第32話 どうしても許せない事


夕方に自宅に戻りその日はとりあえずお休みにした。


寝不足なのとハイポーションを使ったとはいえ俺は血を流し過ぎたのか少しフラフラしていたからだ。


そして、やはりというか何と言うか、俺が食らったオークチーフのこん棒の一撃は内臓にダメージを与えていたらしく、前世も今世も合わせて一番ヤバい色のモノを翌朝生み出してしまい、トイレで恐怖と不安に押し潰されそうになった俺は、大銀貨5枚のハイポーションだが躊躇なく一本念のために飲み干す事になってしまった。


『スライム君…ビックリするだろうが、すまん…後の処理は任せた…』


と、心の中でお願いし、朝からとんでもないお便りを目にして元気の出ない俺は相棒に、


「今日の狩りはお休みにしよう…

俺…今日は、魔物と戦う元気が出ないから…」


と言って、ヒッキーちゃんにも、


「今日は卵鳥を我が家にお迎えする為の鳥小屋をガーディアンゴーレム君と作るから、ヒッキーちゃんは適当に採集とかしておいてよ。」


とお願いするとヒッキーちゃんは、


『マスター!

マスターは現在レベル15になり、追加ポイントが400有りますので針山付きの落とし穴を増やして、私が配置する事でマスターはお休みしながら経験値を稼ぐ事が可能です。』


と提案してくれたのだが俺は、


「うん、経験値も欲しいけど、ウチの森の奥にオーク集落の調査で冒険者さんが入るから何個も罠を設置して万が一が有ったら嫌だから、とりあえず今ある一個を岩山地帯を中心に運用してくれるかな?」


と、お願いしておいた。


『俺よりレベルが高いオークを倒しまくったから4レベルも上がったみたいだな…』


と少しビックリしながら、母屋の裏手の庭に鳥小屋というか大型犬の犬小屋の様なものを2つ作って柵で囲む予定で作業を開始した。


卵鳥は食べ物が有れば余りウロウロせずに巣に居てのんびりと過ごす平和な鳥魔物であり、一度の産卵で複数個の卵を生むだけの弱さを繁殖力で補うタイプの魔物だ。


飛ばないし気性も荒くないので家畜としても人気だし、本人達もご飯さえ有れば基本ご機嫌で、たまに地面を掘ってソイルワームを食べるのが趣味な程度の大きめのニワトリの様なものらしい。


ただ、資料では一匹がソコソコ大きいので我が家の裏庭ではひと夫婦ぐらいがやっとだろう…

ガーディアンゴーレム君にガル工房で昨日もらってきたハンマーを渡すと器用に杭を打ち込んでくれる。


『本当にどんな装備でも使いこなすんだな…』


と感心しつつ板材をその杭に打ちつけて柵をつくり、簡単な入り口の扉を作りながら、


『卵が手に入れば作れる料理が増えるな…油は要るがトンカツだって作れるし…』


などと考えていると、そういえば倉庫にオークが数頭入っていたなと思い出し、


「トンカツが食べれる!」


と、一瞬喜ぶ俺だったが、良く考えるとアイツらは豚肉ではあるが見た目が人っぽいのが何か嫌だな…と思いとどまり自分で少しアイツを解体するイメージをしてしまい眉をひそめる結果になる。


しかし、ラードと豚肉が手に入ったので硬いパンを削ればパン粉もできるし、小麦粉もある…卵さえ有れば…

あれ?なにもオークでなくとも穴堀り猪を使えばトンカツに再び会えるのでは!!と閃くのだが、

しかしオークは昨日解体場で高値で買い取ってもらったし…美味しいのかな?…とも考え、とりあえず卵鳥のお迎え準備をすませた俺は、昼過ぎに自宅の解体場所に移動して、試しにオークを保管倉庫から俺を座標に設定してヒッキーちゃんに頼んで一頭取り出してみた。


俺は鋼ハサミ製のナイフを握りしめ、地面に転がるオークを見つめる…のだが、『凄く嫌だ』旨くて高級肉かも知れないが、解体するには…その…形が…

毛皮の原始的な服…というかコシミノみたいな服も着ているのが更に嫌な気分になる。


目の前のうつぶせのオークのコシミノをとりあえず外してひっくり返す俺は思わず、


「最悪だ…」


と、呟いてしまった…

なぜならそこにはオークの娘さんがいたのだ。


パッと見は一緒なのよね…オスもメスも…

多分お母ちゃんになったら、何処とは言わないが、あのオークチーフさんみたいになるかもだけど…と、心の中でブツブツ言いながら俺はコシミノをそっとオークの娘さんの下腹部に乗せてあげた。


