第15話 久しぶりの町


約束の日となり現在ミックさんの荷馬車に揺られてサイラスの町に向かっている。


今日は朝からツイている…穴堀り猪の群れに出会して三頭も狩る事が出来た上に俺のレベルが6に上がりお祝いポイントが貰えた。


ラッキー♪と、ご機嫌に血抜き作業をしていると、ミックさんが到着して頼んでいた商品を受け取り、代わりにサイラスの冒険者ギルドに向かう為に毛皮等を荷馬車に積んでいくとミックさんは、


「わぁ、二人とも頑張ったね。

跳ね鹿や穴堀り猪の素材がこんなにある…冒険者というより猟師みたいだね。

これならば十分馬と荷馬車が買えると思うよ。」


と言ってくれた。


そして、約1ヶ月ぶりに来たサイラスの町の北門で俺達を見つけた門兵のお兄さんが、


「久しぶりだな、キースにナッツ!

顔パスで門を通れる様にと通達が来たのに二人共ちっとも来ないから心配してたんだよ。」


と、出迎えてくれた。


俺とナッツは、


「また、後でねぇ~」


と、門兵のお兄さんに手を振ってミックさんの荷馬車の荷台に乗って冒険者ギルドに向かう。


昼過ぎの冒険者ギルドの利用者は少ない…

冒険者は仕事に向かい町の外だし、お休みと決めた冒険者は大概昼から開いているギルド経営の酒場で出来上がっている時間帯なのだ。


ギルドに入るとカウンターに向かう前にクレアママさんが俺達を見つけてカウンターの中から駆け寄りムギュっと俺とナッツをまとめて抱きしめ、


「無事だったかい?元気にしてた?ちゃんと食べてる?」


と矢継ぎ早に質問してくる。


しかし、俺とナッツは優しさに包まれながら、「モゴモゴ」と返事するのがやっとだった…

まぁ、何がどうかは言わないが悪くない息苦しさを経験出来た俺達はクレアママさんに獲物の買い取りを依頼すると、


「量が凄いからギルドの裏手に馬車をまわして搬入口から解体場に降ろして」


と指示されてミックさんの荷馬車を冒険者ギルドの裏手に移動してもらい、樽に入った塩漬け肉や、乾かした毛皮等を降ろしていると解体場のおっちゃんから、


「おっ、なかなか見事な解体の腕前だな…どうだいウチに来ないか?!」


と、お誘いを受けている最中にクレアママさんが裏手に買い取りの書類を持って現れ、


「ガルフ!

