第41話 虎さんに出会った


ある日森の中で出会うのは熊さん迄にして欲しい…かなり大きな我が家の愛馬バーン君よりデカい生物を初めて見たかもしれない。


奴は多分であるが〈ヘルタイガー〉という古の森で上級冒険者が対処する類いの魔物だと思う。


村を滅ぼされた年老いた戦士が沢山の罠と沢山の思い出詰まった故郷の廃村と、1つしかない自分の命を使って相討ちになる昔話を屋敷で読んだ事がある。


ヤバいヤツなのは見ただけで解るし、村を食い尽くす厄災であり俺としては凄く逃げたいのだが、ここで逃げる訳にはいかない…なぜならばヤツにとって村や集落はレストランであり、ここから最寄りのレストランは我が家なのである。


しかし、ナッツと二人で何とかなるとも思えないし直径三メートル程の落とし穴の罠にも入らない大きさだし…正直どうしたら良いか解らないが、ヘルタイガーは完全に暗殺者スキルをフルパワーにして隠れているナッツを無視して、完全に『みーつけた!』の表情で俺を見ている…


『ナッツ…ズルいよ!…』


と俺は心の中で文句を言いながらも頭の中でヒッキーちゃんに合図を出して助っ人を召喚した。


生きている生物は敷地内回収の対象外だが、ゴーレムは生きているが生物の枠では無いらしく俺を座標にして4人のガーディアンゴーレムと12体の小型ガーディアンゴーレムが俺の前に現れた。


しかし、レベル20の中級冒険者クラスが4人増えた所であまり変わらないが、しかし、『殺るしかない!』と俺は覚悟を決めて、


「ガーディアンチームは撹乱しつつ目や足をねらえ!

間違ってもガードするな、避けろよ!!」


と指示を出しナッツには、


「ナッツはそのまま隠れてろ!もしもの時は皆を連れて逃げろ!!」


と言って俺は虎と対峙する。


ヒッキーちゃんは小型ガーディアンゴーレムの視界とマップを使ってダメもとで罠を仕掛けてくれるらしい。


俺達が武器をかまえると待ってましたとばかりに虎も態勢を低くしてゆっくりと横歩きしている。


バカデカい虎のやんのかステップの迫力に気圧されながら間合いを探ろうとする俺達だが軽くジャンプして爪で引き裂きにくる虎を全員散り散りになりかわすのがやっとだった。


着地地点にワイヤーのくくり罠をヒッキーちゃんが展開する。


するとワイヤーの輪に爪が引っ掛かり慌てる虎に、俺とシローが弓を射かけて小型ガーディアン達も空気銃で小石を飛ばして虎の眼球を狙う。


砂粒が入っても痛いのだ、小石が凄い勢いで当たれば流石の魔物でも涙で前が見えなくなって欲しい!…というあくまでも願望ではあるが出来る事をするしかない状態である。


しかし、俺は大事な事を忘れていた…猫は爪の出し入れが出来るのだ。


爪をしまえば、奴の爪の根元でくくられたワイヤーも爪の先へとシゴかれて外れる…

大剣と大鎌とハンマーの近接武器を装備した三人のガーディアンゴーレムは罠にかかった獲物に一撃を入れようと間合いを詰めていたのだが、しかし次の瞬間、無情にも罠はその役目を果たさずに、ただ、彼らは危険な相手に近寄っただけになってしまったのだ。


俺が、


「離れろ!」


と命令するがジローが奴の爪の餌食になってしまう。


『せめて一撃!』と、その身を犠牲にした大鎌の一撃が虎の肉球に深々と刻まれたが、ジローはバラバラに砕かれてしまった。


『いけない、イチローとサブローも危ない!』


と感じた俺は、


「小型ガーディアン部隊、目を狙え!」


と指示をすると虎めがけて四方八方から、「パン」という乾いた音がして、虎が鬱陶しそうに顔をそむけた。


「今だ!」


と号令をかけると、虎の後ろ足付近に針山付きの落とし穴がヒッキーちゃんにより設置され、そしてドスンと落ちた奴の片方の後ろ足に針が貫通し、


「ガルゥゥゥゥ!」


と、奴が切ない声をあげて痛みに絶えていた。


穴から足を引き抜き針山付きの落とし穴から逃れた虎だが…残念…罠は1つとは限らない…

使用者のいやらしい性格を反映した、抜け出した先に設置されている針山付きの落とし穴に再び傷だらけの足を突っ込むヘルタイガーは『ぶち殺してやる!』と聞こえてきそうな目付きで、


