第47話 バラすのは虎だけ


腐女子との一悶着があったが、一時間もせずに代官のジョルジュ様や文官さんや騎士さん数名と冒険者ギルドマスターのイルサックさんとまだ午前中でそんなに忙しくない解体場の親方が商業ギルドに集り、俺達がジョルジュ様に大工さんの派遣や手間賃の支払いの御礼や村での子供達の様子をイルサックさんに報告を簡単にした後、商業ギルドのマイトさんとルイードさんの進行のもとで話し合いが始まった。


そして、俺とナッツはよく解らないが多分罪状を読み上げられるのを待つばかりになっている。


緊張し始める俺とナッツをよそにマイトさんが、


「いきなり集まって頂き申し訳ない。

先に伝えた様にキース君達がヘルタイガーを討伐したそうだ。」


と話し始めた。


『あぁ、ワシントン条約的なヤツですか?虎ですもんね…』


と、俺達がしょんぼりして会議を聞いているとマイトさんは、


「まだ、実物は確認出来ていないが馬車に乗らない大きさの虎の魔物と二人から報告を受けているので多分間違いないだろう」


と続ける。


すると、ジョルジュ様が、


「真か?!」


と、俺達に聞いてくる。


俺は観念して両手を差し出しながら、


「知らなかったとはいえ殺してしまったのは事実です。

あの虎が大事な魔物だとは…」


と項垂れると、ジョルジュ様は首を傾げながら、


「マイトよ、彼らには事情を話したのか?」


と聞いている。


すると、マイトさんもルイードさんも、


「あっ、サイラスの町の者なら知っているものと…彼らは町の外で暮らしているから知らないかも知れません!これは失念しておりました。」


と慌てている。


すると、冒険者ギルドマスターのイルサックさんが、


「ジョルジュ様、私から彼らに説明をしても宜しいでしょうか?」


と言うとジョルジュ様は、


「うむ。」


とだけ返事をし、イルサックさんは、


「それでは…」


と言って説明をしてくれた。


イルサックさんの話では、もうすぐ貴族の方々は社交のシーズンになり冬の間は暗黙の了解で戦争も停止するらしいのだが、俺は貴族らしい生活はおろかパーティーなるものにも一度も参加した事ないから社交も戦争も全く知らなかった。


そして、辺境伯様もパーティーのホストとして他家の貴族の方々をもてなすらしいのだが、その時に出す料理の食材に滋養強壮効果のあるヘルタイガーの肉を出そうとしていたらしいのだ。


戦争で疲れた貴族さんは元気になるかも知れないが、戦争に行ってない様な油ギッシュなエロ貴族なんかはそんな物を食わせたところで、ただただ子供が増える結果になりそうだ。


そして、古の森へと冒険者ギルドから討伐隊が編成されたのだが発見したヘルタイガーにボコボコに負けて帰って来たり、はたまた帰らぬ人になったりしたそうなのだが…

もしかして、お住まいの巣から追い出されたヘルタイガーが静かな住み処を探してウチにきたのか?…迷惑な!!

と、まぁそんな訳でヘルタイガーの肉を諦めた所に俺達の登場となったらしい。


『良かった、別に倒して良い魔物だったみたいだ…』


と、安心する俺達だが、ジョルジュ様としては肉が腐る前に解体して辺境伯様のパーティー用に納品したいらしい。


サイラスの町にいるジョルジュ様の部下の一人がアイテムボックスという 俺の保管倉庫みたいなスキルの保持者であり、その人に運搬してもらうことにして明日の朝一番に解体場の職員さんを数名と運搬担当職員さん達とでウチの自宅に来て解体と納品のお願いされた。


肉は保管倉庫だから腐らないけど、すぐに片付いて保管倉庫が空くのは助かるから言わないでおこうと決めて俺はその提案を了解し、


『良かった怒られなくて…』


と、俺もナッツも安堵したのだった。


そして、会議は解散となり俺達はサイラスの街で買い物をしたのだが、まさか知らない間に貯金がかなりの額になっていて凄く驚いた…

大金貨を数枚下ろしても半分以上残っている…前世も合わせて一番の貯金額に、


『知識無双はしたくなかったが…金があるのは心強いな…

面倒事にならない様に自宅に引きこもれば…何とかなるかな?』


などと考えながら、大量の布や、本や勉強道具に、妹分思いなシュガーちゃんにちょっとしたプレゼントとして手鏡と髪飾りを購入してサーラちゃんからリクエストのあったお菓子も購入したのだが、ついでに卵にミルクに砂糖も購入した。


ヒヨコ達が卵を産むにはまだ日にちがかかるし、角なしが来るのは5日後だからミルクも少し先にならないと手に入らない…

しかし、それまでにクッキー等を試作して我が家の新しい名産品を作れば住人が増えても仕事に困らないし、なにより卵とミルクの生産が春ごろには何とかなるだろうから前もって利用方法を考えておかねば…

というのは建前で、マスタールームで甘い物を食べてしまって以来俺は甘い物を脳が欲するのだ。


新たにパンやクッキーを焼くパン釜を作って、自家製パンが焼ければ日持ち重視の硬いパンからサヨナラできるかも知れないと思い、耐火石粘土や調理器具なども購入し、そして樽に入ったエールとワインも購入して自宅に戻った。


