第46話 お届け物と届かぬ思い


現在、俺はサイラスの町にナッツと来ている。


今回は買い物がメインではあるが一件お届け物の依頼が有る…それは昨年からの約束で商業ギルドのギルドマスターのマイトさんにオランの実を届けるのだ。


一年を通して果樹園の草を刈り、肥料を撒き、虫魔物を駆除し、鳥魔物から守り抜いたナッツご自慢のオランの実が木箱三杯収穫出来たのでお世話になったマイトさんとギルドの皆さんに一箱分を持ってきたのだ。


マイトさんは、


「二人が頑張ったオランの実をこんなに…良いのかい?嬉しいねぇ…」


と、喜んでくれた。


『主に頑張ったのはナッツだけどね…』


と、思いながら俺は、ニコニコしながら早速オランの実を1つ剥き始めるマイトさんを眺めていた。


剥き終わったオランの果肉をマイトさんは一房ずつ大事そうに頬張り、


「懐かしいなぁ…」


と、呟いたあと急に思い出した様に、


「そうだ、5日後にミック君がキャラバン隊で二人の自宅…というか村まで行くらしいね。

ミック君が色々と手配していたよ…たしか、人が増えたんだよね…」


と、懐かしの味を楽しみながら片手間な話題を振ってくるマイトさんに俺は、


「人も増えて牛も飼育する事にしましたが、自宅で藁を使う事が多くなり小麦を来年は沢山作ろうかと考えてます。

もし、小麦農家さんとかで家や広い農地を探しておられる方をご存知ないですか?」


と聞くとマイトさんは、


「王国北部の街や村から家や農地を戦火で失い流れて来た者が領都にも居るだろうし、このサイラスの町にも農地を持っておらん農家の次男や三男もいるだろうから調べておくよ。

どうせ作付は来年なんだろう…

最悪キース君とナッツ君も居るから開墾や種蒔きは出来るだろうから、収穫の頃には間に合う様に見つけるからまぁ安心してくれ」


と言ってくれたが、ベストなタイミングとしては畑作りの為に春先には来て欲しいが…確かに開墾はガーディアンゴーレムチームも居るし、作物の世話はメイドゴーレムチームがしてくれ、監視員として小型ガーディアンチームも居る。

あれ?…種だけ有ればイケるのかな…

でも、人数増えたから食糧自給率も上げたいし、専門家は是非欲しいからマイトさんにお任せして気長に待とうと決めて、


「お願いします」


と、俺が頭を下げるとマイトさんは、


「任せてくれ」


と言ってから、


「おーい、二人が頑張って世話したオランの実をもらったよ。

沢山あるから皆で分けよう」


と、商業ギルドの職員さんを集める…といっても、ルイードさんと、数名の女性職員さんの小さなギルドなので、ほとんど顔見知りしか居ないはずだったが…なんと、俺達の知らない若者が二人も居た…


「はじめまして」


と挨拶を交わすと、彼らは数年前から戦争をしている北の国との国境近くの町の出身者らしく、難民として辺境伯領まで流れて来た若者であり、商人の子供だから計算に強いという理由から商業ギルドで採用されたらしい。


この夏ごろからギルドで働いて居たらしいが、あまり俺達がギルドに来なかったので会わなかったのだそうだ。


夏の終わりに来た時は何だかバタバタしてたから邪魔にならない様にすぐに商業ギルドを出た記憶がかるが、あの時にはいたのかな?…などと考えている俺にルイードさんが、


「新人の二人が難民キャンプの方々と知り合いだから農家の移住者も見つかると思うよ。」


と言ってくれたので、


『それなら安心だ…引っ越してくれそうな知り合いもいるだろうし…』


と新人2名の人脈に期待して、一旦我が家の小麦栽培問題は移住希望者が見つかってから本格始動する事に決めた。


皆がオランの実を手に取り自分たちの仕事に戻るのを満足そうに見ていたマイトさんが、


「それで、今日はオランを届けにきただけでは無いだろ?」


と聞いたのでナッツが、


「買い出しと先日キース様と我が家のゴーレムで、ちょっと大物を仕留めまして…

荷馬車には乗らないので解体のコツを冒険者ギルドの解体職人さんに聞こうと…」


と答えるとマイトさんは、


「ジョルジュ様から聞いてるよゴーレムマスターなんだってね」


と言われ俺は、


『違うんだけど…まぁ、ゴーレム達頼りだからな…間違いではないかな?』


とあえてスルーする事にし、マイトさんは、


「あれかな?山の方からでっかい岩石アルマジロが降りて来たのかい?」


とオランの実の2個目に手を伸ばしながら聞いてくる。


俺は、『そんなのも居るんだ…』と、思いながらも、


「いや、森で冬の備蓄をはじめたのですが、ヘルタイガーに出会いまして…」


というとマイトさんはオランに伸ばした手を止めてガタリと立ち上がり、


「えっ…解体って、倒せたのかい?」


と、聞いてくるのでナッツが、


「はい、討伐しました。」


と答えてくれたが、マイトさんは更に興奮して、


「よく無事で…って!今それは?!」


と、目をギンギンに開いて聞いてくる…


『怖いよぉ…』


と怯えながらも俺が、


「じ、自宅の倉庫に…」


と、答えるとマイトさんは、


「いけない!早くしないと傷んでしまう!」


と慌てだして職員さん達に、


「ジョルジュ様に連絡頼む!

