第44話 身近にいたけど知らなかった


腹ペコの胃袋に何時もより少し大盛の昼飯を食べてほっこりしている俺にヒッキーちゃんが、


「ポイント交換はいかがなされますか?」


と、聞いてきたので俺はメイドゴーレムのA子が出してくれたお茶を飲みながら、


「イチロー達の抜けた穴を埋めないとな…

でも…イチロー達が居なくなってすぐに違うガーディアンって気分にもなれなくてね…」


と、切ない気持ちを告白するとヒッキーちゃんが、


『イチロー、ジロー、サブローのバックアップが有りますので、それを移植すれば大丈夫かと…』


と、報告してくれ、


「えっ?本当?!」


と、驚きながらも俺は今回の一番の功労者の復活を決めた。


居間のテーブルからマスタールームに意識を飛ばしてヒッキーポイントで交換をしようとするが、また前と同じ低級のガーディアンでは同じ目になるかもしれないと考えて俺はヒッキーちゃんに


「上級ガーディアンゴーレムのボディーにイチローを移植って出来る?」


と聞くと、現在俺の背中に子泣きジジィの様にしがみついているヒッキーちゃんが、


「勿論出来ます。」


と教えてくれたのだが、背中にしがみつかれたままでは大変作業し難いので俺は二郎系の増し増しを具現化して、


「この一杯に向き合ってろ。」


と、ヒッキーちゃんの前に差し出した。


黙々と食べている間は静かだろうと考えての作戦だが、まんまとヒッキーちゃんはルンルンで自分の部屋から今朝に俺が具現化したマイ箸を持って来て、作業している俺の隣でガツガツと食べ始めた。


『よし、今のうちに…』


と、俺はメインモニターの前に座り作業を開始しようとするが、そもそもイチロー達全員をグレードアップできるだけのポイントは無い…


「まずは、イチローだな。」


と決めて、マスタールームのモニターでポイント交換画面を開き上級ガーディアンゴーレムを指定するとモニターにバックアップデータの欄が現れイチロー達の名前が並ぶ…


「シローまであるし、小型ガーディアンはチーム毎にバックアップがある。」


と、画面を確認して感心している俺に、


「警備範囲と(モゴモゴ)

警備内容を記憶する(ズズズっ)

ためです。(モッチャ、モッチャ…)」


と、ヒッキーちゃんが食いながら説明してきた。


俺は、呆れ気味にヒッキーちゃんを横目で見ながら、


『かなりのポイントを使っても構わないから(お行儀)とかのインプットも彼女に出来ないかな…』


と思いながら作業を進めて、イチローは上級ガーディアンとして、ジローとサブローは低級ガーディアンのままだが復活が完了した。


保管倉庫に入っている武器はそのまま使えるが、壊されたゴーレムボディーは使い道も無く、復活した本人達に見せたくないのでポイントへと交換した。


どんなに思い出が詰まっていても壊れたゴーレムボディーはゴミ扱いだったのかあまりポイントは入らなかったのが残念だったが、それより早くイチロー達に会いたくて、


「残りポイントは資材倉庫の為に貯めておくね!」


とだけヒッキーちゃんに言い残してマスタールームから居間へと戻ると、俺を取り囲む様にテーブルの周りに三体のガーディアンゴーレムが並んでいた。


俺は、


「お帰り…皆…」


と、声をかけると三人はペコリとお辞儀をして真ん中のガタイの良いゴーレムが、


「マスター、この度は復活させて頂きありがとうございマス。」


と喋った。


前情報が有ったから俺は大丈夫だったが、一緒に居間にいたナッツはゴーレムが喋った事に凄く取り乱していた。


イチローは、


「ジローも、サブローも感謝を述べておりマス。」


と通訳をしてくれたので、


『今までも音声に出せないだけで、喋ってはいたのかな?』


などと、思いながらも三人にあの時の礼を言った俺にイチローは、


「すみません…私ハ…二人目でシテ…バックアップ後の記憶は…」


と恐縮しているので、三人には投影クリスタルを使って俺や小型ガーディアン達が見た映像を見せながら、あの時の説明を俺とナッツでしてあげるとイチローは、


「よくぞ頑張った私…見事な最後だったのデス…」


と言ってジローもサブローも『うん、うん』と頷いている…


『難しい状況だが本人が本人の死に様を誉めているん…だよね?…これ…』


と、世にも奇妙な感を味わいながらも、


『本人が納得したからいいかぁ…』


と、とりあえず俺はこの状況を無理やり理解して、


「シローや小型ガーディアン達も心配してるから報告にいくか!」


と、三人を外へと連れ出した。


村役場予定の厩舎つきの建物では近々牧場へと引っ越しするためにミリンダさんとシュガーちゃんがメイドゴーレムのB子と掃除をしていて、厩舎ではロイド君がバーンの世話と、その横ではサーラちゃんはヒヨコの衣装でヒヨコ達の世話をしている。


