第48話 秋の終わりと別れと始まり


無事にヘルタイガーは凄い量のお肉になったみたいだ。


解体職人さん達が、


「肉に血が回っている部分が一部あったが、見事なまでに新鮮な肉質だった。

あれならば十分に辺境伯様のパーティーのメイン食材に使えそうだぜ!」


と言ってくれたので一安心である。


『流石にヘルタイガーへのトドメが岩による圧死だから内出血ぐらいあるよね…』


と、あの時の事を思いだして肌寒い秋の風とは関係なく少しブルっと震える自分がいた。


そして、解体した虎なのだが、ついでにパーティーの時に『コイツの肉だと』見せる為に虎の頭つきの毛皮等の素材も納品となった。


ジョルジュ様が、


「買い取り金額の相談だが…」


と言ってきたが、我が家としては正直な気持ちジョルジュ様には税金など色々とかなりの贔屓をしてもらっているし、今回は大工さんの件もある。


それにウチは特許料のおかげでお金もあるのでナッツと相談の結果、


「我々からジョルジュ様にプレゼントします」


と伝えるとジョルジュ様は、


「いや、正式な討伐報酬だ!」


と、言ってくれたのだが『それならば』ということで、


「今回亡くなった冒険者の中にはウチに来てくれたシュガーちゃんとか、ロイド君とサーラちゃん兄妹の様な子供もいるかも知れないので、我が家に払う分のギルドの依頼達成の報酬金はその家族に分けてあげてください。

素材の買取分はジョルジュ様への日頃の御礼とでも…」


と告げた。


冒険者ギルドマスターのイルサックさんにも、


「もしも、今回遺族になった方々が街での生活が厳しければ、住む所は用意できるからウチに来て欲しいとお伝えて下さい。」


と提案しておいた。


こんな冬前にいきなり大黒柱を失った家族は冬を越えられないかも知れない…そんなのは俺も勿論嫌だがなにより同じ境遇のウチの子供チームが悲しむだろう…だから『それだけは避けたたいのです』との気持ちを俺が告げると、


「どうしても代金を払う」


と言っていたジョルジュ様にもようやく納得してもらう事ができた。


だけど解体職人さんから解体バラしたヘルタイガーの骨は、


「辺境伯様も使わないだろうから…」


ということで返ってきたのだが、


『いや、俺も扱いに困るよ…』


と、積み上がった骨の山を見て思っていたのだが、そんな骨をガルさんとニルさん親子が、


「もらって良い?」


と聞いてくるので俺が、


「別に良いけど、肉食獣の骨は出汁にしても美味しく無いんじゃない?」


と心配するとガルさん親子は、


「骨を粉にして鉄に混ぜて鍛えると魔物の素材の特性が付与された魔鋼まはがねになるからね。

ヘルタイガーの骨ならば力の上昇が付与されるので防具にしても武器にしても良い優秀な魔鋼になるからイチロー達は勿論のこと、こんなに有る骨と工房に有る鉄を使って旦那達の装備も作れますよ」


と言って、解体場横にうず高く積まれた骨をポンポンと叩いていた。


『 おぉ、それならばこれで倉庫パンパン問題とガーディアン裸しばりプレイ問題が一挙に解決する…』


と、喜んで骨を鍛冶師の親子にプレゼントして、


『あとは通常営業で朝は狩りで午前中は解体をして、午後は自由時間の感じかな?…

たぶんナッツは冬ギリギリまで釣りとロイド君の稽古だろうし、俺は午後はお菓子作りやパン釜戸の件を何とかするとして、夕食前にはシュガーちゃん達にお勉強を教えてあげよう』


