第22話 1日がかりの顔合わせ
翌朝、いつもとは違う朝が訪れた。
「マスター。朝ですよぉ~」
と、ヒッキーちゃんの元気な声が響く…
そう、俺の脳内では無く現実世界で…
俺は何となくこうなると予想していたので大丈夫だったが、ナッツはいきなり聞こえる知らない女性の声で飛び起きて、
「えっ?!えっ??!」
と、辺りを確認している。
そして、暖炉の側の床に有るクリスタルの置物から放たれた光の中に、知らない少女が立っているのを見つけたナッツは、
「なっ、な、な、なん…」
と慌てている。
俺がヒッキーちゃんを紹介しようとすると、ナッツは、
「なん…なんて、美しい…」
と、訳の解らん事を言っている…
『まだ、寝ぼけているのか?』
と心配する俺だがナッツは、
「私は今まで生きてきて、これ程までに心を揺さぶられる女性に出会った事は有りません!」
と、興奮している。
『もう、ややこしい…』
と、うんざりしながらも俺は相棒に、
「こちら、俺の自宅警備スキルの一部であるヒッキーちゃんです。
主にスキルのサポート業務をしてくれています。
そして、こちらが俺の相棒のナッツ君です。」
と、紹介するとナッツは真っ赤になりながら、
「ナッツと申します。
元暗殺一家の次男で、家同士のいざこざに負けて一家揃って奴隷落ちしたところキース様のお父上であるナルガ子爵様に救って頂きキース様の使用人として仕えておりました。
今は一緒に冒険しゃ…」
と、自分の事をヒッキーちゃんに喋っているナッツに俺は思わず、
「ちょ、ちょっと待って!!ナッツ…暗殺一家…出身なの…?」
と、遮って聞いてしまった。
すると、ナッツは、
『えっ、何を今更…』
みたいな顔で、
「いや、前々から私のスキルは掃除上手だと言ってましたし、ご存知とばかり…」
と、驚くナッツだが、
「いやいや、普通にビックリだよ!」
と驚く俺だったが、
『あれ?掃除って暗殺の方の掃除なのね…』
と気がつくと、俺は今までの疑問が繋がって何故だかシックリ来てしまう自分がいた。
「ナッツのスキルって、気配が消せたりターゲットをサーチしたり出来る?」
と俺が聞くとナッツは、
「はい、幼い頃からの訓練も有りますが気配を消して移動したり潜伏したり出来ますし、ターゲットをしっかりと覚えれば沢山の人混みの中でも見つけられます。」
と、言っていた。
やっぱり、薬草をターゲットにするからあんなに見つけられて、気配を消せるから魚に気付かれずに釣り上げれる…
『ズルいぐらい有能なスキルじゃないか!!…』
と納得したのだが、もう俺の小さなハートはその前の暗殺一家の辺りでお腹いっぱい状態である。
しかし、ナッツにはヒッキーちゃんの事も含めて、俺のスキルと俺の前世の話をしようと思い、この日は朝から暖炉の前のテーブルで俺の今までの人生の話とナッツの人生の話をお互いにして、最後にヒッキーちゃんからナッツに現在の自宅警備スキルの説明をしてもらった。
ナッツの一族の話も初めて聞いたのだが、ライバルの一族との里ををあげての勢力争いにナッツのパパさんが相手方の女性の長に本気が出せずに負けてしまって、仕事柄有力貴族の裏情報を知っている一部の者はどこかの貴族の奴隷として管理下に置かれ、それ以外で危険と判断された者は死刑や、奴隷兵として戦地に送られ残った一族も全員一般奴隷に落とされたとナッツが話してくれた。
ナッツは、
「子供の頃に惚れた女性に本気が出せないとは…」
と、自分の父親の事を呆れながら話していたが、俺からすれば、
『その親にして、この子ありだよ…』
という感想しかない。
ナッツパパも好きに正直だったのだろう…
なので、俺は『どこの忍者の里の話しだよ!』とツッコミたい気持ちを我慢しておいた。
そして、俺の前世の話しをしたのだがナッツは、
「へぇ~、何か凄いですね。」
と、激薄な反応だった。
むしろヒッキーちゃんのビジュアルが俺の初恋の少女をベースに好きな色々な女性のパーツをチョイスしたらしいが…何故かセーラー服なのである…
そして、色々いじったそのアバターはナッツ君の性癖にブッ刺さったらしく見事にヒッキーちゃんはナッツ君の好きなモノにランクインしたのである。
という事で、俺の前世などよりもナッツ君の興味はヒッキーちゃんにしかない…
しかし、相棒のドストライクらしいヒッキーちゃんだが正直言うと俺はちょっと無しである…
美味しいモノばかりをブチ込んだ料理が旨いとは限らない…トータルバランスなのである。
あと、中身は重要!!