また、若い冒険者を弟子に勧誘して…キースとナッツはアタシが目をかけてるんだからアンタにはやらないよ!!」


と、プンスカと怒っている。


『お世辞かもしれないが誰かに必要とされるって嬉しいな…

特に今世では、必要とされない時期が長かったから…』


と、少し笑みがこぼれた俺に気が付いたクレアママさんが、


「ほら、ガルフ。

アンタのせいで二人に笑われちゃったじゃないの?!」


と、解体場のおっちゃんの肩をシバいている…隣を見ればナッツもニヘラと楽しそうにクレアママさん達のどつき漫才を眺めていた。


ナッツも多分、必要とされて嬉しかったのだろう…

そんな事の後でクレアママさんから、


「穴堀り猪の解体とその他の素材の買い取り確認に2時間程待ってくれるかい?」


と言われ、時間潰しも兼ねてミックさんと先に馬と荷馬車を見に行く事にした。


ミックさんの荷馬車に揺られて町外れの牧場に到着するとミックさんが、


「着いたよ、探しておいた馬と馬車がある牧場だ。」


と言った後で大声を上げて、


「おーい、ティム!お客さんをお連れしたぞぉ~」


と叫ぶと、牧場の奥で作業していた男性が手を振りながら歩いて来た。


しかし異様なのが、その男性の後を放牧中の馬がゾロゾロと着いてくるのである。


ミックさんは、


「相変わらず、生き物に好かれてるな…」


と感心していたのだが、好かれるというよりは従えてるって雰囲気であり、俺の頭には、


『動物の王様…いや、動物王国のティムゴロウさんかな?』


という感想が浮かんでいた。


馬の群れの先頭を歩くティムさんは、


「いらっしゃい、君達がミックの所のじいさん達の不便な開拓村に移り住んだ若者かい?」


と言って、お互いに簡単な自己紹介の後でオススメの馬魔物の紹介をしてくれた。


前の飼い主さんから「足が遅い!」と言って蹴飛ばされていたのをティムさんが買い取った立派なオス馬なのだが、ティムさんは、


「スピード重視の品種ではないから仕方ないのにね…お前は悪くないよぉ~」


と、言いながら茶色の馬の顔や首を、「よぉ~し、よしよし」と擦っている。


そして、ティムさんは、


「そんな訳で、前の飼い主から結構酷い扱いを受けたこの子を可愛がってくれる人に譲りたいんだ。

スピードは出ないけど、パワーと丈夫さは保証するよ。」


と言って、俺とナッツにその馬を引き合わせてくれたのだが俺の第一印象は、


『馬ってこんなにデカいのか?』


と少しビビってしまったのだった。


なぜなら、ミックさんの荷馬車を引く立派な馬魔物より紹介されたその馬は軽く一回り以上大きいのだ。


軍馬に使う品種の血を色濃く受け継いだ雑種らしく、軍馬の品種のバトルホースという品種にしては小さくて貧相なのだとか…

そして、タフさを売りにしたトラベルホースというミックさんの馬と同じ品種にしては疲れやすく、連続で走り続ける事が困難だというなんとも微妙な感じのスペックなのだが、見方を変えればトラベルホースとやらより遅いがバトルホース譲りの頑丈さと力強さがあり、そしてトラベルホース譲りのスタミナでバトルホースに比べれば十分にタフなのである。


『しかし、この馬よりデカいバトルホースって…世紀末覇者が乗るやつかよ…』


と思いながらも俺もティムさんの真似をして馬に近づいて、「よぉ~し、よしよし」してみるが、


『う~ん、いまいち…』


みたいな反応をする馬である。


しかし、ナッツが、


「よろしくな。」


と、首をポンポンとすると馬はナッツにスリスリしている…

そこで、俺は気が付いたのだ。


『距離の詰めかたミスったぁぁぁぁ!』


と…

それもそのはず…いきなり知らないヤツにベタベタされたら引くよね普通…

あぁ、コミュニケーション能力の欠如が招いた悲劇だ!

馬の中で、既に『ナッツ > 俺』が確定したようだが既にナッツと仲良しなので他の馬にチェンジも出来ない。


そんな馬君は中古の荷馬車込みで小金貨五枚らしい。


「冒険者ギルドの買い取り金額しだいですが、購入を希望します。」


と俺が告げるとミックさんは、


「大丈夫大丈夫、足りる足りる。

なんなら、私が立て替えておくから貰って帰りなよ。

じゃないと、また来るにはティムの農場は少し遠いからね。」


と言って、ティムさんに小金貨五枚を渡していた。


立派な馬にしては少し小ぶりな荷馬車にも見えるが、普通サイズの荷馬車もついて、しかもその荷台には藁がドカっと積んで有った。


ティムさんが、


「寝床の藁はサービスだよ。」


と、言ってくれ俺はそこで、


『そうか、馬の寝床の事は全く考えてなかった。』


と、馬を飼うという事について全く知らない自分に衝撃を受けたのだった。


ミックさんの馬車と新たな仲間の馬君が引く馬車の2台で冒険者ギルドに向かう道中で手綱を持っているナッツが、


「名前、決めないと駄目ですね…」


と言っているので俺は、


「ナッツの方が仲良しみたいだから、付けてあげなよ…」


と命名権を譲るとナッツは嬉しそうに、


「良いんですか?!」


と言って、ブツブツと考えはじめた。


そして、立派な雄馬は冒険者ギルドに到着する頃には、〈バーン〉という名前がついていた。


理由は分からないが、響き重視らしい…

しかし、俺の頭の中では、ばんえい競馬のばん馬みたいなバーン…

と認識してからずっと、俺の脳内でムッシュが歌いだしている。


ばん馬、バーンと…


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