第37話 開拓と入植と昇格
開拓を開始したのだが、いよいよもって俺は自分のスキルがよく解らなくなっていた。
「そんじゃ~イクよ。」
と言って、基準となる杭から伸びるロープを持っているナッツを目指して俺がゆっくりと移動すると、俺を座標にヒッキーちゃんが岩山から岩を回収する…
そうすると俺の目の前に岩が現れ石垣を築いていく…
『俺って防衛系のスキルだよね…』
と思いながらもゆっくり移動していると、ガーディアンゴーレムが三体…はじめの一体は〈イチロー君〉と名付けてチームのリーダーに任命し、新たにポイントで交換した低級ガーディアンゴーレム2体をイチローの配下に任命して、
イチローは、ブロードソード、
ジローは、大鎌、
サブローは、ハンマーを装備として与えた。
その三人が並んだ大岩の隙間に岩や石を組み込み、ハンマーで叩いてぐらつきを直して腰の高さの石垣を仕上げていく…
ポイントが足らずに、販売機能で備蓄の魔物を売り払ってポイントに変えたが…正解だったな…流石はゴーレム君!彼等は実に働きモノだ。
華奢なデッサン人形のような体からは考えられないパワーで手際よく石垣を仕上げては、空き時間で大鎌を使い周辺の草刈りを済ませて、ついでに片手間で小型魔物等を倒してくれる。
小型ガーディアンゴーレムも一人につき三体をセットにして、ガーディアン3人に小型ガーディアン9体の体制で広くなる自宅の警備も万全である。
そして池のほとりに石垣で囲われた敷地が出来上がったのは5日後だった。
この5日で変わった事は石垣のエリアが広がったのは勿論、我が家に引っ越してきた人がいる…鍛冶屋のニルさんとガルさんの親子だ。
ガルさんに、
「店は大丈夫なの?」
と聞くと、
「店は長男のジルと弟子に任せたし、もうすぐ嫁にくる辺境伯の領都の鍛冶屋の娘とのイチャイチャ生活を邪魔したくない…
かみさんは一応弟子達の食事当番に無理やり残して来たが、ワシが恋しくなって追いかけて来たらその時はすまんがもう一人増えるかもしれない。」
とだけ言って、彼らは鍛冶屋への引っ越しが終わると二人で井戸掘り用の注文の品を作りはじめてくれている。
数日して、ガルさんとニルさんの親子は俺の注文した井戸掘り道具や手押しポンプを出来上げてくれたらしく二人から、
「実際に試したい」
と提案されて、有難い事に井戸掘りまで手伝ってくれた。
櫓を組んでからロープを使って、鋼ハサミで作ったスイコを上から落下させると地面に自らの重みで刺さり、パイプ状のスイコの中に土が取り込まれる。
土は弁がついている為に内部に留まり何度か上げ下ろしを繰り返しスイコを穴から取り出してから土を内部から取り出し再び穴の中へと下ろしていく行動を繰り返す…
一度に数十センチずつではあるが穴が深くなり、元々水辺で湧き水も多い為に2日程で水が湧きはじめ鋼ハサミの錆びない金属で作ったパイプを打ち込んで井戸の内壁としてた。
魚の鱗と鉄を混ぜて鍛えた合金の水に強い手押しポンプのセットを設置してからあとは水が清むまでイチロー達が、「ガッコン!ガッコン!」と手押しポンプを交代で動かし続けてくれて、ようやく数時間後には綺麗な水が出る井戸が完成するとガルさんは、
「水で困っている村や町が沢山ある…
キースさん、これを鍛冶師ギルドに登録してくれませんか?」
と言われたので了解して登録等はニルさんに丸投げしておいた。
ウチで使う井戸が出来れば後はどうでもいいし、我が家としては特許料が入るならば言うことなしだ。
そこからは俺とナッツとガーディアンゴーレムチームで東の池に面した石垣の中に山からの川水を引き込んだ養殖池を三面作り、三つの池を通って新な居住区画を通り下の川に流れ出る様に下水路も作った。
『耐水石粘土が有って良かった…』
と下水を整備しながら染々思っていたのだが、何よりゴーレム君達の働き手が増えた事により夏の盛りには新たな区画が完成し、風呂小屋の倍程の大きさの丸太小屋が2つ出来上がっていた。
1つは資材置場として、もう1つはサイラスの町から助っ人に来てくれた大工さん達の宿舎として利用している。
マイトさん達商業ギルドの呼び掛けで集まってくれた大工さん達が、