と、今後の予定を思い描いていた。


シュガーちゃん達には、こんな田舎に来てくれたんだからそこらの子供もよりも勉強が出来る様になってもらって、少しでも将来の選択肢を増やしてあげたい…

それと、冬の手仕事は何しようか?…

去年より出来る事が沢山ありそうだから楽しみだな…

などと考えながら、解体作業が行われた次の日から俺達は冬の蓄えの為に狩りに励み数日経った。


今日は朝からミックさん率いる荷馬車の一団がウチに到着して、新築の牧場の家と東の区画の家に置く家具が運び込まれ、最後に大工さん達からそれらの建物の引渡しの書類にサインをして約半年近くに及ぶ建築工事が終了した。


おかげで現在厩舎には角なしが大人と子供合わせて6頭と、愛馬のバーンに、あとはかなり大きくなった若卵鳥の五羽がこれから来る冬でも温かく過ごせるようになっている。


大量の藁や飼料も頼んでいたので、我が家へやって来た商人さん達の沢山ある空っぽの馬車へと町に帰ってゆく大工さん達が別れを告げて乗り込んでいる。


親方さん達は、


「風呂の作り方も勉強になったし飯も新鮮で仕事終わりにひとっ風呂浴びれる…しかも最後には酒まで…最高の現場だったぜ!」


と握手で別れたのだが、その中で二人の大工さんが、


「キースの旦那…

俺達、来年の春で親方の元から一人立ちするんだけど…ここに来ちゃ駄目かな?」


と聞いてきたので俺は、


「良いのかい?

ウチは大歓迎だけど、もしかしたら住むところが村役場かあの丸太小屋ぐらいしか無いかもしれないよ?」


というと二人の大工さんは安心した様にニッコリと笑い、


「十分だよ。

イチロー君達が斬り倒した木材が春にはいい感じに乾くだろうから、それさえ使わしてくれたら家は自分達で建てられるからね。

なんと言っても俺達大工だぜ。」


と言っていた。


俺は、


「じゃあ、引っ越し祝いは北の森で斬り倒されてる木だからね。

二人が引っ越して来るのを楽しみに待ってるよ」


と言って大工さん達を見送った。


『よし、村人ゲットだぜ!!』


と喜んでいたのだが、この日から大変な事が増えた…

それは三頭の角なしのメスから毎日バケツ単位でミルクが取れるのだ。


ミリンダさん達がしっかりお世話してくれているので、角なし達もストレス無く毎日凄い量のミルクが搾れてしまう様で、いくら保管倉庫が有るとはいえ樽や壺やバケツが次々とミルクの入れ物として倉庫にしまわれて行き、自宅から全ての容器が消えそうな勢いである。


なので本格的な冬が来る前にサイラスの町に向かいミルク用の壺や樽を購入するついでに、栓が出来るガラス容器や干し葡萄やリンゴ等の果物を購入して追加で小麦粉や砂糖を買い込む事にした。


これでミルクを使う焼き菓子などを作ってみる予定である。


あとは卵も自家製にしたいが、我が家の卵鳥達はまだまだ産みそうにないので購入するしかない…

何とか少しでもミルクを消費していかなければ倉庫も圧迫されるし、俺も毎日牛乳でお腹が緩い…まさか生まれ変わっても牛乳が駄目な体とは思わなかった。


しかも(生乳)なので油分が多く、俺のお腹にダイレクトに大ダメージが入る…

たがら飲む以外の方法を模索しなければ俺のお腹とお尻が大変な事になってしまうのだ。


買い出しを終わらせて自宅に戻り、敷地内回収で母屋の土間に以前簡易の風呂に使っていた鉄釜や釜戸を転移して牛乳消費作戦会議をヒッキーちゃんと始めた。


ついでに、その釜戸の隣には薪オーブンも作って有るので色々試す事が出来る。


まずは生乳から生クリームを取り出す所からだ…

と言っても涼しい場所に置いておけば油分の多い生クリームが上部に集まるからそれを集めるだけだが…


『さぁ、まずは美味しいオヤツでサーラちゃんを驚かせてやるか!』


と意気込む俺だった。

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