第49話 平和な冬の午後
長かった冬も終盤…春の足音が聞こえはじめてきた。
我が家は今日も平和である。
ナッツは現在、昨年頑張って作った養殖池で卵の世話に夢中である。
年末に弟子のロイド君と釣った魚魔物の中から一種類にしぼり、3つの養殖池にはナッツ厳選のマッスルトラウトの卵が三種類入っているらしい。
〈兎に角大きな個体の卵〉
〈小さい個体を厳選した卵〉
そして、釣った本人しか解らない、
〈釣った時に手こずった強い個体の卵〉
らしい…
卵を産ませたマッスルトラウトは再び東の池にリリースして、今後は養殖池の魚に卵を産ませて次の世代を飼育する完全養殖を目指すのだそうだ。
ナッツは凝り性だからブランド魚が生まれる日も近いかも知れない…
そして、我が家のガーディアンゴーレム達はヘルタイガーの骨の能力が付与された装備を身に纏っている。
白っぽい全身鎧で力上昇の付与があり、武器も同じ魔鋼が使われた物を渡してある…どれもガルさん親子の力作だ。
勿論武器にも力上昇が付与されているのでガーディアン達には確実な戦力アップとなった。
しかし、俺達のは鋼ハサミ装備のままである。
なぜなら俺達はまだまだ成長期なので今装備を作ってもすぐに合わなくなる可能性があるのだ…
だからもうしばらく様子を見る事にしたのだが、イチロー達の装備が兎に角カッコイイので羨ましくはある。
それとゴーレム達の新装備で一番の有難いのは、ガルさんとニルさん親子が各々の鎧兜にバリエーションをつけてくれたので本人達がメインの武器を持っていない警備モードのガーディアンゴーレムが遠くからでも個体名を識別出来る様になった事だ。
それとこの冬に俺の大罪がもう1つ明るみに出た…
それは、『ガーディアン丸裸だったらメイドゴーレムも丸裸判定じゃないか!問題』である。
全くもって失念していた…あの状態が完成形だと…
一年近くメイドゴーレム達にスッポンポンで掃除をさせていた(とんだ変態野郎)だったのかと思うと俺は情けなくなり、ミリンダさんにお願いしてA子達メイドゴーレムの三人にサーラちゃんが手首に巻いたリボンの色をメインカラーにしたメイド服を作ってもらった。
まさかあの時に買い過ぎた生地が役に立つとは…おかげで今までは母屋に居るのはA子、畑や厩舎B子で、お風呂場はC子が担当と持ち場で判断していたが、空いた時間に三人に集まってもらい作業の手伝いを頼んでも誰が誰か判別できる様になり作業効率も上がった。
『ゴーレムの皆…裸で働かせてゴメン…』
そして、春の訪れを待っていた様にはしゃいでいるのはロイド君である。
彼はガルさんとニルさん親子の新作ボウガンを手に牧場エリア周辺で狩りをしている。
勿論、六歳になったばかりの少年を一人では行かせていない今日はジローと三体の小型ガーディアンと一緒だ。
ロイド君は数時間の散歩コースの様に自宅周辺を歩いて薬草等を採集しつつ、毎日一匹や二匹はジャッカロープなどの小型魔物を狩ってこれる様になった。
彼が冒険者になりたいのは知っていたが、なぜ急に駆け出し冒険者として稼ぎ易い薬草採集などの知識より小型魔物を倒せる様になりたいと言ったから謎であるが、何か本人的にやりたい事が見えたのかもしれない…
なので、この世界では魔法適性が有る者と貴族や金持ちぐらいしかほとんど学校に行かないのだが七歳から入学出来るので、何かを目指そうとしているらしいロイド君に「来年学校に行くかい?」と選択肢の幅を広げる提案をしてみたのだが、彼は、
「僕がなりたいのは立派な冒険者だから学校よりもナッツ師匠に狩りのコツを教えて欲しいです」
と、自分の意見を言ってくれた。
確実に屋敷の離れで燻っていた七歳の頃の前世の記憶の有る俺よりも、しっかりと自分の人生を歩んでいると思えるロイド君に頭の下がる思いだった。
そして、お兄ちゃんが狩りの練習の間はサーラちゃんはシュガーお姉ちゃんとお勉強や動物世話を頑張っており、むしろサーラちゃんはお兄ちゃんよりも成長を感じる様に思える。
この成長株はサーラちゃんが四歳になったのもあるがシュガーちゃんの誘導のさせ方が上手いのが大きいかもしれない…
シュガーちゃんの家庭教師として俺が教えた知識を上手にサーラちゃんやロイド君に教えるだけでなく、俺とヒッキーちゃんで試行錯誤して完成したミルクの活用方であるキャラメル制作のレシピを確立させて現在はA子が母屋の大鍋を使い弱火で焦げない様にグツグツしてくれているのだが、
そのキャラメルを使いシュガーちゃんは、お菓子大好きなサーラちゃんのやる気スイッチを押して、更に
「甘いもモノを食べたら体を動かさなきゃ、立派な大人の女性になれないわよ」
