第23話 異世界お風呂物語


翌朝、俺とナッツは午前中の狩りをお休みにして、お風呂を我が家に爆誕させるべく朝早くから前回購入した鉄釜や耐火石粘土という錬金ギルドで購入した素材を用意して、ヒッキーちゃんサポートで石垣の中にある使われていない石など、


「じゃあ、コレとこの石を回収して」


と、敷地内回収を使い石を集めてから綺麗な水が涌き出ている石垣内の池の近くの水場に移動して、ナッツに


「ここならば池の下流の水路に排水路をつけたらイケるかな?」


と相談すると相棒は、


「では、あちらまで水路を掘ります。

キース様、水路はいかがなさいますか?

折角ですので耐水石粘土を塗って乾かせば横の果樹園に染み込まないと思います。」


と提案してくれた。


『まぁ、ナッツの大事なオランの木にお風呂の暖かい残り湯が染み込んで弱るのは心配だよね…』


と思った俺は、


「そうだね、材料は沢山あるから排水路をしっかり作るか!」


と答えてからヒッキーちゃんのサポートで回収した石と耐火石粘土を使いって鉄釜を据え付ける釜戸を作り始めた。


耐火石粘土はセメントの様な粉の状態で販売されており、樽やバケツ等を使い水と練り合わせるとその水分量により粘土の様になり四角い型を使い乾かせば耐火レンガも作れ、石と石の隙間に少しユルく練った耐火石粘土を接着剤がわりにすれば耐火性のある釜戸が出来上がる。


石を丸く並べてから少しユルく練った耐火石粘土で石を組み上げて焚き口を決めて、反対側に空気の通り道を開ける様に隙間を作り釜戸の完成を目指す。


最近かなり冷え込んで来たので、早く風呂で暖まりたいとの一念で数日がかりで相棒と力を合わせて排水路と釜戸を作っていき、やっと完成した釜戸にガルさんの鍛冶屋で購入した大きな鉄釜を据えて、ナッツが作った排水路の上流の洗い場に自宅の旧鍛冶屋の中に有った大きなタライをヒッキーちゃんに頼んで俺を座標にして敷地内回収で飛ばしてもらった。


ナッツが、


「キース様、これで完成でしょうか?」


と、少しウキウキしながら聞いてくる…

それもそのはず、屋敷でもこのようなお湯に浸かる風呂は主人家族しか使えず、使用人は最高でも暖かいお湯で体を拭く程度である。


まぁ、ちなみにだが俺も離れに軟禁されるまではタライに湯をはって湯浴みをしていた…

なのでナッツ程ではないがこの風呂の使い心地にかなり期待している。


俺が、


「あとは、タライが水漏れしないか確かめてから、大丈夫そうならば釜戸でお湯を沸かしてタライにバケツか何かでお湯を移したら使えるかな?」


というと、ナッツは、


「では、タライに水をはってみますね。」


と、長年使ってなかったタライにナッツがバケツを使って湧き水井戸から水を運んでは注ぎ入れる。


俺も手伝い二人がかりで水を運びタライに水を満たすと、ウッスラ湯気が上がったのは俺達の方だった。


俺が、


「これは風呂の準備をするのに汗だくになるな…」


とボヤいていると、ナッツはタライを舐め回す様に確認して、


「キース様、ジワッと水が隙間から滲んでいますが、何とか使えそうですよ。」


と、待ちきれない様子で報告してくる。


俺も風呂が待ちきれないので、


「よし、ナッツ!もうひと頑張りだ。」


と言って、ヒッキーちゃんに頼んで保存用の肉を貯める用の空き樽2つと薪を釜戸の近くに俺を座標に飛ばしてもらい、ナッツに、


「タライの水を鉄釜に満たしてから空き樽に水を移してから、追加で沸かす用の水と湯加減用の水を汲むよ。」


と指示を出すと、ナッツは汗だくついでとばかりに、


「よし!頑張ります!!」


と、再び二人でバケツでの水運びを再開した。


『これは水汲み用の水路も欲しいな…』


などと思いながらも俺も相棒も汗だくのずぶ濡れ状態で準備を進めると、初めて火がくべられた釜戸は順調にお湯を沸かしはじめて水に満たされた樽が出番を待つばかりとなった。


冬の夕暮れは早く少し辺りが暗くなりはじめるとナッツが、


「キース様、少し寒くなってきましたね…」


と訴える。


確かに二人とも風呂の前に体の芯まで冷えてしまい湯を沸かす為の焚き口の炎で服を乾かしながら暖をとっている状態であり、投影クリスタルに移るヒッキーちゃんが、


「マスター、先に着替えませんか?」


と聞いてくる始末だ…

しかし、折角今から風呂に入るというのに着替えてしまえば洗濯物が増える事になる。


「洗濯物が増えるから我慢するよ…」


と俺がいうとナッツは、


「キース様、この風呂場さえあれば次の洗濯物にお湯を使えませんかね?

