第40話 秋の足音と冬の支度


少し朝晩が涼しくなり秋の足音が聞こえて来た…

今日も我が家の周辺は鍛冶屋や大工さん達の小気味良い金槌の音が響き三体に増やしたメイドゴーレム達、〈A子〉〈B子〉〈C子〉が掃除や洗濯に畑作業と色々な仕事をこなしてくれている。


この秋、我が家の畑はなかなかの豊作であったが家族が増えたので来年はもっと畑を増やさなければならない。


そして北の森ではイチロー達が木を切り倒してくれているので徐々に森がひらけてきているし切り出した大量の木々もたぶん来年には建材や薪に使える予定だ。


去年斬り倒した分の木で今年の冬の薪は十分足りそうであるが…冬?!


『そうだ、冬支度の季節だ』


と思い出した俺は、


『ヒッキーちゃんに頼んで三つの針山付き落とし穴を運用してもらい経験値と穴だらけの魔物は販売機能でポイントに変えている場合では無い!!』


と、冬の肉を集めるのをすっかり忘れていた事を反省した。


まぁ、おかげで自宅に引きこもりながらレベル19まで上がったのだが…

レベル20になればまた色々な機能が増えるらしいのでヒッキーちゃんからは、


「1日でも早くレベルを上げてください!」


と急かされているし、自宅の周辺の小型魔物を小型魔物用の箱罠やイチロー達が倒してくれて夏場は食卓に肉は絶えなかったが、冬場は獲物が減ってしまうのでそうもいかない…肉を備蓄せねば!!

来週には注文した家具や寝具を乗せてミックさんが来る予定だし、それにあわせて牛達も我が家に届けられる予定だ。


『来年は小麦を沢山育てなければ、藁も足りないな…』


などと考えながら冬支度に必要なものをピックアップする為にあちこち回り、足りない物の買い出しなどの予定を立てる事にした。


近々牛の世話をするためにミリンダさんとシュガーちゃんは牧場に引っ越すが、ロイド君とサーラちゃんだけでは今のバーンの厩舎の有る家で暮らすのは無理だろうと思いミリンダさんに相談すると、


「あの二人はもう私の子供みたいなものですから牧場でバーンちゃんも一緒に暮らします。

この家は出入りの商人さんやギルドの方の施設にしてください。」


と提案してくれた。


確かに我が家に来るのには皆さん馬車だし、下手をすれば泊まりになるかもしれない…なので厩舎つきの家は客室兼村役場として活用しようと決めた。


ロイド君もサーラちゃんも、ミリンダさんとシュガーお姉ちゃんと一緒なら安心だ…

ちなみにロイド君は現在、忍者のような黒い作業着にお古の革の胸当てを着けてナッツの弟子みたいに暇さえ有ればナッツにくっついているし、サイラスの町で購入した例の黄色く染めた毛皮をベースにミリンダさんに作ってもらったフード付きヒヨコちゃん衣裳を着てヒヨコリーダーとなったサーラちゃんの後を五匹のヒヨコがついて歩いている。


まぁ、仕組みとしてはサーラちゃんのヒヨコが他のヒヨコのボスへとのしあがったのでトコロテン式にサーラちゃんはボスのママさんとして慕われているのだ。


今年の冬場は大型厩舎の中で卵鳥チームは過ごしてもらって、『来年にデカい鳥小屋を作るかな…』と、決めて次は東のエリアに行くとナッツとロイド君が釣りをしていた。


これは気配消しのコツの伝授と養殖池に放す魚の入手の為であり、気配を木や岩へと溶け込ませ二人は次々に魚を釣り上げては新しい養殖池へ放流しているのだ。


少し気合いを入れ過ぎた養殖池は、なかなかの広さで数も3つも有るから親の池と子供の池に分ける事も出来るし、品種毎に分ける事も可能であり、とりあえずナッツはお気に入りのマッスルトラウトが釣れるとソイツを水を入れた樽に入れて、ガルさんとニルさんに無理を言って作ってもらった荷車で養殖池まで移動して放流しているので、どうやらマッスルトラウトをメインに養殖するらしい…

