えていますが、気がつけば三人裸でして…」
と、真っ赤な顔で爆弾発言をかます。
男達の夜のキノコ狩りだけは開催されていない事を祈りながら、想像したらまた戻しそうになるので後半はナッツに荷馬車を頼み、俺がサイラスの町まで心静かに馬に乗る事にしてもらった。
何とか無事にサイラスの町の北門近くまで着くと、兵士さんは、
「流石にここからは…」
と兵士さんは荷馬車から降りて自分の馬に跨がり颯爽と門をくぐり町に入る。
そこから町の中心のお屋敷に向かい大道りを進むのだが、自分がお貴族らしい事など経験した事が無いので今からお貴族様に逢うというだけで緊張する。
立派な屋敷の門をくぐり中庭で荷馬車を降りると以前ウチに来た文官職のオジサンが出迎えてくれた。
俺達と、酔っぱらいの赤ら顔を通り越して青白い顔の兵士さんを見てオジサンは、
「ようこそいらっしゃいました。
どうぞ、主がお待ちかねです…それと、バッツ!お前は何という顔色…それに酒の匂いも!!」
と、バッツと呼ばれた兵士さんが叱られそうだったので俺は慌てて、
「申し訳ありません。
昨日、我が家で新しい住民を歓迎する宴会が開かれておりまして…場がシラケるからと我が家の酒飲み達に無理矢理に…なので、あまり彼を責めないで頂きたい」
とお願いしておいた。
オジサンは、「あい、解った。」とばかりに、
「ご苦労…バッツよ下がって今日は休むと良い。
兵士長には私から話しておくので…」
と言って玄関からはこのオジサンに案内が変わった。
無駄に高そうな画や石像も無くて、凄くさっぱりしている上品な内装の建物を進む…
誰の趣味か知らないけど産まれ育ったアノお屋敷がなんとゴテゴテして下品だったか…よそのお宅を訪問してはじめて解るよ…貴族の家ってどこもあんな感じと思っていたけど、中には上品な貴族の家も有るんだね…と、関心しながら歩いていると少し広めの部屋に案内されて、
「こちらで、しばしお待ちを…」
と言ってオジサンは出ていった。
俺は、ナッツに、
「お洒落な貴族の家も有るんだね。」
と言うと、
「ナルガ子爵家のお屋敷でメイド長がよくボヤいてました。
第二夫人様のご趣味で屋敷の掃除が大変だと…私もよく解りませんが、たぶんこちらの御屋敷の雰囲気が普通なのでは?」
と言っている…
『やはり、俺の生まれたあのお屋敷はだいぶヤバい家だった様だ…それにしてもまた第二夫人…死者に文句を言うのはアレだが、父上…当主としてもう少し頑張れませんでしたか?』
と、お洒落な部屋の天井を眺めて、その先に居るかもしれない父に文句を言ってみた。
そうこうしていると、部屋の扉が開きジョルジュ様が入ってきたのだが隣には初めましてな女性が居る…
ジョルジュ様の奥さんかな?と思いつつ眺めているとジョルジュ様が、
「右の彼がナッツ君で、左の彼が…」
と紹介している最中に女性が俺に歩み寄り、
「えぇ、解りますよ…目元がトリシアそっくり…」
といって俺の肩を掴み目を覗き込むのだが…何一つ状況が掴めない。
トリシアと言う名前も聞き覚えがないし、
目元がそっくりと言われても…って…あれ!?母上の名前は〈パトリシア〉だったはず…
トリシアって母上の愛称かな??…
との結論に至ったのだが女性が誰かが全く解らないのは変わらない…
俺は、ジョルジュ様を助けを求める目で見つめると、それに気がついたジョルジュ様は『そうだった!』と思い出した様に、
「あぁ、キース君…
こちらはユーノス辺境伯夫人アリア様で、君のお亡くなりになったお母上の幼なじみなのだそうだ…」
と教えてくれたのだが情報量が多くて俺はピンと来ない…
『え~っと、母上の幼なじみでアリア様だね…
アリア様は辺境伯夫人で家名がユーノス…
ここは、ユーノス辺境伯領の町サイラスだから…
あ~、世の中には似たような家名なんてゴロゴロ……有るわけないよね…』
と、色々と理解した俺は心の中で、
『ご領主様の奥さまやないかぁ~い!』
と叫んでいた…
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