第31話 心配してくれる家族


結局、解体作業が続く中で解体場の裏で休ませてもらいハイポーションで傷と仮眠で徹夜の眠気を癒す事ができた。


親方達にお礼を言ってからクレアママさんに連行された俺とナッツは、冒険者ギルドの個室に入れられて散々お説教をされた。


「低級の冒険者がオークの集落を落とすなんて無茶が過ぎる!」


と…

オークの集落の殲滅は中級で複数パーティーのレイドで倒すか、またはBランク以上の上級パーティー案件らしい…

散々涙ながらに叱られて、そのあと窒息しそうなほど抱きしめられ、


「よく生きて帰ってきてくれた…」


と、クレアママさんに言われたのだが、なんだか下手に叱られるよりも抱きしめられて泣かれたほうが物凄く堪えて心から心配させた事を反省した。


それから、後で聞いた話しだがダメージを負い解体場の裏で寝ていた俺を見たクレアママさんは朝の窓口業務もろくに手に付かなかったらしく、俺からオークの集落の場所や規模の聞き取りをしてくれた男性職員さんが、


「クレアさんの旦那さんも近所の娘さんがオークに拐われたのを聞いて冒険者仲間数人で助けに向かい、その時オークキングと刺し違えたんだよ…」


と、教えてくれたのだ。


ボロボロの俺と旦那さんの最期がダブったのだろう…嫌な事を思いださせてしまったと俺は更に反省する事になってしまった。


ナッツも今回の事は堪えたらしく、


「キース様、特許も有るのでお金の心配は以前の様には無いですし、次回からは巣を潰す時は素材を無視して麻痺ガスの後は薪を沢山放り込んで燃やして放置しましょうね…」


と、うんざりしていた。


オークの集落の情報を聞いた冒険者ギルドは調査依頼をだして、今は解体場で親方達に解体されている彼女の家族の集落を確認できれば、オークの集落の殲滅依頼と、オークの集落の殲滅報告が受理されてサイラスの町の代官さんから報酬金が出た上にギルドポイントも貰えるらしい。


それまでは保留扱いで純粋なオークの買い取り代金だけの支払いだそうだが、正直いうともうクタクタなので早く終わらせて帰って休みたい。


全ての解体にまだ半日近くかかるらしいので、朝に引き出した貯金で俺とナッツは買い物をしながら時間を潰した。


勿論、ハイポーションの備蓄や板材や釘などと、今さら遅いがガルの親父さんの工房で盾と片手剣を買いに向かったのだが、ガル工房は凄く盛況で店の外にまで商人や職人風のオッサンやガテン系の日焼けしたお兄さん達が並んでいた。


列の最後尾に並んでいると店の仕事を手伝っていたニルさんが俺達を見つけて、


「なにやってるの?並ばなくてもキース君とナッツ君はそのまま入店してよ。」


と言われたが、俺達としては時間潰しのついでもあり流石にこの列をすっ飛ばしての入店は悪い気がするので並んで待つことにした。


と言っても、ほとんどのお客さんは循環パイプの予約の業者さんでサクサクと列が進んで行くき、そして俺達の番になると工房の奥からニルさんをムキムキにしたような〈ジルさん〉と名乗るお兄さんが現れて、俺とナッツは物凄く感謝されながら固くてウッスラ汗で湿っている厚い胸板にゴリゴリ沈められる様に抱きしめられた。


有る意味で今日一番の精神的ダメージを食らいフラフラになっている俺とナッツに、ジルさんは循環パイプのおかげで彼女との結婚の話が進んだと報告してくれた。


『それは良かった…』


と、思いつつシットリした頬っぺたを拭うか否かを思案している俺とナッツに、


「今日はどうしたの?」


とニルさんに聞かれて、


「オークの巣穴で死にかけたので、弓以外の武器と盾を買おうかな?と思いまして…」


と、俺が伝えると、ジルさんとガルさんは親子で、ニルさんにゲンコツを落として、


「馬鹿野郎!お前が担当しながら、盾や近接武器を作って無かったのか!?

ウチの恩人をお前みたいな気の利かない野郎に任せたのが間違いだ!!」


と騒ぎ、俺とナッツはかなり上等な盾や片手剣やら手斧までジルさんの自信作やガルさんが太鼓判を押す希少素材を使った逸品を渡されたので、


「お代は幾らですか?」


と、聞くと、


「要らねぇよ!むしろ貰えないし、どうか使ってくれ!!」


と、ジルさんが逆に頭を下げる始末…ガルさんも、


「こんなに稼がせてもらって…キース君やナッツ君が稼げるはずのアイデアを無理やりウチのガキ達のワガママの為に…

親父として、二人には感謝してもしきれない…」


と、ガルさんまで頭を下げている。


俺達は、


「頭を上げて下さい!」


と慌てるがガルさんは、


「勝手に俺らが感謝して、勝手に俺らが家族だと思ってる二人が少しでも安全になるならこの工房は全面的に協力するぜ!

装備の制作でも修理でも全力でサポートするからニルにいつでも言ってくれ!」


と、言ってくれた。


俺はガル工房の皆が家族になってくれた様で嬉しかった…

そして、もうこうなれば俺も全面的に協力してガル工房を王国一番の鍛冶屋にしてやろうかな…と考えていた。


異世界モノの定番である、板バネの馬車やら手押しポンプやら、なんなら鉄道も…ネタや知識ならば腐るほど有る。


しかし、それには俺が強くなるか偉くならなければ厄介事に巻き込まれそうだから直ぐにでは無いけどね…と思いながら俺はガル工房をあとにした。


何だか知らない間にバーンの引く馬車に知らないブロードソードやら大鎌やらハンマーやらが乗せて有ったのだが、ジルさんがウィンクしながら親指を立てていたので多分プレゼントだろうが…使いこなせるだろうか?…

などと思いながら、冒険者ギルドに戻ると買い取りカウンターでクレアママさんが大金貨5枚を渡してくれて、


「解体料とポーション代金は抜いてあるけどオークチーフとオークウォーリアが混じってたわよ…本当に良く生きていたわ…多分、集落の調査が終われば、二人とも下手したらCランクも目前になるわよ。

本当は、コツコツと牧場の森狼討伐とかでポイントを稼いでランクを上げて欲しいんだけど…心臓に悪いのは控えてね!」


とチクリと釘を刺された。


でも、心配してくれる人が居ることに嬉しさを覚えて俺もナッツもニヤケてしまっていたらしくクレアママさんに、


「何ニヤニヤしてるの二人とも!ちゃんと聞いてる?!」


と言われてナッツと顔を見合せてしまった。


「小さい頃に母が死んだので、クレアママさんが心配してくれて…その…嬉しいな…って思っちゃいました。」


と俺が正直にいうとナッツも、


「私もです…」


と言って恥ずかしそうに答える…

すると、クレアママさんはカウンターから身を乗り出し俺達を抱きしめて、


「本当に…心臓に悪い、可愛い息子達だよ…」


と言ってくれた。


クレアママさんが心配するから無茶は控えようと改めて誓う俺とナッツだった…


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