自分のスキルとはいえ、ヒッキーちゃんのグイグイくる感じ…少し苦手かもしれない…
それと俺もビックリしたのがヒッキーちゃんは俺の記憶ベースにしているので、前世と今世の記憶にアクセス出来るのでサーチやソナーを使い、敷地内の森で食料になる物や換金出来る物を見つけ出し、敷地内回収や家庭用保管倉庫とリンクし手入れる事が可能らしい…
つまり稼ぐ方法が、魔物を探して、倒して回収するだけじゃなくなったのだ。
試しに、ヒッキーちゃんは屋敷で読んだ本の記憶から、この辺にも生えているらしい食用の(山芋)指定し、ソナーやサーチを使い見つけ出して俺の前に転移させたのだった。
一部でも地表に出ていて、ソナーで確認出来る大きさや深さのモノならば掘り返さなくても敷地内回収が使えるらしい。
続いてヒッキーちゃんは、
「敷地内回収はマスターの前に転移させる機能ですが、保管倉庫とリンクすることにより、マスターか倉庫かの転移先を決めれます。
倉庫からマスターも、マスターから倉庫への転移も私のサポートが有れば可能になりますので、マスターは敷地内でのみ擬似アイテムボックスの様な機能が使用できます。」
と、教えてくれた。
俺は、
「おい、おい、凄いぞヒッキーちゃん!
検索も出来て、敷地内どこでも採集が行えて、容量が車庫程度だがアイテムボックスまで自宅に居ながら使える…
時間停止では無いにしても長期保存可能な停滞付きの倉庫を使って敷地内回収で獲物の回収も出来るし、解体場まで手ぶらで移動しても大丈夫…これは益々快適に引きこもれるな…」
と感心しているとヒッキーちゃんは俺に誉められて嬉しそうにしている。
ナッツはその姿を見て、
「えっ、ヒッキーちゃんとキース様は…その…そう言った…関係で…」
と、心配そうに聞いてくる…
どう言った関係だと思ってるんだ?と首を傾げる俺に代わってヒッキーちゃんは、
「ええ、もう、一言では言えないぐらい深い仲ですよ。
私とマスターは切っても切れない…死が二人を分つまで離れられないズブズブの関係ですわよ。」
と、自慢気に言うと、あからさまにナッツのテンションが下がってしまってガックリと肩を落としている…
『実に、ややこしい…』
しかし、ナッツに元気を出して欲しい俺はナッツに、
「俺のスキルは敷地内に居ないと使えないスキルだから、ナッツにはヒッキーちゃんと一緒に俺の力になって欲しいんだ。
ナッツとヒッキーちゃんの二人が居て初めて俺の自宅警備スキルは生きてくるんだよ。
ナッツもヒッキーちゃんも頼りにしてるよ。」
と頭をさげると、ナッツは、(ヒッキーちゃんと一緒)の一文に食い付き、ヒッキーちゃんは俺に頼られる為にはナッツとの協力が必要との結論に至り、二人は硬い絆によって結ばれた同士になってくれた。
『はぁ~、キャラが濃いから…二人とも…』
と、少し呆れながらも話が一旦落ち着いた瞬間に、
「ピポッ?」という小さな電子音と共にメカニカルな足の生えた半球体の物体が三体…
『あの~、我々の紹介は?』
みたいな雰囲気を醸し出している…
『あっ、小型ガーディアンゴーレム達の紹介がまだだった!! 』
と気づいた時には夕方近くになっていた。
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