酒を買ったのはこの世界で成人を迎えた俺がこっそり飲む為ではなくて、実は角なしや家具の納品の日に我が家に来て荷物を降ろして空になった馬車で工事が終了した大工さん達が帰る予定になっているのだ。


なのでその前に大工さん達とお疲れ様会をする為である。


買い物も無事に終了してバーンの引く荷馬車は荷物でいっぱいになり、村に帰り積み荷を降ろしているとミリンダさんに、


「凄い数の布ですね…」


と、ドン引きされて初めて、


『買い過ぎた…』


と、大金貨を持って気が大きくなり爆買いしてしまった事に気がつき反省した。


皆に注文の品を渡しながらロイド君には、


「注文の武器はガルさん親子が作ってくれるから、もう少し待ってね。」


と伝えてから明日の解体の話をすると、子供達はまだ実物のヘルタイガーを見ていないのでとても楽しみにしてくれていた。


それから、サーラちゃんは俺からもらったクッキーを皆に、


「どうじょっ!」


と言って一枚ずつ渡していた。


『おっ、優しいな!』


と俺が感心していると、


「あちょは、あてぃしのっ!」


と言って残りのクッキーを全て自分の宝物箱にしまっている。


『しっかり者だな…』


と幼い少女のチャッカリした行動に更に感心してしまった。


そして翌朝…


数台の馬車が到着し昨日の会議のメンバーが解体職人さん達と降りてきた。


ジョルジュ様が、


「すまんが、ヘルタイガーは?」


と、聞くので俺は、


「今出します」


と言ってヒッキーちゃんに合図を出して、自宅の小川の下流側の解体場所に俺を座標にして保管倉庫からヘルタイガーを取り出すとジョルジュ様は、


「アイテムボックスも使えるのか!?」


と聞いてきたので苦し紛れに、


「ヒッキーちゃんの能力です…」


と、言っておいた。


ギリギリ嘘ではない…はずである。


それからすぐに解体場の親方が獲物を確かめて、


「確かにヘルタイガーで鮮度も抜群です。」


と報告するとジョルジュ様が、


「では、頼む」


と指示を出すと職人さん達は、


「野郎共、鮮度が落ちる前に解体バラすぞ!」


「応!!」


との掛け声でヘルタイガーの解体が始まった。


俺達は勿論、子供達まで興味津々で解体を見学する中、手際よく皮が剥がされ、見事に肉が切り分けられていくが、なんと奴の体内から装備等の一部や人骨が出てきたので、このヘルタイガーは間違いなく冒険者パーティーをボコした個体で間違いないみたいである。


子供達には見せたく無かったな…と、ショッキングな映像を見せた事を悔やんだがロイド君もだがサーラちゃんまでも、


「装備品と、解るので有れば遺骨も家族さんに返してあげたいね。」


「パパとママ、じぇんぶ、ないないでゃから…」


と、自分たちの様に家族の一部すら帰って来ない家の者が可哀想だと悲しんでいた。


『強くて優しい子供達だ…』


と、この子達の気持ちを察してウルッときたが、幼い兄妹も冒険者の死に自分達の両親を重ねて泣くのを我慢しているのに、それを見た俺が泣くわけにはいかない…

グッと我慢しながら虎の解体を睨んでいるとシュガーちゃんが、


「怖い?大丈夫?」


と、心配してくれているが、あまり長く喋ると泣きそうになるので、


「うん…」


とだけ答えるとシュガーちゃんは、


「もう!キースさん…アイツに襲われたからまだアイツが怖いんでしょ?

お姉ちゃんが買い取り手続きに来ているから先に手続きしてもらったら…

なんならお姉ちゃんと仲良くなって…いや、むしろ、お姉ちゃんをもらってあげて!」


と、優しいふりをしてバレバレな何かしらの作戦を実行しようとしている。


『シュガーちゃん…町のものスゴく偉いさんが居るし、なんならお姉ちゃんのエリーさんの上司も居るから控えようか…』


と心配しながら俺は、


「シュガーちゃん…ほら、解体を覚えなきゃダメだから…」


と断るとシュガーちゃんは、


「大丈夫、お母さんも公認だから!

キースさんでもナッツさんでもどちらでも良いから天然で危なっかしいお姉ちゃんを是非!!」


と、食い下がっていると俺とシュガーちゃんの間にヌッとヒッキーちゃんが投影されて、


「マスターは私のですが、なにか?」


と、ガンぎまった目で言っている。


それを聞いてシュガーちゃんは、


「ぐぬぬっ」


と、なりながら、


「では!」


と、相棒のナッツを連れてエリーさんの方に歩いて行った。


「頑張れナッツ…」


と呟き、俺は相棒を見送った…

勘違いしないでいただきたいのだが、これは生け贄などではなく彼の幸せを祈っての行動なのだ!と、自分に言い聞かせヒッキーちゃんにも、


「何時から、俺がヒッキーちゃんのになったんだ?」


と聞くと、


「生まれる前…から?…」


などとヒッキーちゃんはとぼけていた。


なぜ、俺の周囲はキャラが濃い~のが多いんだろう?と悩みながらヘルタイガーの解体を眺める俺だった。


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