「グカァァァァオォォォォゥ!!」


と吠える。


後ろ足を一本引きずり、前足の肉球にも切り傷を負った虎だが、ウチのヒッキーちゃんを甘く見ては駄目だ。


針山付きの落とし穴は3つ交換してある…

勿論天丼でもう一回、ドスンと奴の後ろ足が地面を踏み抜き大丈夫だった方の後ろ足も穴だらけになる。


「グガッ!」


と、虎は小さく叫ぶがすでにボロボロの足は力にはならず、じたばたしながら何とか穴から足を引き抜こうとしてもがいているが、なかなか抜け出せない様である。


勿論、このチャンスを逃す訳にはいかない。


俺とシローは引き続き遠距離攻撃を仕掛け、小型ガーディアン達がチクチクと目を攻撃して注意をそぎつつ、そして仲間の仇とばかりにイチローは無傷の前足に斬りかかりサブローのハンマーは虎のコメカミを撃ち抜いた。


虎は一瞬グラッと仰け反りふらつくが、直ぐに体勢をぐるりと立て直して、そのままの勢いで大きな一撃を入れたサブローを噛み砕く…


『クソ!ハンマーのあの一撃も耐えるのか…』


と、俺は呆れるが、


『次の手をうたないと次に腹いせに噛み砕かれるのは俺かもしれない…』


と、頭をフル回転させる。


なぜか、(とんち)という屁理屈が上手な小坊主が、


「私が縄で捕まえますから、屏風から追い出して下さい!」


と言っているシーンが脳内再生されている…走馬灯がこれか?と、ガッカリしながらも、


「あの将軍も将軍だよ!

あの小坊主にお前が屏風に入って捕まえろ!と何故言わない!!」


と、訳の解らない怒りがこみ上げてきた。


その間にも、イチローがターゲットになり片腕を食いちぎられている…しかしその時、俺は閃いたのだ。


俺はヒッキーちゃんに、


「檻を俺の側に出して」


と指示すると、ヒッキーちゃんは、


『マスター、相手はとても檻に入るサイズでは…』


と、心配するが、


「良いから出して!」


と俺がいうと、あの時不良冒険者を閉じ込めた檻が目の前にあらわれた。


俺は、


「皆、檻の中へ!」


と指示をだすが、イチローは首を横に振り虎の注意を自分に向けるように残された片腕で攻撃を放つ!


『すまんイチロー…』


と、心の中で礼を言って俺はシローと檻に入る…


小型ガーディアン達も檻のすき間からカサカサと侵入し、


「ヒッキーちゃん!鍵を閉めて!!」


というと、ガチャリと施錠される檻…

健闘むなしく破壊されたイチローをぺっと吐き捨てた虎は、もうどの足が痛いのか解らない感じになりながらもズリズリと足を引きずり檻に近寄り、そして大きな口を開けて噛みついてきた。


とんち小坊主がヒントとなり俺達が檻に入る事で虎の攻撃に耐えるアイデアを閃いたのだが、そこから先は実はノープランである…

牙の先が檻の中で上下するのをかわしながら弓を放ってみたがあまり効果がない…

あと一手何かデカい一撃が有れば…と、考える俺だが、


『サブローのハンマーを回収して…いや…振りかぶる高さが無い…』


などと色々な案を詰んだり崩したりしていると急に、


『敷地内回収だ!!』


と閃いた俺は、ヒッキーちゃんに、


「この檻を埋めるぐらい岩を転移させて!!」


と指示を出すと、ほぼノータイムで俺を座標にして岩がガラガラと降り注ぎ、傷だらけの虎ごと俺達を埋め尽くしたのだった。


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