俺は皆にイチロー達が戻って来た事を告げるとサーラちゃんが、「イチりょー?」と不思議そうにガーディアンの三人を見るが、知ってる形の二人と知らない一人のガーディアン全員に、


「イチりょー?、いたい、いたいない?」


と聞くと、真ん中のガッシリボディーのイチローは、


「サーラ様、ありがとうございマス。

イチローはどこも痛く有りまセン。

ジローも、サブローも元気デス。」


と、自己紹介もかねて右側がジローで左側がサブローだとジェスチャーを交えて返事をしていた。


『上手い!』と、俺は心の中でイチローのナイスな返しを誉めた。


しかし、どちらがジローでどちらがサブローかは、装備品が無ければ難しい…というか俺も判別はつかない。


ミリンダさんやシュガーちゃんにロイド君までもが、「喋った!!」みたいな顔で驚いているが、サーラちゃんは、『それがどうしたの?』と言った感じで自分の宝物入れから綺麗なリボンを出して、イチロー達一人ずつ腕に結んでいく…

ヒヨコの時に皆に渡したプレゼントの包装用のリボンを綺麗だからと回収したらしいが、サーラちゃんは、


「イチりょーは赤にぇ、

ジりょーは青でぇ、

チャブりょーはミジョリにゃの」


と言って満足そうにヒヨコの世話に戻って行った。


俺が、


『なるほど、色分けか!凄いな…サーラちゃん。』


と感心しているとイチローが、


「サーラ様、ありがとうございます。」


とサーラちゃんに向けて礼を述べると、「いいから」みたいに作業をしながら軽く後ろ向きのまま手を振り、背中で語る三才10ヶ月の女児…胆が座っている…

兄ちゃんのロイド君は未だに、声にならない声で、「喋った…」とやって居るのに…

などと思っていると、なにやらメイドゴーレムのB子が腕に結ばれた青いリボンを俺達に見せる。


『メイドゴーレムチームもリボンをもらったんだ…』


と、俺は納得するのだが、理由はもっと複雑だったらしい。


イチローが、


「あまり、からかわないでやって下サイ…ジローが照れておりマス。」


と言っている…『はてな?』となっている俺をよそに、ミリンダさんやシュガーちゃんは理解出来たのか、


「えっ、B子ちゃん…そうなの?」


とか解らない話題で盛り上がっているので俺は、


「ゴメン、シロー達にも報告するから牧場の方に行くね。」


と言ってガーディアンの三人を連れて歩きだしたのだが、やっぱり気になり、


「イチロー、さっきB子は何て言ってたの?」


と聞くとイチローは、


「はい、B子がジローに、私たちお揃いですね…運命の青いリボンかな?と申しておりまシタ」


と教えてくれたのだが、青いリボンをしたジローが、『やめて下さいよぉ~』みたいなジェスチャーをしている…

通訳が一人居るだけでこんなにも個性豊かなメンバーだったんだな…と思いながら歩いていると、小型ガーディアンゴーレム達が集まってきた。


イチローは、


「ありがとう皆、無事に帰ってきまシタ。」


と、小型ガーディアン達に話している。


ちなみに、小型ガーディアン達は、

「帰還歓迎!」とか、短い文章で話すらしい…喋ってのはいたんだね今までも…と、俺は知らなかった事実に驚いていると、イチロー達が他のガーディアン達皆に挨拶が終わったみたいなのだが、その中でシローはピンクのリボンを着けていたので、イチローにこっそりと、


「シローは男の子だよね?」


と、聞くとイチローは、


「我々は特に性別は気にしませんが、一応男性型ガーディアンゴーレム…デス。

シローは、少し優しい性格デはありマスが…」


と、微妙な返事をしてくれた。


しかしこれではシロー君のままで良いのかシロちゃんに改名した方が良いのか迷うが…俺はややこしそうなので今回はこの件は一旦保留にしておいた。


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