第53話 新人歓迎会
引っ越して来た大工さんの夫婦二組と村役場で顔見せを兼ねた集まりを開いている時に馬に乗った兵士さんがいらっしゃったらしく、俺達が門の所まで出迎えにいくと、
「キース殿、ナッツ殿、開門お願い致します」
との声が聞こえ俺が、
「開けてあげて。」
とサブローにお願いすると、
門の外には前回の恐喝冒険者の時にも来てくれたジョルジュ様の息子さんの部下の兵士さんが居た。
前回もサイラスの代官屋敷に伝言に馬を走らせてたから伝令役なんだろうな…と、思いながらも名前も知らない兵士さんを見つめて、
「なんでしょうか?」
と、恐る恐る聞く俺に兵士さんは、ビシッっと音が鳴りそうなほど背筋を伸ばし、思わず俺達も背筋がのびる。
そして、
「ジョルジュ様よりの伝言を申し上げます。
キース殿、ナッツ殿に大変急で申し訳無いのですが、明日の昼前迄に代官屋敷まで来て頂きたいとのこと…案内は私が致しますので格好等は気にせずに、是非とも会わせたい方がいるとのことであります。」
と言っているのだがお貴族様からの呼び出しなんて『怖い…』としか思わない。
俺は兵士さんに、
「お説教とかですかね?」
と聞くと、
「連れてこい!ではなくて、来て頂きたい。だから大丈夫ですよ」
と教えてくれたのだが…だとしても不安しかない…
とりあえず兵士さんと馬には石垣の中に入って貰ったのだが…
明日の朝サイラスの町に一緒に向かうと言う事は、彼は1泊お泊まりコースだ。
村役場は歓迎会会場になる予定だが…と、少し悩んだが俺は正直に兵士さんに、
「新たな住民が増えまして、今晩、歓迎会の予定でして…」
と切り出すと兵士さんは、
「忙しい時に申し訳ございません。」
と謝るので俺は慌てて、
「いえ、それは大丈夫なのですが、一晩泊まって頂く村役場としての建物が、歓迎会の会場となっていますので…一緒に盛り上がってくれませんか?」
と、彼を誘ってみた。
すると兵士さんは、
「いえ、自分は寝床さえあれば馬小屋でも軒下でも…」
と、遠慮していたので、
「なら、歓迎会会場が本日の寝床です。」
と、半ば強引に参加して貰ったのだった。
だって嫌でしょ…皆盛り上がってる家の外に外部のお客さんが居るなんて…
明日のサイラス行きの用事は不明のままだが、お説教では無いとの兵士さんの言葉を信じてその日の夜ご飯は皆と村役場でワイワイとミルクとバターを使ったクリームシチューを食べる事なり、テーブルには秋に取って保管倉庫に入れっぱなしだった食用キノコとナッツとロイド君が釣ってきた魚と畑で取れた野菜もゴロゴロ入った特別バージョンを並べた。
ハリーさんもカモイさんも、
「やっぱりここの料理は新鮮だし、街にもない旨いヤツが出るんだよ。
たまのお裾分けは弟子同士で取り合いになってたんだよ」
と言っていた。
『そんな事は早く言ってよ…お裾分けの量を増やしたのに…』
と、少し後悔した俺だったが奥さん達も、
「あら、こんな柔らかいパンは初めて…ナナムルの街で焼きたてを買ってももっと硬いわ…それに美味しい」
と、喜んでくれていた。
俺は、
「沢山有るから遠慮せずに沢山おかわりしてくださいね」
と言って夫婦の席を離れた。
何故ならこの宴の中にいてブッチギリで一番遠慮している人が一名いるからである。
それは食事に手を着けずに何かブツブツ言っている兵士さんだ。
俺は、兵士さんの隣に座り、
「兵士さん、どうしました?
もう、お勤めの時間は過ぎましたよね?
皆で盛り上がってるのに…我が家に遊びに来たと思って楽にして下さい」
と言って、熟成倉庫にブチ込んであったワインを木製のコップに注いで渡すと、兵士さんは、
「いえ、自分は食い道楽でして…サイラスの町は勿論、訓練等で訪れた各地の食べ物を見てきましたが、この様な煮込み料理を知らない上にこれほどに柔らかいパンを見た事が無い…
とても美味しそうだが食べるのが勿体なくて…」
と話してくれた。
それを聞いて黙ってなかったのがミリンダさんだった。
今回の料理を作ってくれた一人でもあるが彼女は、
「しっかり食べるのも兵士の仕事だし食材に感謝して食べるのが礼儀だよ。
美味しそうだから食べるのが勿体ないなんて、それこそ料理に失礼だよ。
料理と美人は眺めてるだけではそれこそ勿体ない!ってウチの主人もよく言ってたんだから…
まぁ、ここに出てくる美人はアタシだけどね!」
と…
『あれ?キャラ違いません??
