第39話 報酬と牧場の準備


卵鳥の雛が元気に孵った訳で、庭の葉っぱやナッツが掘ってきたソイルワームを食べてはいるので大丈夫とは思うのだが、


『卵鳥農家さんは何を与えているんだ?』


との素朴な疑問と、前回行商人のミックさんから色々と卵鳥の事を教えてもらった時に、


「家畜の事ならばバーンを買ったティム農場に行けばいいよ。

あいつは何でも知ってるしティムは馬の蹄の手入れも一級品に上手いからバーンの蹄の手入れがてら農場に行って色々聞いてみるといい」


と教えてもらったので自宅の拡張工事の為の資材購入のついでにサイラスの町へ向かいティムさんの農場へ行ってみる事にした。


そして今回はナッツには自宅でのお留守番をお願いして俺はバーンと一緒にお出かけする事にした。


何故ならば今回は有耶無耶になった卵孵化ダービーのご褒美を購入する為であり、ご褒美対象者のナッツにもギリギリまで内緒にしたいからだ。


ちなみに、ミリンダさんには今回こちら側の人員になってもらっており、ご褒美商品の作成のお手伝いをお願いしている。


当のミリンダさんへのご褒美は、『何か欲しい物が出来たら…』という事にしてあるがミリンダさんは分別のある大人の女性であるので無茶苦茶なお願いはして来ないだろう。


ミリンダさんにはサーラちゃんご希望のヒッキーちゃんが着ていたヒヨコの着ぐるみパジャマの様な物の制作と、ナッツが着れるサイズのセーラー服を作って貰う予定であり、あとは冒険者を目指すロイド君の丈夫な作業着の様な衣裳に俺とナッツの使わなくなったドルツ爺さんの店で買った中古の革鎧を旦那さんの革装備の手直しもしていたミリンダさんにお任せすればロイド君の冒険者としての初期装備としては十分な物になるだろう。


『本当にミリンダさんにおんぶに抱っこだな…』


と、ミリンダさんへの負担の多さを再確認して、


「これは、ミリンダさんへのプレゼントも奮発せねば…」


と、独り言をつぶやきながらサイラスの町へとバーンの引く空の荷馬車を走らせた。


少し目立つ大きめの馬の引く荷馬車でサイラスの門に近づくと、既に門兵さんには認識されている様で、


「おうキース。今日は相棒はどうした?」


と声をかけられ、


「今日は一人でお使いにきただけだから」


と俺がいうと門兵さんは、


「そうか…はい、通って良いぜ!」


と、簡単な手続きが終わりサイラスの町へと入ると俺は商業ギルドに向かいお金を出してから、ギルドで生地などを扱う店を教えてもらい、その後でティムさんの農場でバーンの蹄の手入れをお願いするついでに近々自宅で飼う事になる牛魔物の角なしの事や卵鳥の飼育のアドバイスをお願いする予定でいる。


しかし、到着した商業ギルドは少し忙しそうだったので窓口のルイードさんに生地を扱うお店を聞いて俺はすぐにギルドから退散する事にした。


「収穫の秋を目前にして他の町に作物を売ったり買ったりの準備で繁忙期なのかな?」


と、なぜかバタバタしていた商業ギルドを後にした俺は、続いて生地等を扱う商会に向かいロイド君の冒険者衣裳とナッツのセーラー服には厚手の丈夫な黒い生地とサーラちゃんヒヨコパジャマには色々と悩んだが黄色に染めた魔物の毛皮を購入した。


この黄色い毛皮だが本当ならば天然の黄色い毛皮で貴族達に高値で取引される黄色熊の毛皮の偽物みたいな物らしく、庶民や貧乏貴族が憧れで購入してコート等に仕立てるものらしく、まさかヒヨコちゃんパジャマになるとは売ってくれた店の人も思わないだろう。


それとナッツのコスプレ用のセーラー服の生地だが、個人的には安売りの殿堂などで売っているテレッテレの薄い生地のコスプレには少し思うところが有ったのでナッツの為に作るセーラー服も生地にはこだわりたかったのと、この商会ではついでに幾つか生地を買い込み満足な買い物が出来た。