お風呂の後のお湯でも十分温いでしょうし…」


と、遠回しで着替えを増やしても洗濯物が楽になるから着替えようと提案してくるので俺は仕方なくナッツに、


「じゃあ、お湯を張り始めるからナッツは魔石ランプと俺達の着替え持って来てよ…もう入っちゃおう!」


と提案するとナッツは待ってましたとばかりに母屋へと走りだした。


沸いたお湯をバケツを使って釜戸の近くに置かれたタライに入れていく…

勿論だがとても人間が入れる温度では無いので、ある程度お湯が溜まれば隣にある水樽から水を入れて湯加減をする方式である。


タライの5分の1ほど熱いお湯が満たされ、鉄釜にもう一つの水樽の水をバケツで注ぎ、追加のお湯を沸かしはじめているとナッツが戻ってきて、


「キース様、もう入りましょう!」


と言い出した。


確かに湯加減さえすれば浸かれるが、いかんせん湯量が少ないので、


「追加のお湯を沸かしているからナッツは水樽から水を入れて先に暖まりなよ。」


と俺が促すと、ナッツは暫く、


「う~ん…」


と悩んでいたが、結局、


「スミマセン、キース様…お先に失礼します。」


と言って水をタライ風呂に注ぎ湯加減を調節した後に寒い屋外というのに素っ裸になりタライの湯船に飛び込んだ。


水を入れてナッツが浸かって尚、タライに半分強の湯量に相棒は、


「あぁぁぁぁ…最高に気持ちいいですが、へその辺りまでしかお湯に浸かれませんね…少しタライが大き過ぎたかもしれません…」


と言いながら色々と知恵を絞ったナッツはタライの中で丸くなり右半身を暖めた後に反対を向いて何とか全身を暖めようと頑張っている。


俺も早く暖まりたいのもあり、釜戸に薪をガンガンくべて湯を沸かしているがこれが沸くまでにはまだしばらくかかりそうである。


するとナッツが、


「キース様、キース様も入って下さい!

二人入れば今の状態でも水かさが上がるかと…」


と提案してくるので、


『相棒と裸の付き合いも悪くないかな?』


と、俺もビシャビシャになっている服を脱ぎ捨ててナッツの待っているタライに飛び込む。


湯量が足りないと言われているので、お行儀が悪いが、相棒と二人で使うお湯…かけ湯などは今回はしない事にした。


芯から冷えていることも相まって、ヒッキーちゃんの、


「あら、まぁ…」


と、俺の裸に反応したことも今回は無視する事にしてナッツの待つタライ風呂へと入る。


湯船にしたタライは、満水にしてもあぐらをかいて座れば胸まで浸かれるかどうかの深さしかないが、ナッツと二人で入れば半分の湯量でも満水近くまでになる。


俺は、あまりの温度差に、


「あぁぁぁぁっ、熱くないか?!」


と驚くがナッツが、


「冷める事も考慮して少し熱めにしましたが、今では少しぬるいと感じます。」


と言っていたので俺が冷えていただけだろう…

バケツを手桶がわりにして肩からかけ湯をしながら相棒と二人で異世界露天風呂を楽しんでいると、いつの間にやら夜が訪れており魔石ランプの明かり程度では消されない星空を眺めて、


「最高だな…」


と呟く俺にナッツが、


「キース様…気のせいか、お湯…少なくなってませんか?」


と聞いてくる。


確かにさっきからバケツにお湯が汲み難くなってはきている…

すると、タライの側で俺達の入浴をガン見していたヒッキーちゃんが、


「マスター、タライからの水漏れが激しいですよ…やっぱり古いタライだったからかな?」


と、冷静な報告をしてくれる間もお湯はガンガン失くなっていき、我慢出来なくなったナッツがタライから飛び出してお湯を沸かしている鉄釜に手を突っ込み、


「キース様、かなりぬるいですがこのお湯で体を洗って終了にしましょう。」


と言ってバケツを鉄釜に入れてお湯を汲み上げて頭からかぶると相棒は、


「ひぇ、冷たい!」


と騒ぎながら裸でのたうち回っている…


『上部がぬるいお湯ならば、中程はまだまだ冷たいだろうに…』


と呆れる俺にナッツが飛び付き、


「キース様…」


と裸で俺の体温と、残り少なくなりかなり冷えたお湯で暖をとろうと震えている…


『相棒よ…裸で抱きつきながらカタカタ震えないでくれ…相棒の相棒というか、ナッツのナッツが…』


と、冷えた相棒が少し落ち着くまで我慢する俺だった。


こうして満天の星空の下で相棒と一糸纏わぬ姿で抱き合うという経験と共に、異世界でのお風呂物語は大失敗の元に終了したのだった。

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