第33話 おもてなしの夜
夕方に2台の馬車と騎馬兵の方2名の大所帯で自宅まで戻って来た。
1台は俺達であり、もう1台はギルドの馬車で、初めて喋ったサイラスの冒険ギルドのギルドマスターの〈イルサック〉さんという優しそうな小太りのオジサンとクレアママさんが乗っている。
そして、イルサックさんが呼んで来た騎馬兵さんが2名である。
自宅の敷地内にこれだけの人数や馬が居るのは初めてだ。
ウチの愛馬のバーンをはじめ、頑張った馬達に水とエサを並べ、イルサックさんとクレアママさんに兵士の方々を母屋に招き、
「もう、暗いから、森に入るのはオススメしませんよ。
ギルドマスター、本日は母屋でお休みになって、明日の朝にあの恐喝冒険者の所に案内させて頂く予定にしませんか?」
と提案すると、イルサックさんも兵士さん達も、了解してくれた。
それではと、メイドゴーレムちゃんと手分けして、客間と呼んでいる、使っていない部屋に簡易の藁ベッドを3つ並べ男性陣の寝床とし、クレアママさんには俺の部屋を使ってもらい、俺はナッツの部屋で寝ることにした。
ゴーレムと暮らしているのを見た4名はギョッとしていたが、そんな反応はニルさんで経験済みだ。
「俺のスキルです。」
と説明するとイルサックさんは、
「ゴーレムマスターか…珍しいな。」
と言っていたので、
「まぁ、似たようなモンです。」
と言っておいた。
頭の中に
『マスター、現在ガーディアンゴーレム君達に犯罪者の監視をしてもらってますが、後程尋問の映像を皆様に見て貰いますか?』
と聞こえてきた。
『尋問したんだ…』
と、俺は一瞬呆れたが、
「まぁ、見て貰う方が早いか…」
と呟き、とりあえずナッツご自慢のマッスルトラウトのムニエルと、春野菜のサラダと、いつもの硬いパンとスープをテーブルに並べて、
「皆様、町の様に贅沢な物は有りませんが、食材は新鮮ですので、」
と、俺が言うとナッツは屋敷に居た頃の様に、
「我が家で取れた野菜で作ったサラダでございます。
そして、こちらが近くの池で釣り上げたマッスルトラウトのムニエルで御座います。」
などと紹介をして皆で食事を楽しんだ。
クレアママさんは、
「人里離れた場所で暮らしているから心配してたけど、快適に暮らしているみたいで安心したわ。」
と言ってくれた。
俺もナッツもクレアママさんが自宅に来てくれた事に喜んでおり、あんな奴らの件がなければお風呂にでもユックリ浸かってもらって美味しい料理を振る舞いたい…
しかし、今回はそうもいかないので、
「では皆様、食事も済みましたので本当であればお風呂にでもご案内したいのですが…」
と俺がいうとクレアママさんが、
「えっ!お風呂!!」
と食いついたので、やっぱり後でお風呂に入れる様にメイドゴーレムちゃんに準備をお願いしてクレアママさんには、
「後で入れる様に用意しますので」
と伝えてから俺は話を続けた。
「えー、簡単には説明しますと私のスキルは自宅での生活を少し快適にする能力でして…まずはこちらをご覧下さい。」
と言って、〈投影クリスタル〉を居間に出してもらいヒッキーちゃんを紹介した。
「ヒッキーと申します皆様以後お見知りおきを…」
と頭を下げる映像にイルサックさんや兵士さん達も驚いているので俺が、
「彼女は喋ったり色々と俺を助けてくれる映像だけのゴーレム?みたいな者です。」
とのザックリした説明をするとお客の皆さんは、
『やはりゴーレム使いか…』
みたいな感じで納得してくれた。
ちなみに、ヒッキーちゃんは、俺の「彼女は…」の彼女の部分を粒だてて、
「ふふふ、彼女…
遂にマスターをメロメロにしました…こんな大勢の前で彼女だなんて…』
と、ブツブツ言っているが俺は無視すると決めて話を続けた。
「このクリスタルで俺が見た映像や、ゴーレム達が見た映像を映し出す事が出来ます」
と説明すると兵士さん達が、
「なんと!」
と、我が家の便利機能に食いついた。
確かに証言だけでなく証拠が提出できるからね…兵士さん達も欲しいよね。
それからはクリスタルを使って一部始終を見てもらうのだが、その映像の後半で夕闇の狼の連中が痺れから回復すると、
「汝の罪を答よ!この様な手口で金銭を脅した事は有るか?!」
と、ヒッキーちゃんの声が再生される。
すると、アイツらがギャーギャー騒ぐと、
「お前らのから聞きたいのは、質問の答だけだ!!」
と聞こえると、「パン!」と破裂音がして一人の冒険者の眉間が撃ち抜かれた。
『えっ!殺した?!』
と俺も一瞬焦ったが、撃たれた冒険者が、
「痛でででででぇ」
