第45話 欲しい物と必要な物


大変な狩りを終えた俺達なのだが…困った事になっている…それは、ヘルタイガーがデカ過ぎて倉庫を圧迫している上にサイラスの町に売りに行くにも荷馬車に積めない大きさなのだ。


自分達で解体するにもあんな馬鹿デカい魔物など解体のやり方すら解らないし、冬支度のお肉はあの虎を保管倉庫からどうにか処理してからじゃないと追加の狩りにも行けない…

どうせ狩りにも行けないのなら今のうちに買い物や冬の間にする事の準備をしてやろうと、買い物リストを片手に追加で皆に欲しいものを聞いて回ろうと決めて、まずはミリンダさんから話を聞いていく。


するとミリンダさんは、


「わがままとは理解しておりますが育ち盛りの子供達の服を作ってやりたいと思います。

冬服は前回の生地で作れましたが、次の夏には今の大きさの服は着れないかも知れませんので夏用の薄手の布を…」


と言っていたので俺は、


「承知しましたお安いご用です」


とミリンダさんに伝えて前回の生地を買った商会に行く事にした。


『しかし、ミリンダさんに服は任せっきりだし何かお返しがしたいな…』


と考えたながら、つぎにシュガーちゃんに何か欲しい物は無いかと聞くと、


「サーラちゃんに読んであげる本が欲しいです。」


と、自分ではなくてサーラちゃんの物を頼むとは…優しいお姉ちゃんだな…卵鳥孵化ダービーの商品として俺が家庭教師としてお勉強を教えてあげてから、今ではお姉さんとしてロイド君とサーラちゃんに文字を教えてくれている頑張り屋さんのシュガーちゃんの為に「問題ない、それも任せておけ!」と買い物リストに入れる。


そして、ロイド君は、


「ジャッカロープを倒せる様になりたいです」


とお願いされたが…どうしよう?…何がいいかな??…と、町で買える物で対応出来るアイデアが出なかったのでこのお願いは一旦保留にして冬の手仕事として後で何か考える事にした。


最後はサーラちゃんだが、彼女は一言、


「おやちゅ」


とだけ言っていた…


『ブレないな…』


と感じる一本筋の通ったような女児のリクエストに、


『何を食べさせようかな?』


と考えながら、ついでにガルさんとニルさんの工房に寄って、


「明日、サイラスの町に買い出しにいくけど何か用事ある?」


と聞くとガルさんは、


「俺達も循環パイプと手押しポンプをサイラスの工房に持っていくから、買い出しは特にいらないが…

前々から聞きたかったんだが、いいか?」


と聞かれたので俺は、


「えっ?、素材が足りなかった?」


と心配して聞くとガルさんは、


「いやいや、ヒッキーちゃんが山の様に鉄鉱石を納品してくれてるし、ナッツさんと最近ではロイド君も魚の鱗素材を納品してくれるからいくらでも循環パイプや井戸セットが作れるからそれはない…

ただ…疑問というか…あれかな?キースの旦那の方針だったらすまないんだけど…」


と前置きするガルさんと、何を言われるかドキドキしている俺…

どうやら少し話難い話題なのかガルさんは、


「よし!」


と気合いを入れてから膝をポンと打って、


「旦那ぁ、怒らないで聞いてくれ…気になって仕方なかったんだ。

…なんでゴーレム達に防具を装備させないんだ?…」


と言われた。


俺は一瞬、


『何を言われたのか?』


と質問の内容が解らなかったが、じっくりと噛み締める様に頭の中で繰り返し…そして、


「えっ?…??…えぇぇぇぇっ!装備して良いんだ!!」


と質問の内容を理解して今までの自分の認識の甘さに驚きながら叫ぶ俺にニルさんが、


「びっくりするじゃないか!?どうした?!」


と俺が急に大声を出した事に驚きながら聞いてくるので、


「ガーディアンゴーレムって、あの状態で完成だと思って…

いや、確かにどんな装備でも装備可能って説明された気がするが…いや、それは武器だけ…って、あれ?」


と、完全にテンパって答える俺をガルさんが見かねて、


「落ち着いてくれやキースの旦那…

昨日、イチロー達が手酷くヤられたんだろ?

装備を整えてやったら多分もうちょっと戦えたんじゃないかと思ってな…じゃあ、決まりだ!

日頃の素材のお礼にイチロー達の装備を作らせて貰うぜ…」


と言ってくれた。


そして、甘えついでに鍛冶屋の息子のニルさんに、


「ロイド君が、牧場とかでジャッカロープを倒せる様になりたいらしいんだけど何か良い方法がないかな?」


と俺が相談するとニルさんは、


「う~ん、ロイド君では獲物とカケッコしても勝てないだろうし近接武器は無理かなぁ…?

