第11話 はじめてのポイント交換


その日の夜ナッツと相談した結果、スキルの範囲を広げて侵入者用の罠で魔物が捕れないかな?という事になり、明日周辺の確認をして獲物が居そうな方向に自宅警備スキルを広げる事にした。


当面は二人で鍛冶屋の作業場で寝ることにしたのだが、ベッド等の家具も無い為に野宿とあまり変わらない寝心地のはずなのだが、しかし屋根や壁が有るということはテントとは比べ物にならない安心感があり、二人とも初日で少しハリキリ過ぎたことも手伝って翌朝は少し寝過ごしてしまった。


朝から火をおこすのも大変なのでナッツと保存食の干し肉と乾パンをかじりながら、


『せめて自分達でパンくらい焼ける様にならないとな…』


などと考えながらも俺は脳内のマップで自宅を確認すると、昨日の燻煙作業が効いたのか俺とナッツと庭の周辺に生命反応が幾つかあるだけになっている。


よしよし…果樹園コーナーの反応はギロちんと、多分草引きをして地面をひっくり返したから、草の種やらミミズ系の魔物やらを狙った小型の鳥魔物だろうし、あとは反応なしだな…うん、順調、順調!と、俺は敷地内の安全確認をしながらナッツに、


「今日は何をする?」


と聞くと相棒は、


「午前中に見回りを済ましてしまいましょう。

出来ればジャッカロープぐらい狩ってお肉が食べたいですし、納入出来るモノを採集もしたいですね。」


というので二人で探索に出かけようとしたのだが、俺はとある事を思い出したのだ、


「ナッツ、少し待ってくれるかな?

24時間経たないとヒッキーちゃんがポイントくれないから。」


と言ってナッツと時間潰しがてら畑の開墾作業の続きをすること約一時間、


『ピロリン、ヒッキーポイントが付与されました。』


と、頭の中にヒッキーちゃんの声が響いたので、さっそくポイントを確認すると305ポイントになっていた。


『むむっ、1ポイント多くないか?』


と思った俺は目をつむりマスタールームでヒッキーちゃんに、


「もらったポイントだけど、俺が3ポイントとナッツが一人分の1ポイントだから4ポイントの増加じゃないの?」


と、モニターに向かって語りかけてみた。


すると、


「お答えします。現在マスターの滞在ポイントが3ポイントで、追加の家族ポイントがナッツ様とギロちん様の二名分の2ポイントです。」


と、声が聞こえてきた。


『えっ、幼虫も加算されるの?』


と驚きながらも、


「人じゃ無くてもいいの?」


と俺が聞くと、


「マスターの記憶でペットは家族とありましたし、家族設定されましたので問題無くポイント対象にカウントされております。

しかし、現在のマスターのレベルではあと1枠しか家族が設定できませんのでご注意下さい。」


と言われた。


まぁ、貰えるのなら有り難く貰うけど…と思いつつ俺が、


「レベルが上がると枠が増えるの?」


とヒッキーちゃんに質問すると、


「はい、マスター。

マスターのレベルが一定以上になりますと、付与のされるポイント量も上がり、交換出来るシステムも強化されたモノを選択出来る様になります。

また、マスターのレベルアップ時には追加のヒッキーポイントが付与されます。」


と教えてくれた所で遠くから、


「キース様、そろそろ出掛けませんか?」


とナッツの呼ぶ声がしてきたので、マスタールームから退出したのだが端から見れば俺はうたた寝から覚めただけで、


『何ともグウタラに見えているんだろうな…』


と、少し気分が下がる。


しかし、凹んでばかりも居られないので気を取り直して探索に向かうのだが、自宅の石垣から外に出る瞬間に、


『お気をつけて、いってらっしゃいませ。』


と、頭の中に響いた。


『う~ん、電子音声風で無ければ女性に見送ってもらう感じがして少しテンションが上がったかも知れないのに…』


と残念に思いながら、俺はナッツと自宅周辺を巡ったのだった。


ざっくり説明すると自宅の周辺は幾つかのエリアに分かれていた。


自宅の南の方にはサイラスの町の北側と同じ草原エリアに町迄の道と川が流れていて、東には川の上流にあたる池や水辺のエリアが広がり、西には遠くまで続く森のエリアで、北側には、手前は西と同じ様な森のエリアだが徐々に山のエリアになり岩場が続くといった感じである。


