第12話 森での狩り
翌朝、まだ夜が開けきらない早朝にそれは起こった。
西の森の方から、
「キョォーー」
と、もの悲しい声が聞こえる。
ナッツは既に寝床から起きて黙々と狩の準備をはじめていて、俺はマスタールームで罠を確認すると確かに罠が作動したという知らせが届いており、メインモニターでカメラの映像を確認しようとすると夜の闇の中でも暗視モードがあるようで、くっきりと立派な角を持った鹿魔物が後ろ足をワイヤーで縛られ暴れているのが見えた。
「さっきの奇声はコイツか…お知らせの音声をオフにしてても鳴き声で起こされたら意味ないな…まぁ、家から近いから仕方ないか…」
などとボヤきながらマスタールームから出るが、端から見れば、
『やっと起きたよコイツ…』
ってなっていないかな?と心配になりナッツに、
「
と、少しマスタールームの辺りを強調して報告すると、
「う~ん…」と唸ったナッツは、
「キース様、日が昇るまで待ちましょう。
鹿魔物であれば私の片手剣では間合いが近いし、キース様の弓では鹿を絶命させるのに何発も必要になります。
明るくなってから、ひとしきり相手が暴れて疲れた所を倒しましょう」
と言いながら相棒はクレアママさんのくれた資料を鞄から出そうとゴソゴソしている。
確かに、まだ家の中も外も暗い…脳内の操作パネルに付属した時計には、『4:10』の文字が表示されているので俺も、
「そうしよう…」
と、その意見に賛成して、暖炉がわりにしている鍛冶屋の鍛冶釜戸に母屋から出た廃棄木材をくべて火を強くして体を少し温めながら俺達は朝を待った。
「流石に朝晩冷え込み始めたな…野宿だったら今頃は寒さで震えて居たかもな…」
と、俺が呟くとナッツがジャガイモを手に取り鍛冶釜戸の中の灰に直接埋めながら、
「そうですね…広場で焚き火を朝までしたとしても屋外ですから、どっちにしても寒いですもんね…」
と、言って薪をくべると火力が上がり明るくなった釜戸の近くで資料を確認しているナッツは、
「ありました。
(跳ね鹿)ですね…角と毛皮と魔石がまずまずの値で売れます。
肉は…干し肉にして冬支度にまわしましょう。
前にまわれば角を刺そうするし、後ろにまわれば自慢の脚力の餌食になるそうです…」
と、資料を読み上げてくれた。
俺が、
「トドメ用の槍とか要るね…
ナイフを木の棒に縛り付けたのでは刃渡りが短いし…」
と呟いているとナッツは、
「それ良いですね。無いよりはマシですし…」
と、手頃な木材を探している。
俺が、
「もう、木の先を削ったりとかしたらは?」
と、提案するとナッツは、
「う~ん、貫通力は有りそうですが刺し損じた場合は先がダメになりますので、ナイフ付きの棒で首筋を斬りつけて出血させた方が良さそうです…
やはり次回の買い物のリストに槍は入れるべきですね。」
と言いながら、手頃な木材にナイフを縛り付けていた。
なぜか、ナッツは狩などの場合の判断が正確だ。
以前、ウチの使用人をしながら剣の扱い方をどこで習ったのか?と聞くと、ナッツは、
「潰れましたが実家の方針で…少々…」
とだけ話してくれたのだ。
何だか本人も言いたく無さそうだったのでそれ以上は深く聞かなかった事があるのだが、たしかナッツがウチに来たのは七歳の時だっただろう…七歳で剣術って、もしかしたらナッツは何処かの騎士の家系かもしれないが、本人が言いたく無さそうだし俺としてもソレ自体は別に大したことでは無い。
『ナッツはナッツで、俺の大事な相棒だ…
それに、俺の前世の話も未だに言い出せないままでいるしね…』
などと考えながら俺が燃えている炎を眺めていると、ナッツが灰の中からジャガイモを取り出して、灰をパンパンと払ってから、
「焼けましたよ。」
と、差し出してくれた。
かなりワイルドな焼き芋だが、これが実に旨く日持ちもする野菜であり、春先になれば種芋として畑に植える事が出来る…今の状況では最高の味方で俺達の生命線となる作物なのだ。
