第16話 買い物と出会いと謝罪


冒険者ギルドでの買い取り金額は、穴堀り猪の解体料金を引いて小金貨8枚と大銀貨3枚となった。


まぁ、鹿や猪を30頭程と樽一杯の乾燥薬草でこの金額であり、自宅での解体の時に使い方の判らない肝等は泣く泣く捨てたりしたが、それでも八十三万円…十分ではないだろうか…

すぐに、ミックさんにお金を返して彼とは冬の終わりの再会を約束して別れた。


そして、クレアママさんからは、


「よく頑張ったね。Eランクに昇格だよ。」


と言われて手続きをしていると、


「もう少し頑張れば、Dランクに上がりそうだけど依頼でも受けるかい?」


と聞かれるが、


「家の修繕などやることが沢山あるので、春までは引きこもります。」


と言って依頼は受けずに帰る事にした。


クレアママさんは、俺達をギルドの入り口まで見送ってくれて、


「気をつけてね。」


と再びムギュっと俺とナッツを包み込み。


二人して、


「くへぇはママはんも…」


と、何とは言わないが圧迫されたまま俺達は答えた。


クレアママさんに別れを告げて、稼いだ金で冬服や寝具等を買ってから、余った金額は商業ギルドに寄って貯金しておくことにした。


商業ギルドでは久しぶりのマイトさんやルイードさんに自宅の住み心地の報告をして、ナッツは果樹園の整備が完了したことをマイトさんに報告していた。


春には辺境伯領の他の町にあるギルドマスターのマイトさんの本家?の果樹園から、果物の苗木が届く様にナッツが打ち合わせしているので俺はルイードさんに追加の木材の手配をお願いしたのだが、


「板材の製材は仕方ないにしても、森の木材を切り倒して乾かしておいたら使えるよ。」


と、アドバイスを受けた。


そうか、木材は買うモノっていうのは勝手なイメージだった…切り倒せば使えるし、枝や使えない部分は薪がわりになるなと納得した俺は、


『斧を買うか?』


となったので、ナッツと相談した後に商業ギルドの帰りに鍛冶屋さんに寄って斧を購入する事にした。


この町に来て初めての鍛冶屋だが実は顔見知りでもある…

サイラスの町に来る時の幌馬車で一緒だったお兄さんがその鍛冶屋さんの次男で修行を終えて帰って来たところを同乗したのだった。


「稼いで武器を揃える時には来いよ。」


と言われていたのだが、新品の武器を買える程は稼いで無かったのでまだ来店していなかったのだが、木を切る斧と薪割り用のナタならば貯金で買えるだろうと俺達はルイードさんからの手紙を持って鍛冶屋へと来てみたのだ。


この手紙は『代金は商業ギルドで払うのでヨロシク』的な書類らしい。


店に入ると店番をしていたのがあの時のお兄さん〈ニル〉さんで、店の奥からはトンテンカンと鍛冶のハンマーの音が鳴り響いている。


ニルさんは、


「おっ、駆け出し冒険者のお二人がやっと来たな…薬草摘みから狩りを出来る様になったのかい?」


と、お客さんが居ないので暇だったらしく店のカウンターから聞いてくる。


ナッツが、


「新品の武器はまだ無理そうですが中古品で頑張って、本日やっとEランクに上がりました。」


と報告したのだがニルさんは、


「おい、おい…水くさいじゃないか!

一緒に旅をした仲だろ?この店ならば俺が新品ぐらい(傷がある!)とか、難癖付けて激安で売ってやるのに…」


と言っている。


『おい、おい…販売員がソレをしちゃ駄目だろ…』


と、俺が引いていると髭をたくわえたマッチョなおじさんが店の奥から現れ、「ゴン!」と音がしそうなゲンコツをニルさんに食らわせ、


「馬鹿ぬかせ、勝手に値引きしなくてもお前の練習がてら新たに打ってやればいいだろうが!」


と怒鳴っている。


そして、ニルさんの持っているルイードさんからの書類をひったくり読みはじめると、


「キースとナッツだな、マイトの野郎から聞いてるぜ、俺の親父のこしらえた家はどうだ頑丈だろう。」


と、笑顔で聞いてくる。


あぁ、作業場として使っている旧鍛冶屋の息子さんか…と理解した俺は、


「あの建物のおかげで何とか他の家の修繕も出来ています…大変助かりました。」


と、頭を下げておいた。


おやっさんは、「そうだろう、そうだろう。」と満足げに笑って、


「今日は何が要るんだ?」


と聞いてくるので俺は、


「他の家を直したりするのに木材が必要で…木を切り倒す斧と薪割りで使うナタを…」


と、俺が言うのを聞いた親父さんが、


「えっ、他の家ってマイトの家か?」


と聞いてくる。


ナッツが、


「マイトさんの生家と、ミックさんのおじいさんの厩舎付きの家で床を張り直したりしています。

鍛冶屋さんは掃除だけすれば住めましたし、なんなら道具さえ有れば鍛冶も出来そうでしたよ。」


と告げると、親父さんは益々ご機嫌になり、


「やっぱり、頑丈なのが一番よな!」


と言って、店にある斧とナタを手に取り、


「ほれ、引っ越し祝いだ!持っていけ!!」


と、渡してきた。


俺が、


「でも…」


と遠慮気味にいうと、


「男がいっぺん出したモンを引っ込めれるか?!

ありがたく貰っておけ…今日の酒は旨くなりそうだから、その礼だ。

マイトの野郎を弄り倒してやろう…潰れた家を売ったのか?ってな!」


と、楽しそうだ。


俺は、


「無料同然で売って頂いたし、木材等もサービスして貰ったので、どうかお手柔らかに…」


と言っておいたのだが親父さんは、


「ガッハッハ、渡した木材も足りないから斧を買いにきたと更に酒の肴にしてやるわ!!」


と、ご機嫌である…


『マイトさん、ごめんなさい…でも俺…悪くないですよね…』


と、俺は心の中で謝り、無料で斧まで手に入り流石に悪いので何か購入しようかと、店の商品をチラリと見るとなかなかの値札が付いている。


『やっぱり、中古と比べたら駄目だな…新品の装備はまだ先の話か…』


と、諦めながら相棒を見ると、ナッツも同じ意見らしく残念そうな顔をしていた。


ニルさんに、


「装備はどうする?」


と聞かれたが、


「とりあえず冬の間は家の修繕に励むので、春頃には…」


と、返事を濁してその日は退散する事にして、


『装備を買う為にお金を貯めなければ…』


と心に誓う俺達だった。

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