「冬が来る前までに牧場と厩舎と家を建ててやる!」
と、気合い十分なのだが、この大工さん達は実は、
「今回迷惑をかけた…」
と、ジョルジュ様が特別料金で雇った大工さん達なのだ。
『誠に有難い…』
そして納屋の役目を終えた厩舎つきの家には、旦那さんを亡くした奥さんの〈ミリンダ〉さんと娘さんの〈シュガー〉ちゃん9歳に、冒険者だった両親を亡くした5歳の〈ロイド〉くんと、3歳の〈サーラ〉ちゃん兄妹が住んでいて、ここでの生活を手伝ってくれている。
ミリンダさんとシュガーちゃんにはいずれ牧場を経営して貰う予定にしているが、今は料理と皆の服を縫ってもらってお給料を出しているのだ。
それからロイドくんとサーラちゃんは今は数や文字のお勉強を頑張ってもらっていて、ゆくゆくは卵鳥の世話と卵の販売で暮らして行ければと考えている。
ふたりの鍛冶師の親子と稼ぎ手を亡くした四人が新たに住人となってくれて、自宅が急に賑やかになり僕は喜んで居たのだが、しかし、約一名悲しみの涙を流している者がいる…それはナッツだ。
彼はとても楽しみにしていた事が有ったのだ。
「夏が早く来ないかな?」
と毎日毎日その時を待ち望み、そしてそれは突然やってきた。
我が家の家族の一人ギロちんが黒々とした勇ましい姿になって現れたのだが…なんとメスだったのである。
ギロチンクワガタのオスは縄張り意識が強く、上手く誘導すると指定した木の守り人として他の虫魔物や鳥魔物から木を守るのだが、それはあくまでオスの話…
立派に成虫になったギロちんはイケメンクワガタを求めて森の奥へと飛んで行ってしまったのだ。
ガックリしながらオランの実防衛隊員1号の退職を見届けたナッツの肩をポンと叩き、
「ギロちんの息子の代に期待しよう…」
と声をかけてから、そっとギロちんを家族設定から外したのだった。
そして現在家族設定枠には、ナッツ・バーン・ガルさん・ニルさんが居るので、ギロちんが抜けた分、ミリンダさんを追加しておいた。
『さらば、ギロちん…』
というどうでもいい別れを体験した翌日にクレアママさんが若い女性職員のエリーさんと共に馬車でやってきた。
名目は引っ越してきた元冒険者家族の様子見とミリンダさんの長女さんのエリーさんの紹介だが、一番の理由は全く顔を見せなくなった俺とナッツのDランク昇格の手続きにやってきたのだ。
クレアママさんから、
「せっかく正式にオーク殲滅分のギルドポイントが認められたのに、二人とも全くギルドに来ないから手続きは出来ないし、こっちとしては心配になるしでギルドマスターに言って馬車を貸してもらったのよ!
それから隣にいるのがミリンダちゃんの娘さんのエリーちゃんだよ。
冒険者だった父親さんが酒好きでエールって名付けられそうになったのをミリンダちゃんが断固拒否してエリーって名前になった15歳の新人ギルド職員だよ。
キースとナッツと同い年だから仲良くしてやってよ。」
と、紹介してくれた後にクレアママさんはミリンダさんとお話しを楽しんでいる。
その間にエリーさんが頑張って昇格手続きをしてくれたのだが、緊張しながらも作業を終えたエリーさんは、
「母と妹がお世話になっております」
と、頭をさげてくれたので、
「いえ、こちらこそ大変助かっております」
とこちらもナッツと二人で頭を下げる。
エリーさんが頭を上げると俺達が頭を下げていたものだから慌て頭を下げるエリーさん…
俺達は俺達で、
『もういいかな?』
とナッツと頭を上げるとまだ頭を下げているエリーさんに、
『ヤバイまだだった。』
と、頭を下げ直す俺達…
三度ほどそんなすれ違いを繰り返しシュガーちゃんの
「お姉ちゃん達…それ楽しいの?」
との質問で、やっと同時に顔を上げて状況を把握し三人で笑っているとシュガーちゃんは、
「なんでも面白い時期が有るってお母さんが言ってたからね…」
と言って興味無さげにロイドくんとサーラちゃんの面倒を見るために家に入っていった。
三人で凄く恥ずかしい気分にったが無事に俺とナッツはDランク冒険者に昇格したのだった。
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