と、動物の世話や掃除に洗濯とメイドゴーレム達に頼らずに将来のサーラちゃんの為にと家事まで教えてくれている。
俺はそれを見て、便利だし助かるからと何でもかんでもA子達に頼ってしまっていた事を恥じた。
サーラちゃん達の将来の為には家事の練習も必要なんだと痛感しシュガーちゃんはここが発展して村になったら絶対に先生として雇おうと心に誓った。
しかし、手鏡をプレゼントしてからはおしゃれに目覚めたシュガーちゃんはもしかすると、いずれ華やかな都会に憧れてここを出ていくかも知れない…
などと、娘の将来を思う父親の気分も少し解った気がする俺であるが、もっと父親というかパパの気分を味わうのがサーラちゃんである。
「そんちょー、ホットきぇーきつくってっ!」
と、おねだりしてくるので、
「シュガーちゃんと文字のお勉強して、明日のテストで(はなまる)を貰ったらね。」
というと、
「まかせちぇ!」
と、舌ったらずに話すのだが、最近周囲の人達と沢山お話をしているので、徐々にしっかりと話せるようになるサーラちゃんに俺はパパの様に娘の成長を感じて嬉しく思っているのだ。
そして、そんなパパ気分な俺は子供達の為に柔らかいパン作りを目指して冬の間に研究を重ねてきた。
まぁ、ヒッキーちゃんの検索で大概の事は解ってしまうのでそんなに難しい研究ではない…
前世では車椅子生活で外出もままならず、テレビやネットで膨大な情報を眺めて過ごしたのがこんなところで役に立つとは…
煮沸して消毒した瓶に生のリンゴや干し葡萄を入れてから湯冷ましした水等を加えて放置する方法で天然酵母を用意して、前世のネット情報の記憶からレシピを引っ張り出して天然酵母パンを焼いてみたのだ。
レシピ作りというよりも俺の腕前が上がるまでに何度も練習や研究が必要となったが酵母の作り方からパンのレシピまでちゃんと仕上がった。
やはり、異世界な事もあり粉の性質も違うらしく水分量などの微調整を必要としたが完成品にはミリンダさんも、
「柔らかくて子供達も食べやすいし、何より美味しいです。」
と誉めてくれたし、ガルさんなんかは、
「もう、あの硬いパンには戻れない…」
と、今後は俺がパンを焼かなければ死にそうな程に悩んでしまっているので、春には商業ギルドに行って相談して誰でも作れる様にレシピを公開しようかな?と、考えているのだが、それより先にミリンダさんもA子達メイドゴーレムも、「焼き方を覚えたい!」と言ってきたので、この冬、我が家ではホワホワのパンの作り手が一気に増えて我が家の食べる分程度であれば安定生産出来る様になった。
イチローの通訳のおかげでA子達メイドゴーレム三人の要望も聞けるので本当に助かっている。
それと冬の間は敷地内の森にそんなに獲物が居ないのであまりヒッキーポイントが貯まらない状況ではあるが、レベルが上がり1日に滞在ヒッキーポイントが俺の分で10ポイントと家族の追加ポイント全体で16ポイントも入るので一月で700ポイント以上手に入る…だから大型資材倉庫も二ヶ月程あれば手に入る計算だ。
しかし、大型資材倉庫の前に俺は母屋に熟成用の保管倉庫を交換したのだ。
パン作りの時に酵母作りやパン生地を寝かせる為に必要だったからであり、おかげでパンの仕込みが劇的に短縮された。
しかも、今はこっそり大工さん達に振る舞った残りのワインを樽ごと保管してある…まぁ実際の数日でだが多少は追加で寝せた事になっただろう。
しかし、問題は俺が酒に疎い事だ。
『良くなったのかも判定が出来ないので何かのおりにガルさんでも巻き込むかな?…』
などと考えながら、今日も俺は様々なパンのレシピを実際に作りながらまとめており既に家庭用の保管倉庫に今まで焼いたパンの名前が並んでいて、そろそろ倉庫整理をしなければならないほどである。
もうこっちの家庭用保管倉庫は仕上がったパンの倉庫にしようかな?などと片付け初めてすぐに、片付けあるあると言うのか…
『あっ、秋に収穫したキノコがそのままだったよ…』
と、なってしまい結局は片付けそっちのけになり、
「ヒッキーちゃん、キノコ調べた結果を教えてよ!」
というと、投影クリスタルから
『もう、しょうがないなぁ、のび…マス太君は。』
と、大山っぽい声が聞こえてくる…
まさか!と思いクリスタルの方を振り向くとシズカ風の衣裳のヒッキーちゃんが居た。
青い着ぐるみかと思ったがセーフと安堵する俺に、
「もう、マス太さんのエッチ!」
と言っているヒッキーちゃんは一旦無視することにした。
うん、我が家は今日も平和だ…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます