第14話 行商人の来訪


引っ越して今日で1週間経った…

俺達の冬ごもりの準備もスライムの捕獲から3日でかなり進んでおり罠での狩も怖いぐらいに順調で二人で暮らすには十分な量の肉を確保出来た。


1日の流れにも慣れてきて、朝一番で罠を巡って獲物を倒して自宅に運び、解体も少しずつ上達をしてきて昼前には全て終われる様になってきている。


ただ昨日は2つの罠ともに跳ね鹿が掛かった為に解体に昼過ぎまで掛かってしまったのだが、しかし、解体したは良いが肉を漬け込む為の塩が完全に底をついてしまいナッツと二人で困っていた所に道を監視しているカメラが動く影をとらえ報告のランプが脳内の操作パネルに点った。


「あれ?誰か来たのかな…」


と、ナッツと一緒に解体場にしている水路の側から門に移動し出迎えたのだが、門の外に居た荷馬車に乗った人の良さそうなお兄さんは俺とナッツを見ると、


「ひっ!」


と、短い悲鳴をあげる…

『?…』と首を傾げる俺だったが、冷静に自分達の姿を見て、「あぁ…」と納得する自分がいた。


なぜならば、鹿2頭のトドメを刺して解体していた俺達は赤黒い返り血まみれで、ナッツに至っては解体用ナイフを握ったままだったのだ。


俺は焦りながら、


「スミマセン!今、獲物を狩って解体をしていたところでして…」


と、驚かせた事を謝罪して彼を石垣の中へと招き入れた。


彼は商業ギルドからの依頼で御用聞きに来てくれた商人の若者〈ミック〉さんという方で、お互いに軽く挨拶を交わした後に商談となったのだが、ミックさんは冬支度に必要だろうと塩は勿論、生活に必要そうな物を中心に荷馬車に商品を積んできてくれたのだった。


『どうやら、商業ギルドマスターはなかな出来る商人さんをあてがってくれたようだな…』


と俺は感心しながらもナッツと二人で相談して決めていた、塩をはじめとして保存用の壺や樽に、気をきかせて持って来てくれた予備の武器の中に安い槍も有ったので罠のトドメ用に2本購入し、代わりに先ほど解体したての跳ね鹿の新鮮な肉を買い取ってもらった。


正直、肉は十分足りているし塩漬けの手間が一回減るので有難い限りである。


ミックさんは、


「冬本番になったら流石に行商に来れませんから、10日後にまた来ますので、その時に春まで持つ量の商品を用意するので欲しい物を決めて頂きたいです。

…あと、今ある荷馬車の品物で欲しいものは有りませんか?

新鮮な跳ね鹿の肉を2頭分も買わせてもらったので、購入品と相殺しても大銀貨一枚ぐらい余りますよ…」


と、言ってくれたので俺達は保存もきく小麦粉を購入しておいてそれからナッツとも相談したのだが、10日後に野菜の種を集めて持って来て欲しいとお願いして塩も含めた調味料の追加と、その時に俺達をサイラスの町まで連れて帰って欲しいと頼むとミックさんから理由を聞かれたので、


「乾燥させた薬草や、毛皮や魔石の買い取りを冒険者ギルドで行って稼いだお金で自分達用の馬を買いたいと思いまして…」


と答えると、ミックさんは、


「了解したよ。安くて丈夫な馬と中古で良ければ荷馬車も探しておいてあげるね。

お金が足りなかったら、ウチから貸してあげるから心配しなくていいよ。」


と、何とも有難い提案をしてくれた。


しかし、お金まで借りるのは気が引けるので、


「可能な限り頑張って稼ぎますので貸して頂くのは…」


と断ろうとするとミックさんは笑いながら、


「ウチのじい様もマイト様と、この村を開拓してたらしいから入植してくれるのを喜んでいるんだよ。」


と、厩舎のある建物を親指でクイッと指差している。


『あぁ、ミックさんはこの村の開拓チームの子孫さんかぁ…』


と、俺が納得しているとミックさんは、


「まぁ、じい様がいうにはこの村を開拓したは良いけど、お隣のサイラス村の交通の便が良くて町にまで発展したから移り住んだだけで、この場所自体は住むのには最高の場所だからと言ってたよ…

それと、じい様からのプレゼントだ。」


と言って、ミックさんは荷馬車の端から釣竿セットを取り出して俺達に渡してきた。


ナッツと二人で、その釣竿セットを受けとるとミックさんは、


「じい様が、今のうちに外の池で釣った魚を村の中の池に逃がしておいたら冬の保存食になるから渡してやれって荷馬車に積んだんだよ。」


と、説明してくれて、


「本人が釣り好きで、釣りの楽しさを広めたいだけだろうけど…」


と、ミックさんは笑っていたのだがすぐに、


「そうだ、肉が傷む前に帰らないと…サイラスの町で両親が酒場をやってるんだ。

今晩の仕込みに間に合わなくなる!

