第52話 ようこそいらっしゃいませ
ポカポカと春の暖かい風の吹く昼下がりに2台の荷馬車がやって来た。
秋に引っ越し予約をして帰った大工さんは二人だが到着したのは4名だった…
それは独立した大工さん二名とその奥さん二名の計4名で、なんとリア充大工さん達だったのである。
二組の夫婦は辺境伯領の領都ナナムルの街から新天地を求めてウチにきてくれたのだ。
力持ちの〈ハリー〉さんに、
革細工職人の娘〈ティナ〉さん夫婦と、
手先が器用な〈カモイ〉さんと、
食堂の娘〈ノル〉さん夫婦だ。
ハリーさんとカモイさんの親方は、大手の大工さんが領都の仕事を一手に受けているので辺境伯領内の地方の町をメインに巡る大工さんだったそうで、それが証拠にウチに来るくらい田舎担当なのだろう。
昨年、サイラスの町での仕事終わりにウチの現場の話を受けて来てくれたのだが、親方からは、
「ナナムルの街で大工になっても大変だから別の場所で独立しないと奥さんを残して出稼ぎに行くしか選択肢が無い大工になる。
冬は家具作りと夏は出稼ぎの繰り返しは辛いぜ…」
と、いつも言われていて結婚を目前にした秋にここに仕事に来て二人共に、
「ここだ!!」
と、閃いたらしい。
木材は豊富にあるし、今から発展しそうで建物の建設に家具の制作としばらくは仕事にはありつけそうと感じたみたいだ。
二人の親方さんも、
「良い客だったから、しっかりした良い隣人のはずだ…頑張って信頼してもらえる様に仕事で答えろ」
と、応援してくれたらしい。
そして大工さん二人親方さんは、
「もしも、仕事を順調に受けて暮らせる様になったら二人で俺の隠居先を建ててくれよ」
と笑って送り出してくれたそうだ。
新婚さん二組には一旦ナッツの家にしようかな?と考えていた東のエリアの大工チームが建てくれた新築の家だがナッツ本人が、
「えっ、私は母屋で暮らしますよ?
むしろ養殖池の道具置き場と作業小屋として丸太小屋の納屋を下さい」
と言ったので空き家になっていた新築の家に入って貰った。
二世帯共同住宅だが2人も大工が居るのだから自分たちの家ぐらいすぐに建ててしまうだろう。
そんな二組の夫婦の荷馬車を引いてきた二頭の馬も我が家の牧場預かりとなり、新たな住人を迎えたのだが、しかしまずは村役場に住人を集めて全体会議をはじめて新たな住人に改めて皆の紹介…といっても半年近く居たハリーさんとカモイさんは別にして奥さんに向けた紹介だ。
奥さん二人はガーディアンやメイドゴーレムに酷く驚いていたのだが、ハリーさんとカモイさんが奥さん達に、
「キースの旦那のスキルでゴーレムさん達を使役しているんだよ。
昔ナナムルにも一人居たがゴーレムマスターっていうやつかな?」
と、説明していたのだがもう我が家の仲間入りしたハリーさん達に隠すのは嫌なので、俺がゴーレムマスターでは無くて自宅警備というよく分からないスキル持ちだがイチロー達の他に最近ではなんと指定したサイズに木材の製材も出来る様になったと説明したら、
「またまた、キースさんは冗談ばっかり。」
と信じなかったので、実際にやって見せたら、
「疑って申し訳ありません!家の材料をお願いします!」
と頭を下げられた。
次に馬が増えて藁が足りなくなる可能性が高いので小麦を育てる為に畑を増やす事が決まったのだが、ヒッキーちゃんから、
「資材倉庫の木材のウッドチップは、厩舎の床材に使えますよ」
との提案が出され、
『たしかウッドチップって競走馬の練習コースや厩舎の敷き藁の代わりに使ってたな…』
と思い出した俺は、たまに飛び出るヒッキーちゃんのナイスなアイデアに驚きながらも彼女を見ると投影クリスタルに映るヒッキーちゃんのドヤ顔が妙にムカつくのだが、確かにこれでウチの藁が足りない問題は解決してしまったので今回はドヤらせておく事にした。
ついでにハリーさんとカモイさんに、
「自宅製作の合間で構わないので鳥小屋をお願いします。」
と、もうすぐ卵を産める様になる卵鳥達の繁殖場所を依頼したのだが、ハリーさんとカモイさんは木材も使い放題だからか、俺の想像以上の大きさの卵鳥ハウスをサーラちゃんの、
「たくしゃん、たくしゃん入るのがいいにょ!」
という注文通りに作るらしい。
確かに卵鳥達は、最初のうちは可能な限り孵して数を増やしたいのだが予定の大きさの卵鳥ハウスが満タンになるにはかなりかかるかも知れない…
『まぁ、サーラちゃんがヤル気だし卵は安定供給出来た方が良いかな?』
と考えて俺は、
「サーラちゃんが頑張ってくれたからヒヨコが卵鳥に成長したのでどんどん数を増やしていくよ!」
と言うとミリンダさんが、
「あの~」と小さく手をあげたので、
「はい、ミリンダさん。」
と俺が委員長の様に指名すると、
「村長さん…卵鳥だけでは無くて、角なしの3頭のメスも実はお腹が膨れていまして…
オマケでついてきた子供のオスとメスも育ちメスの方はたぶん子牛を見たらミルクを出しそうです。」
と、報告してくれた。
牧場の仲間が一気に増えミルクの量も増えるかもしれないな…と俺は覚悟をして、続いてガルさん親子に資材倉庫で仕分けした鉄を見て貰うと、
「粒は小さいが、溶かしただけでインゴットに出来そうな純度の高い鉄だな」
と教えてくれた。
俺が、
「新しい機能で鉄鉱石から鉄を取り出せる様になったので次回から鉄を納品します。」
と、伝えると
「ひと手間減るから助かる」
とガルさん親子も言っていたので、
「減った分でお願いしたい事が…」
と前置きして、ヒッキーちゃんにお願いして馬が引っ張る耕運機具の馬鋤を映し出してもらい、
「これ出来ますか?」
と聞くと、ニルさんがメモを取りながら、
「これ、急ぎで作りますね。
それと、これはいつものように登録しますね。」
と言ったので、ボウガンと違い平和な商品なので了解しておいた。
ハリーさん達は、
「なんか…半年居ましたけど、こんなに凄い村だったんですね。」
と驚いていたが、今年の冬の新商品であるウチのお菓子やパンを食べたらもっと驚くだろう…
と、俺のイタズラ心も相まって今晩の開催が決定した、新人さんいらっしゃいパーティーにはホワホワのパンにクリームシチューと試しに熟成させたお酒と、デザートはなんとプリンを用意している。
『ようこそ我が家へ…
フッフッフ…もう、ここから引っ越したくなくならせてやる!
旨いものを食べて、幸せに暮らして、そして子沢山にでもなれば良い…
ぐへへっ、お前達を幸せにしてやろうかぁ~!』
ぐらいの気持ちで、晩のパーティーでのリアクションを期待していたのだが…
ナッツから養殖場とソイルワーム牧場の報告を受けて入る時にイチローが、
「警備のサブローから連絡が入りました。
石垣の入り口に馬に騎乗した兵士が一名到着したそうです」
と教えてくれた…
なんだろう?昼過ぎに来たら帰るの暗くなるのに…急ぎかな?…と、少し嫌な雰囲気を感じながら俺は門へと向かった。
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