ナッツが、


「南の辺りはサイラスの北門と似ている感じですので薬草が採集できそうですね。

ライバルも草食魔物だけですので取り放題ですよ。」


と言っていたし、東のエリアにある池を覗き込むと魚影が見えたので、


『絶対釣りをする!!』


と、ウキウキしながら俺は心に誓った。


自宅周辺の森には沢山の獲物が居るようで、ジャッカロープだけではなくて鹿の魔物も呑気に草を食べていた。


知っている木の実は拾って帰ることにしたのだが、問題は旨そうな見た目のキノコだ…

いくら幼い頃から本の虫みたいな生活をしていても、写真ではなくて挿し絵と説明文だけでキノコの種類を判断できる訳がない。


キノコ鍋は憧れるが、こんな人里離れた場所で状態異常になるのはマズイと判断して俺は泣く泣くキノコは諦める事にした。


北の森も似たような感じだったが、その向こうの山の岩場では鉱石資源も手に入るとマイトさんが言っていたし、確かに鍛冶屋さんを開くぐらいだから素材は沢山採掘出来たのだろう。


しかし、鉱物資源は重たいし純度を上げる方法も解らないから荷馬車が手に入るまでパスだな…売りに行くのも大変だし鉱石を行商人さんに売ったとしても単価の安い鉱石で場所を取るぐらいならば、さっきの鹿の毛皮や魔石の方が高そうだ。


という結果となりナッツと改めて相談して自宅の門を出て西の森の方向に範囲拡大で敷地を広げる事にした。


範囲拡大は面積にして1ヘクタール(100m × 100m)分をマスタールームのモニターに地図を出して指定するのだが森の入り口辺りを縦横百メートルにするよりは、横幅を半分の50メートルにして森の奥へ200メートルを範囲に指定した。


「これで200ヒッキーポイント使用」


そして監視カメラを1つ増設して、


「これで30ヒッキーポイント使用」


最後に、鹿も捕獲できるであろう(くくり罠)を2つ引き換える。


「これで30ヒッキーポイント×2使用」


そしてこの罠はあくまでもスキルの為に、設置や解除も自由自在で、なんと俺の記憶を使っているらしく、この世界に存在するかも解らないワイヤーが使われている為にちょっとやそっとでは切られる心配はない。


そして、罠と罠の中間辺りに監視カメラを設定すれば自宅に居ながらアングルを変えるだけで二ヶ所の罠も確認が出来る様になる。


もう1つの監視カメラは石垣の上部に設定しておいて、自宅までの道を確認する用にする事に話し合いで決まったのだがナッツが、


「果樹園の見守り用に1つお願いします。」


とお願いされた。


しかし、今から冬に向けて鳥魔物に食べられる実も無いのでナッツには一旦我慢してもらい、これで残るヒッキーポイントは15…出来る事も無さそうなので、


『今回は、このへんで許してやるか!』


と、はじめてのポイント交換を終了したのだった。


その後、マスタールームで罠とカメラを地図で指定し森のエリアの感知の設定を変えて、通知音声をオフにし脳内ディスプレイに赤いランプが点るだけにした。


『夜に森エリアを生き物が動きまわる度にピンポン、ピンポンと無機質なヒッキーちゃんの声がすると眠れないからね…』


しかし、森エリアを敷地にした結果俺のスキルが凄い事が解った。


感知機能で獲物の場所が解るし、観察機能で何の魔物かも解る…

つまりピンポイントで狩りたい獲物の通り道に罠を配置出来るのだ。


しかも、いつでも罠を設置出来るので獲物を見つけてから罠をソイツの足元に仕掛ける事も可能なのである…ズルい…ズル過ぎる。


そして、敷地指定した森エリアをウロウロしても自宅の敷地にカウントされるので、掛かった獲物を倒しに行ってもエリアからはみ出さなければ24時間の滞在ヒッキーポイントのカウントが止まらないのだ。


フッフッフ、これは罠にかかるのが楽しみだな…と思いながら俺は家の修繕に向かうのだった。

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