有り難く頂いていると、ようやく辺りが明るくなってきたので俺は、
「そろそろ、鹿が疲れて動きが鈍ってるかな?…」
と言って立ち上がるとナッツも手製の槍を担いで、
「キース様、最初の一撃はキース様の弓攻撃でお願いします。私はその後に続きますので…」
と言って二人で自宅の石垣を出て西へ進む…
流石に森の中はまだ暗く、物陰から魔物が現れないか?と、ドキドキしながら俺は脳内マップを確認しつつ罠の場所を目指す。
そして、森の奥に朝日が差し込みはじめ目がなれた為に視界が開けてくるとモニターで見たあの立派な角のオス鹿が肉眼で確認できた。
肌寒い朝の空気の中で焦って暴れたのか白い息をモウモウと吐きながらも奴は、俺達の接近に気が付いたらしく再び暴れながら四方八方に跳ね回る。
するとワイヤーが「ビン!」と音を発てて張り、オス鹿をその場に留めてくれているがワイヤーが無ければ、ひとっ跳びで10メートル以上離れた俺達の所までたどり着く勢いに恐怖すら覚える。
俺は焦る気持ちを落ち着ける様に、
「いくぞ!」
と、ナッツと自分に向けて声を出し弓を構える。
ナッツが、
「いつでも!」
と返したのを聞いた瞬間、ビュンと弓が鳴き矢が鹿眉間を目掛けて放たれた。
しかし、オス鹿は頭を振り矢を弾き落としてしまう。
俺は、
「まだだ!!」
と、ナッツに告げて第二射を放つと、
「キョォーォォォ!」
と悲鳴の様な声をあげて左目に矢を受けて暴れるオス鹿にナッツが、
「行きます。」
と言って走り出す。
そして、視界を奪われた鹿の死角からナッツのお手製槍の一撃を受けて首筋から血飛沫をあげるオス鹿は尚も俺達を睨みながら跳ね回る…
しかし、二度三度と跳ねる度にそのジャンプは勢いを失い終には着地もままならずに倒れこんだのだった。
倒れて肩で息をしながら徐々に瞳から光りが消えはじめる鹿にナッツは、
「今、楽にしてやるからな…」
と片手剣を引き抜いてトドメを入れると森に静寂が広がり、鹿は俺達の生きる糧となったのだった。
すると俺の頭の中に、
『おめでとうございます。
レベル5になりましたので、お祝いポイント100ポイントが付与されます。』
とヒッキーちゃんのアナウンスが流れた。
『俺ってレベル5なんだな…』
と変な所に食いついてしまった俺がいたのだが、すぐに、
『レベルが上がる度にお祝いをしてくれるのかな?』
などと思いつつもナッツと二人で槍に使った木に仕留めた鹿の足をくくりつけて自宅までえっちらおっちらと担いで帰り、新鮮なうちに池から流れ出ている小川で血抜きをしてから解体をしていく。
この今世どころか、前世でもやったことのない大物の解体に悪戦苦闘したがジャッカロープ等である程度馴れているので、なんとか毛皮などの素材と肉に分けることが出来きて、クレアママさんの資料の通りに木材に毛皮を打ち付けて縮まないように処理をしてから石垣の影に干しておいた。
肉は今日食べる分は切り分けて、残りは塩をすり込み水分を抜いてから塩漬け肉や干し肉にする。
将来的には燻製小屋を作れば燻製肉も作れるだろう…
干し肉などの手順もクレアママさんの資料に書いてあるので問題ないし本当にクレアママさんには感謝しかない。
男二人で鹿一頭では冬は越せないだろうが…しかし誤算だったのは保存の為にこんなに塩を使うとは思わなかった。
槍に続いて塩も購入リスト書いておかなければならないな…とジワジワと足りない物が目立つ生活に、なかなか進まない母屋の修繕の続きへと、
「おしっ!やるか!!」
と、気合いを入れて向かい、
『このペースで行けば、いつになったらベッドで眠れるかな?』
と、先の見えない作業に少し滅入る気持ちを抱えながらも、俺はまずはベッドを乗せる予定の床を張る段取りに取りかかるのだった。
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