では、キース君もナッツ君もまたね…

あぁ、その時に親父の店…って、まだ二人は酒を飲まないか!?」


などと言ってミックさんは慌ただしくサイラスへと帰って行った。


ミックさんの荷馬車を見送った後にナッツと二人で、


「10日後に沢山クレアママさんに買い取り依頼を出せる様に頑張るぞ!」


と狩りや採集へに力を入れようと気合いを入れたのだがナッツから、


「でも、キース様は早く母屋の修繕とベッドをお願いしますね。

私は薬草採集と、薬草の乾燥を頑張りますから。」


と言われて、


『確かに、暖炉がわりの鍛治釜戸の側でも土の床は少しヒンヤリするからな…』


と納得した俺は、先ほどの気合いとは裏腹に母屋の床の修繕へと向かったのだった。



それから暫く、商業ギルドのマイトさんとルイードさんのご厚意で沢山用意して貰った木材のお陰で修繕は捗り早朝は二人で狩りに行き、午前中に俺は獲物の解体でナッツは薬草採集に出掛けて、二人でランチを挟んで、ナッツは毛皮の乾燥と薬草の乾燥に肉の保存処理を行い、俺は母屋で大工仕事に勤しむ毎日を過ごし一週間程で母屋の居間部分だけだが修繕が完了し、暖炉のある部屋に簡易的な木箱のベッドとテーブルを並べてワンルームマンションの様な状態まで持ってこれた。


他の部屋は冬の間に直すとして、町に行く事になっている予定迄の3日間は相棒二人全力で売れる物を集める事に専念することにし、翌日より自宅警備スキルをフル活用して獲物を探して狩って行くのだがレベルアップのお祝いの100ヒッキーポイントと、毎日の5ポイントが2週間分と前回の残りが15ポイントがあり、合わせて185ヒッキーポイント所持している。


『罠を追加するか?』


とも考えたが、今でも十分な獲物が手に入る…むしろ保管場所に困っているし、森から自宅に運搬するのと解体で大変な程だ。


そこで、家庭用保管倉庫の存在を思い出した俺は、マスタールームへ意識を飛ばして、ヒッキーちゃんに家庭用保管倉庫について質問すると、


「屋外に設置するタイプの木箱ですが、内部に(拡張)と(停滞)の効果が付与されて、大量の物が保管出来て時間の流れが極端に遅くなるために長期間の保存に最適です。」


と、教えてくれた。


これは絶対欲しいと思った俺は頭の中で交換までの算段をたてはじめる。


確か500ポイントで交換出来たから…1日5ポイントなので、あと300ポイントならば約2ヶ月…しかし、魔物を倒しまくればレベルアップのお祝いポイントも狙えるからと考えて今はポイントを使うのを我慢した。


ついでにヒッキーちゃんに、


「ねぇ、敷地内回収ってどんな効果?」


と聞くと、


「マスターの居る場所まで敷地内の指定した物を転移させます。

また、保管倉庫とリンクさせる事も可能でマスターは動かずに作物の収穫と保存も可能になります。」


と、説明してくれた。


『それは便利だ…森から獲物を運ばなくても良くなる!』


と理解した俺だったが、しかし敷地内回収も交換するには追加で300ポイント必要となる。


『まぁレベル上げを頑張るしかないな!』


と決めて、翌日ナッツと朝から脳内マップで獲物を感知して、罠をそいつの前後に設置して掛かるのを待ち、獲物が罠に足を取られたら槍を構えて突撃しては倒していく…

そんな狩りに明け暮れる日々を過ごし、ここに引っ越して来てから跳ね鹿を20頭と、穴堀り猪という下顎がシャクレているあまり可愛くない下の前歯が鋭い猪が2頭…あとは、ナッツが薬草採集のついでに倒した角の有るウサギのジャッカロープが20以上が手に入り、角や毛皮は勿論、食べき切れない程の肉が塩漬け状態で蓄えてある。


ナッツと相談したのだが、


「肉は毎日取れるから、一旦全部売ってしまおう!」


となり塩漬けの肉の樽を放出する事にして、追加でミックさんの迎えが来る朝に新鮮な獲物を狩って血抜きだけしてサイラスの町に運ぶ予定にした。


全部売れば、馬魔物ぐらい買えるだろう…多分…

もしも、足りなければミックさんが貸してくれるらしいし、ミックさんがミナミの方の帝王的な利子の金貸しでない限りは大丈夫だろう…しらんけど…

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