だと弓だが…なかなか難しいかな?」


と言っている…


簡単な遠距離武器…鉄砲? …は、危ないし火薬が無いからパスだな。

遠心力で飛ばす投石武器かなぁ?…いや、たぶん力が弱いから難しいかなぁ…

と、悩む俺達だったが、その時投影クリスタルが現れ、


「マスター、良いところに居られました。

鍛冶屋の資材置場前に移動お願い致します。

保管倉庫が圧迫しており回収もままなりませんので今から鉄鉱石を倉庫から吐き出しますので…』


と言って、鍛冶屋の隅の材料コーナーに俺を座標にして部屋パンパンに鉄鉱石が現れた。


それを見たガルさんは、


「こりゃまた凄い…休みなしで毎日使っても来年の春まで十分に持ちそうだ…」


と呟いていた。


そして、倉庫に余裕が出来たヒッキーちゃんが、


「マスターは、なぜ工房に?」


と聞かれたので、イチロー達の装備とロイド君の遠距離武器の話をするとヒッキーちゃんは、


「では、こんなのはどうです?」


と、投影クリスタルにパチンコの映像を映し出す。


といってもギャンブルの方ではなくて麦わら帽子の海賊グループの鼻がそそり立っている男性のメイン武器の方のパチンコである。


ガルさんとニルさんが食い入るように画面を覗き込んで、


「面白い武器だが肝心な伸縮性のある素材が…手元にない…」


と、残念がっている。


しかし、ヒッキーちゃんもムキになり


「では、これは」


と、エアガンを映し出すとガルさんは、


「う~ん…〈小型ガーディアンチビすけ〉達の攻撃だな…

チビすけが、ロイド君の腕の装備に合体したら…って、それは装備かな?

それにあのチビすけの武器の構造は難しいだろうし…」


と唸っている。


なかなかヒットが出ないヒッキーちゃんが、


「ぐぬぬ…ではコレはどうだ!」


と、続けてボウガンの映像を映し出すと、ガルさんもニルさんも画面に頬擦りする勢いで、


「なんだこれは、弓か?

引っ張り続けなくて良いのなら狙いもつけやすいぞ!

…おい、ニル!スケッチをとれ!!」


とガルさんが指示を出してニルさんが紙にボウガンの図を描いている。


二人の反応からヒッキーちゃんが勝ち誇った様に、俺の記憶を検索してボウガンの情報を色々と画面に流しだして、


「中の構造もありましたよ…」


と、鍛治師が喉から手が出るほど欲しがるであろう知らない武器の設計図を映し出したのだった。


しかし俺が前世でボーッと見ていた武器の歴史を紹介する外国のテレビ局が作った番組がこんな所で役に立つとは…


しかも、その番組を映し出している投影クリスタルの映像にはご丁寧にもこの世界の字幕付きであり、


『やるな…ヒッキーちゃん。』


と、感心する俺は、本当にレベルが上がり出来る女になったらしいヒッキーちゃんを見ていると、


『あっ、マスター、シュガーちゃんとかも家族登録お願いします。』


と言ってきた。


急な提案に俺が「えっ!?」と聞き返すと彼女は、


『言い忘れてましたが、滞在ポイントが1日10ポイントになり、家族の追加ポイントが一人につき2ポイントに上がりましたし、枠も10枠になりました…やりましたね。』


と、言ってきやがった…


『言うのが遅い…勿体ない!一人2ポイントだぞ!!』


と呆れた俺は、


『やっぱりヒッキーちゃんはいつものヒッキーちゃんだった…詰めが甘いんだよなぁ…』


と、思いながらも脳内で、

え~っと、ナッツ・バーン・ガルさん・ニルさん・ミリンダさん・シュガーちゃん・ロイド君・サーラちゃん…あと2枠は…ヒヨコはイケるか?

いや、無理か…『我が家の…』と俺が思えないものは無理なのか?俺の卵が無精卵でなければ…あるいは…

最悪スライム君を…いや、何かそれは違う気がする…すまないスライム君、やっぱり君を仲間と思えても家族とは思えないんだ…

などと四苦八苦したが8枠しか埋まらなかった。


『仕方ない…』


と俺は諦める事にしたのだが、しかし、そうこうしている間に鍛冶屋の親子は、


「これはイケるぞ!早速試作してみよう!」


と、作業を始めたので俺は、


『お邪魔かな』


と思い退散することにした。


では明日は冒険者ギルドでヘルタイガーの解体についての相談…というか解体のコツでも教えてもらうのと、布と本とお菓子だな…

武器と防具は鍛冶屋の二人に任せたし…サイラスの町でレッツ買い物だ!

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