続いて久々に向かうティムさんの農場へとバーンの荷馬車で向かうのだが、目的地を理解したのか農場に近づくにつれてバーンの足取りが軽やかになった気がする…俺は、


「おっ、バーンも何処に向かっているか解ったのかい?」


と愛馬に声をかけると、バーンは「ブルン」と鼻をならして、『勿論!』みたいに返事をした。


そして到着したティムさんの農場では以前の様に沢山の馬魔物や今回は羊の様ではあるがほとんどを毛で覆われた球体に足の生えた生物がティムさんの後ろをズラズラと並び此方に向かって行進してくる。


動物王国のティムゴロウさんが、


「やぁ、あの時の冒険者君だね…」


と手を上げながらこちらに歩いてくる。


『毎回凄い光景だな…』


と、ティムさんの大名行列を眺めながら俺は、


「購入させて頂いたバーンの蹄の手入れと、あとこの度我が家で角なしと卵鳥を飼う事になりまして、ティムさんにアドバイスをと思いまして…」


というと、ティムさんは牧場の入り口まで来て、


「その子、バーン君って名前をつけてもらったんだ…」


とニコニコしながらティムさんと離れたくないのか一緒に外に出ようとする毛玉の生物を柵の中に、


「君たちは駄目だよ」


と言いながら押し返しているティムさんに俺は思わず、


「そのモジャモジャの生き物は?…」


と聞いてしまった。


ティムさんは、「はい、はい、中に居てね」とモジャモジャを押し返した後で、


「この子たちはモコモコシープだよ。本当ならば夏に毛刈りをしなければならないんだけど前の飼い主だったお爺さんが倒れてしまって、流れ流れてウチにきたんだけど、今から毛を刈ったら冬に寒いだろうから来年の春まではモジャモジャのままだよ。」


と言っていた。


ティムさんはこんな感じで、気の毒な家畜を買ってきてはこの牧場で手入れやブリードをして次の飼い主に売る商売をしているので様々な家畜の知識や人脈を持っている。


聞けばこのモコモコシープ達はこの辺りでは珍しい家畜らしく引き取り手の牧場が決まっているのだそうで、そちらの牧場の準備が出来るまでティム牧場で預かっているのだとか、


『ウチにも来て欲しかったが…残念…』


などと俺が思っている間にもティムさんはバーンの顔を「よーし、よしよしっ」と撫で回しバーンも歯茎を見せて喜んでいる。


するとティムさんはバーンの肩口をポンポンと叩くとバーンがそちらの前足をヒョイと曲げてティムさんに蹄を見せる。


あまりに流れる様な身のこなしに、


『すげぇなティムさん…』


と感心しているとティムさんはバーンに、


「バーン君、駄目だよ蹄の長いオスはメスに嫌われるよ。」


などと言いながら、小屋に向かい何やら道具を持ってきた。


『馬にも人間みたいに爪の汚い男はモテないみたいなのとかあるのか?』


と思いながら俺は手際よく鎌の様な刃物でバーンの蹄を整えて、ヤスリで磨きあげられて行くのをアホみたいな顔をしながら「ほへぇ~」と感心しながら眺めていた。


ティムさんは、バーンの蹄の手入れをしながら、


「バーン君はバトルホースの血を引いているから、蹄も丈夫だけど、都会の石畳などを毎日の様に走り回る子は蹄が欠けたり、割れたりしたら走れなくなるからね…でもバーン君は少し歩き回らないと蹄が伸び気味だね。」


などと注意を受けた。


「自宅に放牧場が出来たので、今度から散歩をもっと出来る様にします」


と、俺がティムさんに言うとティムさんは笑いながら、


「バーン君ならば放牧場で無くても外に放して夕方に呼ぶだけでもイケるよ。

森狼なんて一捻りだし凄く賢いから呼んだら帰ってくるし…」


と、後ろ足の蹄にヤスリをかけている。


『森狼を一捻り…ご近所最強生物だったか…バーン君は…』


と驚く事実を教えてもらい、その後に蹄の簡単な手入れの仕方を教えてもらった上に俺はティムさんから角なしや卵鳥の飼育についてのアドバイスや良い飼料やブラシや蹄のケア用のヤスリなどを扱う商会を教えてもらいオススメされた物を一通り購入して自宅へと戻る。


気のせいかバーンはピカピカの蹄になって嬉しいのか、はたまた久々にティムさんに構ってもらったからなのか、かなりご機嫌そうに自宅へ向かう小路をパカポコと走っていたのだった。


ウチでも蹄のケアが出来る様になったけどバーンはたまにティムさんに御手入れして貰うことにしようかな?…

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