そして、その他の魚は釣って弱った所を、


「相手の首の骨と骨の間に刃を通すんだ!」


と、ナッツが指示を出しすとロイド君が、


「了解です師匠!」


と言って、メーター超えの魚の首筋にザクリと片手剣を沈める…

すると、魚は息絶えてロイド君に経験値が入るのだが…あのまま行けばロイド君が立派な冒険者ではなくて暗殺者に育たないかが少し不安ではある。


しかし、あの師匠の部屋に自分用のセーラー服が壁にかけて飾って有るのはロイド君には秘密にしてあげよう…


それと、あとはこのエリアには完成間近な家とガルさん親子と大工さん達がノリノリで作った大浴場がある。


ガルさんが循環パイプは沢山作ったがお風呂自体は作った事が無く、


「井戸の時にも思ったが、実際に自分で作った物は使って確かめて改良しないとな!」


と言って作り始めた風呂なのだが、仕事の合間に何を作ってるのか気になった大工さん達は、噂は聞いたことはあるが小さな村を巡る大工さんだったので家庭用薪風呂の実物を見たことがなく興味津々で見てるうちにウズウズして一緒になって作り上げたお風呂だ。


三人ぐらいならオッサンが仲良く裸のつき合いが出来る大きさ…


『って、変な意味じゃないよ!!』


ちなみにだがヒッキーちゃんはナッツの釣りに魚群探知機として参加して、鋼ハサミがロイド君の竿にかからない様にって…オッサンが仲良く裸の付き合いの流れからだと、『ロイド君の竿』というワードも何故か違った意味に感じられるのは俺の心が汚れているからだろうか…

まぁ、ヒッキーちゃんは池の中をソナー機能で見張りながらも岩を沢山石垣に使い露天掘りされた様な北の岩場から鉱石などを監視機能を使い回収する作業を片手間で行っているようだ。


『器用だな…』


と感心しながら俺は各エリアを見て回りこの冬に必要となる物も一通り予定がたったので、


「ヨシ、明日から久々に狩りを再開するぞ!」


と気合いを入れるのであった。


そして翌朝、久しぶりに冒険者衣裳を着た俺とナッツは西の森に入り冬の食材の狩りに向かった…

流石にロイド君はまだ連れて来れないのでロイド君には自宅で待機任務をしてもらっている。


ヒッキーちゃんのサポートで森の奥地を目指しながらお馴染みの跳ね鹿や穴掘り猪を主体に罠にかけては倒して、血抜きをしてから業務用保管倉庫に送り再び森の奥へと移動する。


解体は食べる時で構わないし、毛皮が欲しければ、一気に皮だけ解体してまた倉庫にいれておけば良い…本当に便利な保管倉庫様々だ。


そして、今年も出会う様々なキノコ達…

旨そうではあるが…鑑定など出来ないからこのキノコが何者なのかすら解らない…


「名前さえ解ればなぁ…」


と、キノコを見つめながら俺が呟くと、


『倉庫に放り込んだら名前はリストに表記されますよ。』


と、ヒッキーちゃんの声が頭の中に響く…


「えっ?」と一瞬固まる俺だったが、


「確かに!!」


と、納得した俺はナッツと手分けして手当たり次第にキノコを集めて家庭用保管倉庫へと放り込むと、〈油茸〉や〈粘り茸〉に〈香り茸〉などの名前が並び、続いて〈偽油茸〉や〈痺れ粘り茸〉に〈香り茸モドキ〉などとややこしい名前も並んでいた。


集めたキノコは思った以上の種類に分けられ、内心、


『こんなの見分けなんかつかないよ…』


と呆れたが、


『しかし、これで名前は解ったから後で検索して食べれるかチェックだな…』


などと考えていると、


『こちらで食用か否か調べておきます。』


と、ヒッキーちゃんが言ってくれた。


「おっ、出来る女は違うね」


と誉めると、頭に直接聞こえてくる音声だけでもクネクネ、モジモジしているのが解るテンションで、


『もうすぐマスタールームで何でも出来る女になりますからね…マスター…勿論、変な意味ですよ。』


と言っているが、ここは命をかけた狩り場…精神的に疲れるやりとりはしないと俺は決めているので無視である。


『う~ん、いけずぅ~』


と騒いでいたヒッキーちゃんだったのだが、急に、


『マスター、警戒してください。

かなり大きな反応が向かって来ています。』


と真面目モードで報告してきた。


彼女がこうなるという事はマジで危険な場合だ…

俺はナッツに、


「何かデカいのが来るらしい武器を構えて隠れよう!」


と言って木の影に潜み息を殺して辺りを警戒していると俺達の視界に馬鹿デカい虎が現れた…

奴は、クンカ、クンカと匂いをかぎながら多分俺達を含めた獲物を探している様子であった。


マズいよね…これ…逃げたいけど、逃がしてくれるかな?…

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