第34話 俺の知らない俺の真実
昼過ぎに馬車が数台並ぶ物々しい一団が到着し、胸くその悪い夕闇の狼の4人を連れて帰ってくれた。
ナイフを抜て脅してきたリーダーの男は引渡しの際に暴れて騎士の人の剣を奪って逃げようとしたが、騎士のお兄さんの、
「ファイアボール」
という声と共に軽く燃やされて改めてご用となっていた。
檻を消すと具現化している拘束具まで消える事まで気が回らなかった…失敗した…
しかし、魔法ってあんな感じなんだ…恥ずかしい呪文とかは無い感じだったから、ただただ羨ましい能力だなと思うだけで、俺はうっすら焦げて丸裸のリーダーには全く同情出来なかった。
なぜ、迷惑冒険者の引渡しに代官様まで出てきたかというと、町の周辺で集落を作る魔物や盗賊の討伐依頼は領主様の管轄らしく、今回も領主様の名前で代官さんがギルドに手続きをしたのだそうだ。
その領主様の依頼でやらかした奴らの調査に代官様が飛んで来た…という事らしいのだが、正確には息子からの、
『ヤバい事になってるよ、領主様に報告しなければならないから親父が直接来た方がいいよ。』
との報告が有ったからみたいだ。
ようやく檻馬車に入れられ大人しくなった四人…
まぁ、彼らもはじめはまともな冒険者だったらしく、魔法適性も無い4人は力を合わせてコツコツとBランクまで這い上がったのだが、魔法適性の無い人間には上級冒険者の世界はやはり厳しい世界だったようで、他の魔法が使えるBランク冒険者よりも弱く、偵察や調査の依頼を中心にコツコツと依頼をこなしていたのだが、悪いことにとある貴族の三男の不正を見つけてしまい、その貴族から黙ってくれるなら…と、甘い汁を吸う機会に出会ってしまいそこからずるずると…
という流れらしいが、殺人やら何やらに手を染めたヤツに同情などしない…わざとした悪さは罰を受けるべきだし、意図せずやらかした悪さは「ごめんなさい」して反省するべきだと俺は思っている。
見てみろ!ウチのナッツは暗殺一家の家に生まれながらも真っ当に冒険者をしているではないか!!
まぁ、訓練だけ受けて実戦前にお家が断絶しただけかもしれないけど…
しかし、自分の意思で正しく在ろうとしている!
などと思いながら俺は騎士団の檻馬車を見送ったのだが…
まだ俺には大変なイベントが待っていた。
お代官様に年貢の相談だ…
まぁ、商業ギルドのマイトさんの話しでは、悪い代官では無いらしいのだが、どうしても『代官』と聞くと悪の頭文字がついて山吹色のお菓子が好物で、町娘を「あ~れぇ~!」するのが趣味で、お友達が越後屋さんだけのタイプ…って!?
もしかしてマイトさんは越後屋枠で悪代官をいい人と感じているのかも!…などと、アホな事を考えながら母屋で代官様と文官職風のオジサンと数名の騎士団の方々も含めてお話し合いが開始された。
イルサックさんとクレアママさんが同席してくれているのだけが唯一の救いだ。
お代官様が、
「はじめまして、サイラスの町を現在預かっているジョルジュだ。
噂はマイトから聞いていたが…まさかBランク冒険者チームを返り討ちとは…」
と、感心している。
となりのオジサンが、
「ジョルジュ様、報告ではゴーレムを使役するスキルの冒険者とありました」
と、お代官様に報告している。
ジョルジュ様は、
「キースとナッツといったな…してどちらが?」
と、聞くので俺が、
「はい私がキースです。」
と、答えるとジョルジュ様は上から下まで見た後で、
「家名は?」
と聞く…
えっ、貴族なんて言ってないよね?と思いながらも俺は、
「あの~、追放と言いましょうか…ハナから居ない者扱いと言いましょうか…
あの家とはもう縁が切れていると言いましょうか…」
と、歯切れ悪く答えているとナッツが、
「ナルガ子爵家、次男キース・ツー・ナルガ様です。」
とバラしてしまった。
『すぐ言う~』
と、心の中だけで抗議する俺だが、ジョルジュ様は「う~ん」と唸り、
「確か、子爵家は成人前の子供が当主になったはず…
見たところ聞いている当主の年より大きく思えるが…」
と言って首を傾げている。
ナッツが、
「魔法適性も無く、武術系スキルでも無かった為に長年軟禁されておりました。」
と…
「ほら、またすぐ言う~、」と俺は心の中で文句を言うのだが、ナッツは止まらない…
「正妻の次男として生まれたキース様ですが、
第2夫人は何とかして我が子の三男を当主にしようと画策しており、魔法の素質も無く身を守る手段も無いキース様を案じナルガ子爵様はわざと跡目争いから外れた息子として周囲に解る様にされておりました。
私はそんなキース様の警護役として毎日の食事に毒が盛られない様に、また襲撃されぬ様にとナルガ子爵様より命を受けておりました」
と、爆弾発言が飛び出した。
目を丸くして驚く俺だが思い当たる事が…というか、思い当たる事しかない。
屋敷では四六時中ナッツと一緒で、食事も毎回ナッツがキッチンから運んで来た…
ナッツは、
「ナルガ子爵様より、キース様には跡目争いとは無縁な穏やかな人生を送って欲しい…自由な人生を歩ましてやりたいから長男が当主になり跡目争い問題が落ち着くまで頼む。
と云われておりましたが、まさかまんまと三男のマイア様が当主になられるとは…マイア様は冒険者になるのが夢でしたのに…」
と、寂しそうな顔をした。
しかし、俺はよく解らない感情にもみくちゃにされていた…
第2夫人が俺の事を嫌いなのは知っていた。
しかし父上がナッツを…いや、冷静に考えると家庭教師も成人したら家から離れろと言った事も俺の安全や将来の為に?…
確実に跡目争いから外し、派閥の誰も俺に興味を持たない様に?…とんだ役者じゃないか!!
では、兄上もか?と、考えるが…もう、本人達から話を聞く事も出来ない…
それを聞いたジョルジュ様は、
「どうもキナ臭い話だな…
しかし、他の貴族家の跡目争いに文句を付ける訳ではないが、キース君は当主になりたいとは思わないのか?」
と、聞いてくる。
俺はまだ整理のつかない頭をフル回転させ、
「貴族の世界など、貴族の家に住んでましたが一度も経験しておりませんし、軟禁生活から考えれば今は楽園での生活の様です。
わざわざ面倒臭いお貴族様にはなりたいとは思いませんね。」
とだけ言った。
ジョルジュ様は、その言葉を聞いて、
「これは、男爵にしがみついている私には耳が痛い…確かに面倒臭いよ…お貴族様は…」
と、言って楽しそうに笑っていた。
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