片手にワイン持ってるし…ミリンダさん酔うとあんな感じなんだ…覚えておこう…』
と、一つ勉強になった俺だったのだが兵士さんもミリンダさんの説得…というか圧に負けたようで、
「では…」
と、言って食事を始めたのだが、一口食べたら少しフリーズし俺が『あれ?』っと思って覗きこむと兵士さんは急に凄い勢いでシチューをかきこみ、
「なんだこれはぁぁぁぁ!」
と叫んでいる。
投影クリスタルに映されたヒッキーちゃんが、
「味王様かよ。」
と、旨い物を食べると口から光を放つ老人に例えていたが…誰も知らんだろう…と呆れてしまう俺をよそに、兵士さんはシチューをおかわりしては、
『この香りは…はっ(香り茸)か!時期では無いのに…この香り…なぜだ!』
と言っている。
彼の名字は〈海原〉か〈山岡〉なのかな?と、心の中で俺もツッコミを入れたが、楽しんでくれているのでヨシとした。
最後にデザートとして雪解け水で冷やしたプリンを振る舞うと子供チームは、
「明日のおやつもコレが良い!」
と騒いでいる。
俺が、
「卵鳥達が増えて卵がいっぱい産まれたらミルクも有るからいっぱい作れる様になるよ」
と、説明するとシュガーちゃんは、
「ミルクをお乳が萎びるまで搾ります。」
と少し怖い事を言うし、サーラちゃんは、
「ピッピ達を閉じ込めてタマゴうむみゃで出しゃない!!」
と意気込んでいる。
発想が怖ぇぇぇよ…子供達もワイン飲んでない?オランジュースだけだよね?!…と、俺は少し心配になってしまった。
その後にナッツがガルさんとニルさん親子にワインを飲まされていたので、
「明日、朝からサイラス行きだからホドホドにね。」
と俺が言うと鍛冶屋の親子は兵士さんにターゲットを移し、
「自分も明日が有りますので…」
と断る兵士さんに、
「俺達にだって明日は来るから!飲もうぜ!」
と絡んでいる…
アルハラだな…酒はあまり出さない様にしようかな?…と、反省する俺だったが兵士さんは渋々ワインに口をつけると、
「えっ!?旨っ…」
と言って、しばらく固まった後でグビリと飲み干していたのだが、可哀想にそれからは鍛冶屋の親子に、
「よっ、良い飲みっぷり!いいね、よっ!町一番!!」
などと囃されていいオモチャにされていたようだった。
そして、酔っぱらい達が最後には新人さんや子供達に見せれない状態になり歓迎会はお開きとなった。
翌朝、俺はマスタールームで日課のヒッキーちゃんの食べ物コーナーを具現化で充実させている。
テレビも作れたからと日を分けて魔力切れに注意しながら冷蔵庫や電子レンジも具現化してヒッキールームに据え付けてあるので冷蔵庫にオムライスを入れながら俺は、
「お母さんちょっと出掛けて来るわ。
オムライス冷蔵庫に入ってるからお昼にチンして食べなさい」
と、小芝居をしてみるとヒッキーちゃんは、
「お母さん、またあの男の所にいくの?」
と乗ってくる。
俺も楽しくなり、
「ジョ、ジョルジュ様とはそんなんじゃないの…」
と言いながらもお菓子コーナーに追加で具現化した物を並べていると。
ヒッキーちゃんは、俺に近寄り、
「僕は、あんなヤツお父さんとは認めない…あんなヤツの所にいつも楽しそうに行くお母さんも…
こんなもの…こんなオムライスなんて…こうしてやる!!」
といって、冷蔵庫から入れたばかりのオムライスを取り出し…
そして勢いよくそのオムライスを…テーブルについて食べはじめる。
『食うんかい…床に叩きつけそうな勢いだっただろ?…あと、昼まで待てないのかよ…』
と俺が呆れて見ていると、ヒッキーちゃんは、
「お母さん、昨日のクリームシチューまだある?」
と聞いてくるので、
『あぁ、一人だけ食べれなかったからな…』
と気がつき、俺は昨日のクリームシチューの味を思い出しながら具現化してあげた。
朝の日課を終わらせて俺が、
「クリームシチューも有るから後でチンして食べなよ。」
と告げてマスタールームから出ようとすると、
「いってらっしいお母さん…
僕は、お母さんが幸せならば我慢できるよ…」
と、送り出すヒッキーちゃんに、
「まだ、続いてたのかよ…」
と呟きながら俺はベッドから起き上がった。
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