と転げ回っているので大丈夫だろう…
小型ガーディアンゴーレムの空気銃の小石だろうな…カメラマン兼、拷問官か…怖いな…
と、俺すら少し引いているが兵士さんも、
「い、今のは?」
と、聞いている。
俺は、
「さ、さぁ?」
と、しらばっくれながらも再生される映像に次々と出てくる余罪の数々…
アホみたいな小さな悪さから、聞くに絶えない卑怯な手口で町娘を…反吐が出る…
見事なクソ野郎の集まりだな…と感じながら、俺は奴らの罪を聞いているうちに奴らに対する罪悪感はすっかり消え失せ麻痺らせた事にも拘束している事にも何も思わなくなていた。
兵士さんは奴らの悪事をメモしだして、俺が、
「クソ野郎は現在既に拘束して檻に入れてあります。
見張りのゴーレムもつけてありますのでどうかユックリしてください。」
と言って、クレアママさんの為にお風呂を沸かし主にクレアママさんを全力でもてなした。
クレアママさんはとても喜んでくれたが俺のベッドを取ってしまったことを恐縮していたので、
「俺とナッツがクレアママさんをもてなしたいんだから遠慮しないで…親孝行のマネ事をさせてよ」
と言うと、いつもの様に抱きしめられた。
俺も、ナッツもクレアママさんに喜んでもらって、気分良く眠りについたのだが、翌朝には再び気分の悪い奴らに会わなければならない事にウンザリしていた。
兵士さんの一人は檻馬車の手配をするため夜も明けきらない内に町に向かって馬を走らせ予定では昼には兵士達が犯人逮捕の為に護送車で現れる手筈になっているので、俺達は皆さんが到着するまでのんびりと自宅で待つことにしてイルサックさん達に朝食を出しながら俺は、
『クソっ、卵とミルクさえ有れば、クレアママさんにパンケーキの朝ごはんや、クッキーのお土産を渡せたのに…』
と悔やんでいた。
そしてその後にぐるりと自宅を案内して回ると、イルサックさんが裏庭の卵鳥の小屋を見て、
「これは?」
と聞くので、
「これは卵鳥を森で捕まえる予定でしたが捕まえに行く道中で恐喝されましたので…
卵やミルクが手に入らないのでパンも焼けませんよ…」
と俺が説明するとイルサックさんは、
「娘が牧場に嫁いだからミルクなら相談に乗れるかも知れないぞ。」
と言ってくれた。
牛かぁ…バーンも厩舎で飼えているし…牧場を作ればイケるかな?…
しかし、人手がないから飼えるかな?…等と考えながら、
「イルサックさん、ミルクは滅茶苦茶欲しいけど、牛を飼育出来る場所や人手が不安なので…」
と俺がいうとイルサックさんは、
「まぁ、何か有ったら私にも相談してくれ、昔の相棒の嫁さんばかり贔屓にされたらギルドマスターとして頼れるところを見せたくなるからな。」
と言っていた。
イルサックさんは亡くなったクレアママさんの旦那の冒険者仲間だったようだ。
そして、自宅を案内し終わった時にイルサックさんが、
「人は雇ったりしないのかい?」
と聞くので俺は、
「雇う程稼いでいませんからね…」
と答えるとナッツが、
「何を言ってるのです。キース様…数家族食べさせるぐらいは収入がありますよ。」
と言いながら、風呂にチラリと目をやる…
『えっ、そんなに不労所得が?』
と驚く俺にイルサックさんは、
「実はサイラスの町には古の森を狩り場に生活している冒険者もいるのだが、危険な冒険者稼業…旦那を亡くした家族や両親を亡くした子供も結構居るんだ…
住み込みの仕事が有れば是非雇って欲しい」
と言っていた。
それに、クレアママさんも、
「お風呂も有るし、町のあばら家で内職で暮らしている知り合いも居るから、キース君とナッツ君が良ければ何とかならない?」
と言われたので俺は、
「よし、入り口の納屋にしている家を住める様にしますから、新たに石垣を広げて牛を飼育するかな?
でもお代官様から開拓しても良いとは云われているけど、村人を勝手に増やして良いのかな?
俺とナッツは税金免除だけど新たに来る村人さんに人頭税とか有ったら嫌だし…」
と悩んでいると兵士さんが、
「昼には親父が来るから直接相談するといいよ」
と言ってくる。
「ん?親父??」
と、首を傾げる俺にイルサックさんは、
「そうか、代官殿も参られるか。」
と…
『えっ?どういう事?』
と慌てる俺に兵士さんは、
「紹介して無かったな。
サイラスの町の代官の次男、兵士長のトーラスだ」
と握手を求めて来て、一瞬の静寂の後に、
「えぇぇぇぇぇぇ!」
と、驚く俺の声が自宅にこだましたのだった。
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