あと、誰か冒険者ギルドマスターを呼んで来てくれ!!」


と、騒ぎだした。


『あれ?ヘルタイガーって保護動物的な奴でした?ヤバいなぁ…何か、マイトさんが人を集め出したぞ…』


と不安そうにナッツを見つめる俺だが、ナッツはナッツで、


『マズい事を喋りましたか?…すみません…』


みたいな涙目で俺を見つめていた。


俺達が無言で見つめ合っているとギルド職員の女性が一人、何故か興奮して近寄って来て、鼻息も荒く、


「尊い…いや、お二人とも多分沢山人が来ますので応接室へどうぞ…待つ間にお姉さんと男の子二人で人里離れた場所に移り住んだ理由などを話し合いましょう」


と、グイグイくる。


マイトさんも、


「キース君もナッツ君も時間大丈夫だよね?

しばらくかかるから、サリーさんお菓子でも用意してあげて。」


と指示をだして、俺達はサリーさんと呼ばれた鼻息の荒いアラサーっぽい職員さんに広い部屋へと案内されて、椅子に座ると流れるような動きでお茶と、お菓子が目の前に並び、そして俺達の目の前の椅子にデンと座ったサリーさんが凄い早口で、


「さっき見つめ合ってたよね…

人里離れた場所に移り住まないとイケない関係なんだね。

いいのよ!大丈夫。

お姉さんはそういうのは、むしろ大好物だから!!

あれかな?ナッツ君がキース君を(様)で呼んでるから、アレだよね…

大丈夫、みなまで言わなくてもお姉さん解っちゃうの。

滾るわぁ~」


と、何処から訂正したものかと呆れてしまう俺と、『何の話を?』と、全くピンと来ていないナッツ…


『ナッツは一生理解しなくて良い世界だよ…』


と俺が思っていると、サリーさんは鼻息を更に荒くしながら、


「どうしたの?

黙っちゃって…大丈夫、私は二人の愛を応援しちゃうから!!

ありのままの姿を見せて…少しも恥ずかしい事じゃ無いわ。」


と…『誰と何処の女王の話しだよ!』と思うようなセリフを放つ。


ツッコむどころか俺も流石にドン引きしながら、


「いや…何処からツッコんだら良いか解りませんが…」


と言って自称お姉さんの微妙なお年頃の腐女子脳の職員さんに注意しようとすると、


「キャー!突っ込むの?やっぱりキース君がナッツ君に!!」


と、マックスボルテージで興奮する。


しかし、この瞬間に俺は、


『あっ、この方…骨の髄まで完全に腐ってやがります…サリーさんではなく〈腐りー〉さんですね…マジで疲れるな…』


と、ガッカリと理解が同時に訪れていた。


サリーさんが、


「どうしたの?元気がないね…大丈夫だよ私は理解者だからね」


と…キラキラした目で俺達を見ているが、一番理解していないヤツが何を…と思いながら、


「疲れた…」


と、思わず口をついて出た俺の台詞に、


「突かれもしたのぉぉぉぉぉ!!」


と、のけ反りフラリとヨロケるサリーさんだが、流石に解らないやり取りを見せられて不安になったナッツが、


「何か怖い…」


と俺の腕にしがみついて震える…

その姿を見た瞬間に「キュー…」と変な声をあげて椅子ごと倒れるサリーさん…

そして、物凄い音がして駆けつけたマイトさんがコメカミを抑えながら、


「すまん…忘れていた…不快な思いをさせたな…」


と謝り、辺りを見回してサリーさんが休める場所を探している様子だが、マイトさんは「はぁー」とため息をつき、


「二人とも、今から代官のジョルジュ様が来ると思うから彼女をここに寝かせる訳にもいかない…

あまり触りたく無いかもしれないが悪い人間ではない…と、信じている…

そんな私を信じて彼女を事務所のソファーまで運ぶのを手伝ってくれないか?」


と、頭を下げるマイトさんに、


『彼女、何処かの血管切れて無いよね…これで死んだら誤爆の萌え死にだよ…無念で商業ギルドに腐女子の地縛霊が出るようになるのでは?…』


と心配しながらもエッチラオッチラとサリーさんをソファーまで運んだあとで、マイトさんが、


「おーい、倒れた時に頭を打ったかも知れないからハイポーションを飲ませてやってくれ!」


と指示を出していたのだが、手際が良いのは馴れているからかな?と、俺は少しマイトさんが気の毒になった。


『他人の趣味をどうこうは言わないが職場に迷惑をかけちゃダメだよな…趣味人としては失格だよぉ~』


と思いながら彼女を眺めると気絶しているサリーさんは実に幸せそうなニヤケた口元だった…


『ホントにもう!』


と軽く腹も立っているが、こうしている間も人が集まる何かのイベントフラグがバッチリ立っているのがきにかかる。


しかし、その前のクソみたいなサブイベントで俺達はすでにお腹いっぱいで帰りたくなってしまっていた。

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