そして、彼女を保管倉庫に再びしまいこみ販売機能で彼女も含めた数頭のオークを全てポイントに交換した。


サイラスの町に売りに行けばかなりの稼ぎにはなるが、


「あれだけ言ったのに、またオークを狩りに行ったのっ?!」


とクレアママさんを泣かせてしまう…それだけは避けたい。


1頭20ポイントを5頭分で、100ポイントが手に入ったのは嬉しいが、多分俺はさっきの映像などを思い出して一生オーク肉は食べれないであろうと項垂れながらため息をついた。


その夜、晩御飯の味すらよく分からない状態で、「はふぅ~ん」と憂鬱なため息をつく俺にナッツが、


「どうしましたか?昨日のダメージがまだ治りませんか?」


と心配してくれたので、


『どう説明しようかな?』


と、考えていた俺だったが投影クリスタルからヒッキーちゃんが、


「マスターはオークの肉を解体しようとして、断念したんです。」


とバラしてしまった。


ナッツは、


「あぁ、それは馴れてないとキツイですね…」


と言ってくれたのだが、ヒッキーちゃんは少し不機嫌な様子で、


「マスターはメスオークのお股をしばらく眺めてから解体を断念したんです!

私というものが有りながら、あんなメス豚に…くやしい!!」


と、なんともヒドイ言いがかりをつけてくる。


どこからツッコんで、どこを否定しようか迷う俺だったが、むしろこの話題をもう話したくないので反論を断念して、その結果その日俺は追加で心に深いダメージを負ってしまったのだった。


体はポーションで治るが心はポーションでは治らない…

前世でも酒はほとんど飲まないタイプだったが、『飲みたい気分』とは、こんな感じなのかもしれない…と、精神がすり減った俺は早めにベッドに潜り込んで、ふて寝するしかなかった。


そして翌朝、ギルドからの依頼を受けたBランク冒険者のパーティー『夕闇の狼』という四人組が自宅を訪ねて来た。


オークの集落の場所に案内して欲しいらしい…

まぁ、丁度卵鳥を生け捕りに行く予定だったので、彼らに現場を案内して帰りに卵鳥のペアを捕まえてくる事にしたのだが…

この夕闇の狼とやらは、とても好ましくない集団で有った。


Bランクなのでそこそこ強いみたいではあるが、人間として如何なモノかと思う発言が目立つのだ。


俺やナッツを見て、「ガキ」と呼び、低ランクがオークの集落の討伐?どうせウソなんだろ?と決めつけて、果ては、


「お前らの為に集落が有ったと報告してやるから金をよこせ」


と言い出す始末…

我慢してオーク集落を目指すナッツは、もう殺意のオーラを放つ勢いで、俺はどうしようか?と悩んでしまう。


すると、案内中の森の中で奴らは、


「さっきから黙ってるって事は後ろ暗い何かが有るんだろ?

多分、貴族のガキが金にモノを云わせてオークを集めたんだろうが、残念だったな低ランク二人でオーク…それもオークチーフを倒すなんてあり得ない!

…駄目だよ。

お金でギルドポイントを稼ぐなんて…黙っててやるから…ね、解るよね。」


と、ナイフを抜いて手のひらをクイクイっっと動かして金をせびっている。


『あ~、抜いちゃったね…ナイフ…』


と考えて、対処に移ろうかな?と思った俺達だったのだが、この事態に一番怒りを覚えていたのがヒッキーちゃんである。


俺達の前に並び圧をかけていた四人の足元に落とし穴を設置し、四人が落ちた瞬間に穴の底に麻痺ガスの罠を設置してから、ヒッキーちゃんはご丁寧に大岩を俺を座標にして落とし穴の蓋として転移させたのだ。


この一連の流がものの数秒で完結したのだから、いかにBランク冒険者と言えどひとたまりも無い。


ヒッキーちゃんは、


『針山付きは我慢してやりました。有り難く思え!ってやつです!』


と、ブチキレている。


ナッツはナッツで、


「クソ!出遅れました…

ナイフを抜いた奴の腕にナイフぐらい投げてヤりたかったのに!」


と悔しがっている。


しかし、困ったのはこの後で岩の下の四人をどうするかだが、ナッツもヒッキーちゃんも、


「魔物に食われた事にしよう!」


と、怖い提案するが…そうもいかない…

とりあえず、300ヒッキーポイントで檻と拘束具を交換してから痺れている四人を檻に放り込んでから後ろ手に拘束して、とりあえずそのまま森に置き去りにしておいた。


そして自宅に戻るとバーンに、


「サイラスの町までお願いね。」


と言って自宅から荷馬車を走らせるのであった。

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